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親子も若い人も楽しめる・政治のおしゃべりがしやすい選挙空間を

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
子どもの遊び場となっている緑の環境党の選挙小屋 筆者撮影

9月11日はノルウェーで統一地方選挙が開催される。投票日の約1か月ほど前になると、首都オスロの各地では各政党がスタンドを立てる「選挙小屋」という空間が出現する。

カール・ヨハン通りにある保守党の選挙小屋 筆者撮影
カール・ヨハン通りにある保守党の選挙小屋 筆者撮影

市民は選挙小屋に立ち寄り、気になっていた質問をしたり、各政党を順番に回って公約パンフレットをもらったり、重要な政策は何か、「連立する可能性のある他政党はどこか」などを聞くのだ。

各政党のパンフレットと立候補者名簿にもなっている投票用紙は選挙小屋でもらえる 筆者撮影
各政党のパンフレットと立候補者名簿にもなっている投票用紙は選挙小屋でもらえる 筆者撮影

左派社会党の選挙小屋で無料配布されるバナナやキャラメル飴 筆者撮影
左派社会党の選挙小屋で無料配布されるバナナやキャラメル飴 筆者撮影

選挙小屋には各党の工夫が散りばめられている。子どもを連れた親が立ち寄るのも当たり前なので、親が政党と話している間、子どもが遊べるような遊び道具や子どもが喜ぶ飲食も無料提供されている。

小学校から高校では社会科の課題として、生徒たちが選挙小屋を訪問して政治の質問をしたりもする。

だから、選挙小屋には驚くほど多くの子どもや若者が多く訪れる。

政党はこの世代も楽しんで時間を過ごしてもらえるように、政党への印象がよくなるような工夫をしたくなるわけだ。

今年は例えば「ダーツ」を置いている政党が複数ある。ただ、ダーツで遊びたい人もいるし、ダーツで的を狙うことができると、特別に何かもらえたりする。

保守党のダーツ、保守党カラーである青色で止められると水がもらえる 筆者撮影
保守党のダーツ、保守党カラーである青色で止められると水がもらえる 筆者撮影

保守党が配る水。「みんなに可能性を。良い選挙を!」とオスロのトップ候補の顔写真 筆者撮影
保守党が配る水。「みんなに可能性を。良い選挙を!」とオスロのトップ候補の顔写真 筆者撮影

キリスト教民主党のダーツ 筆者撮影
キリスト教民主党のダーツ 筆者撮影

左派社会党の選挙小屋には、政党のロゴが入ったキャラメル味のお菓子があるのが定番だ。実はこの党のキャラメル味の飴は、単に美味しい。美味しいということを知っている市民は多いので、手でわしづかみにして何個ももらう人もいる。「お、左派社会政党のキャラメルだ!」と笑顔でもらって去ってい行く若者も多い。

毎年定番の左派社会党のキャラメル味飴 筆者もいくつかもらい、バックにしのばせて、疲れた時に食べている 筆者撮影
毎年定番の左派社会党のキャラメル味飴 筆者もいくつかもらい、バックにしのばせて、疲れた時に食べている 筆者撮影

キャラメルをもらったついでに政治のおしゃべりを始める人もいるが、もらって去っていく人も結構いる。もう他の政党に事前投票した人もいるだろうし、この党を支持しない人ももちろんいるが、単にキャラメルは美味しいのでもらっていく。これはどの選挙小屋でも毎年見られる光景だ。

自由党の選挙小屋の前では電動の自転車をこぎながら党員が市民とおしゃべりしている。若い党員も選挙活動に飽きないように、ただ立って話すだけよりも自転車を漕いでいるほうが楽しかったりする 筆者撮影
自由党の選挙小屋の前では電動の自転車をこぎながら党員が市民とおしゃべりしている。若い党員も選挙活動に飽きないように、ただ立って話すだけよりも自転車を漕いでいるほうが楽しかったりする 筆者撮影

何かを無料で挙げたからといって1票につながるほど市民はバカではない。それはみんなわかっていることなので、無料配布は問題にならない。

キリスト教民主党の選挙小屋に合ったワッフル屋台。あとでワッフルを作るのだろう 筆者撮影
キリスト教民主党の選挙小屋に合ったワッフル屋台。あとでワッフルを作るのだろう 筆者撮影

ジュースやお菓子は、選挙小屋にあったほうがいいとも筆者は思う。

なぜなら、単に政治のおしゃべりを一生懸命していると、喉も乾くし、甘いものがあったほうがいいからだ。

カフェやミーティングで何かを熱心に話している時にお茶やコーヒーが手元にあったほうがいいのと同じ感覚だ。目の前にコーヒーが無料で差し出されたからといって、打ち合わせや会議で妥協などしないだろう。

筆者撮影
筆者撮影

それに親が政治の質問を政党にしたい時に、隣にいる子どもがお絵かきをしたり、バナナを食べたり、遊べる空間があったほうが助かるのも想像しやすいだろう。

選挙小屋ではお絵かきできるテーブルが用意され、ジュースがあり、おむつ替えをする台を用意する政党まであれば、手品をするスタッフがいたり、シャボン玉や風船をもらえたりする。

自由党の選挙小屋。小さいサイズの公約冊子、バッジ、飴 筆者撮影
自由党の選挙小屋。小さいサイズの公約冊子、バッジ、飴 筆者撮影

選挙小屋では複数の政党バッジも無料配布されている。価値観などがデザインされたバッジを単に集めてカバンや服につけて楽しんでいる小学生や中学生の男子の姿は珍しいものでもない。

日本ではなにかを無料配布することは難しい。それでももっと親と一緒にいる子どもや、まだ有権者ではないけれど政党と話をしてみたい若者が「いやすい」「たのしい」と思える空間づくりが必要なのではないだろうか。

選挙小屋とは有権者や支持者のためだけの空間ではないのだ。

筆者撮影
筆者撮影

北欧で選挙期間中に笑顔の人が多い理由、選挙小屋の空間が民主主義の象徴といわれる背景にはなにがあるか?そのひとつには、誰もが立ち入りやすい工夫を、政党が選挙のたびに頭をひねって考える「当たり前」がある。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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