WEリーグ・大宮が下位脱却。ゲームメーカーの復帰、エースの今季初ゴールが導いた6試合ぶりの勝利
【流れを作った2人のアタッカー】
6試合ぶりの勝ち点3。頼れるベテラン選手の復帰と、エースの今季初ゴール。未勝利のスタジアムでの初勝利――。下位脱却への、大きな一歩だった。
長野Uスタジアムで行われたWEリーグ第10節。井上綾香の2ゴールで2-1と勝利した大宮は、8位から5位に浮上している。
今季、廣瀬龍監督の下で「走る」チームに変貌した長野は、ホームで11試合負けなしと強く、大宮にとっては、WEリーグで過去2シーズン未勝利という、相性の悪い相手でもあった。
その中で勝利への流れを作ったのが、大宮の柳井里奈監督が前線に配した2人のアタッカーだった。
一人は上辻佑実だ。鮫島彩、有吉佐織とともに高い経験値を誇る“87年(生まれ)組”で、精度の高いキックと視野の広さを武器とするゲームメーカーを、1.5列目に抜擢。ケガのリハビリが続いていた上辻は、この試合が約半年ぶりの公式戦復帰となった。
「悔しく、もどかしいリハビリを経て戻ってきてくれました。長野さんに前から(プレッシャーを)かけられたときに、前線で落ち着きを持たせてほしいということと、守備のところでは井上(綾香)との相性がいいので、そこも含めて起用させていただきました」(柳井監督)
その狙いはズバリ的中。攻撃面では上辻が前線でボールを収めて時間を作り、パスコースを増やしていく。出場は前半の45分間にとどまったが、上辻の周囲だけ時間の流れが緩やかになったように感じるほど、存在感は絶大だった。長野の廣瀬監督も、「予想していたメンバーではなくて経験値の高い選手が多く、選手のタイプや特徴などの分析ができていなかった」と、その対応に手を焼いたことを明かしている。
【待望の今季初ゴール】
その上辻とのコンビで輝きを放ったもう一人のヒロインが井上だ。WEリーグ1年目は6ゴールで得点ランキング7位(タイ)、2年目の昨季は8ゴールで同6位(タイ)と、コンスタントに決めてきた大宮のエース。だが、今季はゴールから見放され、若手選手や新加入選手の台頭もあって直近の2試合は先発を外れていた。昨年12月には、「1点取れたら、もっとゴールを取れそうな感覚が自分の中にあります」と力強い口調で語り、変わらず2桁得点の目標を掲げていただけに、苦しい時間が続いていたのだろう。
だが、3試合ぶりに先発に復帰したこの試合で、立ち上がりから力を見せつけた。
前半2分、カウンターから船木里奈のパスを受けてスペースに抜け出すと、スピードを落とさず、長野のDF岩下胡桃とGK伊藤有里彩のアプローチをかわして鮮やかにフィニッシュ。
「焦りもすごくあったし、これまで(シュート)チャンスも多くあったわけではなかったので、正直ホッとしています。背後を狙い続けるのは自分の特徴なので、1点目はまさにそれがはまったと思います」
百折不撓の精神で狙い続けた今季初ゴールを、井上は嬉しそうに振り返っている。また、ファーストディフェンダーとしてもスキルの高さを見せ、53分には相手のバックパスを奪い、GKの頭上を抜く技ありループシュートでリードを広げた。
後半は選手交代でサイドを活性化した長野に押し込まれ、89分には稲村雪乃にPKを決められて1点差と迫られる。だが、最後は鮫島、有吉、乗松瑠華、長嶋洸という百戦錬磨の4バックを中心に、リードを守り抜いた。
柳井監督は試合後、「素直なところ、『いの(井上)、遅いよ〜、もっと早く点を取ってくれよ』という思いですが」と冗談混じりに笑い、こう続けた。
「ここ何試合かスターティングメンバーを外れても、紅白戦でも途中からゲームに入った時も、悔しさを表現してくれていました。しっかり結果を出してくれた私たちのエースを頼もしいなと思います」
【WEリーグはここから佳境へ】
今季、大宮はリードした試合で負けておらず、「試合の締めかた」を知る経験値の高い選手は複数いる。その意味でも、やはり先制点が持つ意味は大きい。
一方、試合全体を振り返ると、課題もまだ少なくないようだ。キャプテンの乗松は、「自分たちがやりたいことができたかと言ったら反省点の多い試合でした。ただ、勝って課題を修正できるというのが今日の成果だと思います」と、中3日で迎える次節に目を向けた。
次節は、3月20日にホームのNACK5スタジアム大宮に東京NBを迎える。勝ち点差は「2」。今季、ホームでの戦績は1勝3敗(アウェーは3勝1敗2分)と勝率が良くないが、その流れも覆したい一戦だ。
一方、「3強」の座を維持してきた東京NBとしても、優勝争いから振り落とされないためには絶対に負けられない一戦となる。
WEリーグは残り12節。現在、トップ3は連勝中のINAC神戸、浦和、新潟が激しい順位争いを繰り広げており、優勝争い、中位争いも、ここから佳境を迎える。