親子も若い人も楽しめる・政治のおしゃべりがしやすい選挙空間を
9月11日はノルウェーで統一地方選挙が開催される。投票日の約1か月ほど前になると、首都オスロの各地では各政党がスタンドを立てる「選挙小屋」という空間が出現する。
市民は選挙小屋に立ち寄り、気になっていた質問をしたり、各政党を順番に回って公約パンフレットをもらったり、重要な政策は何か、「連立する可能性のある他政党はどこか」などを聞くのだ。
選挙小屋には各党の工夫が散りばめられている。子どもを連れた親が立ち寄るのも当たり前なので、親が政党と話している間、子どもが遊べるような遊び道具や子どもが喜ぶ飲食も無料提供されている。
小学校から高校では社会科の課題として、生徒たちが選挙小屋を訪問して政治の質問をしたりもする。
だから、選挙小屋には驚くほど多くの子どもや若者が多く訪れる。
政党はこの世代も楽しんで時間を過ごしてもらえるように、政党への印象がよくなるような工夫をしたくなるわけだ。
今年は例えば「ダーツ」を置いている政党が複数ある。ただ、ダーツで遊びたい人もいるし、ダーツで的を狙うことができると、特別に何かもらえたりする。
左派社会党の選挙小屋には、政党のロゴが入ったキャラメル味のお菓子があるのが定番だ。実はこの党のキャラメル味の飴は、単に美味しい。美味しいということを知っている市民は多いので、手でわしづかみにして何個ももらう人もいる。「お、左派社会政党のキャラメルだ!」と笑顔でもらって去ってい行く若者も多い。
キャラメルをもらったついでに政治のおしゃべりを始める人もいるが、もらって去っていく人も結構いる。もう他の政党に事前投票した人もいるだろうし、この党を支持しない人ももちろんいるが、単にキャラメルは美味しいのでもらっていく。これはどの選挙小屋でも毎年見られる光景だ。
何かを無料で挙げたからといって1票につながるほど市民はバカではない。それはみんなわかっていることなので、無料配布は問題にならない。
ジュースやお菓子は、選挙小屋にあったほうがいいとも筆者は思う。
なぜなら、単に政治のおしゃべりを一生懸命していると、喉も乾くし、甘いものがあったほうがいいからだ。
カフェやミーティングで何かを熱心に話している時にお茶やコーヒーが手元にあったほうがいいのと同じ感覚だ。目の前にコーヒーが無料で差し出されたからといって、打ち合わせや会議で妥協などしないだろう。
それに親が政治の質問を政党にしたい時に、隣にいる子どもがお絵かきをしたり、バナナを食べたり、遊べる空間があったほうが助かるのも想像しやすいだろう。
選挙小屋ではお絵かきできるテーブルが用意され、ジュースがあり、おむつ替えをする台を用意する政党まであれば、手品をするスタッフがいたり、シャボン玉や風船をもらえたりする。
選挙小屋では複数の政党バッジも無料配布されている。価値観などがデザインされたバッジを単に集めてカバンや服につけて楽しんでいる小学生や中学生の男子の姿は珍しいものでもない。
日本ではなにかを無料配布することは難しい。それでももっと親と一緒にいる子どもや、まだ有権者ではないけれど政党と話をしてみたい若者が「いやすい」「たのしい」と思える空間づくりが必要なのではないだろうか。
選挙小屋とは有権者や支持者のためだけの空間ではないのだ。
北欧で選挙期間中に笑顔の人が多い理由、選挙小屋の空間が民主主義の象徴といわれる背景にはなにがあるか?そのひとつには、誰もが立ち入りやすい工夫を、政党が選挙のたびに頭をひねって考える「当たり前」がある。
Photo&Text: Asaki Abumi