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【世界史】さながらトランプのジョーカー!ときに王国の命運をも左右した切り札『宮廷道化師』とは何者か?

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

ときは14世紀、フランスを統治する王国の玉座の間。そこには沈痛な面持ちの大臣や将軍たちが、集まっていました。

海の覇権をめぐってイングランドと一大決戦に臨むも、自国の艦隊が大敗(※スロイスの海戦)。

これから、それを王様に報告しなければならないのです。

だれしも成果のあることならともかく、大失態を告げるとなれば、たいへん気が重いものです。

そしていよいよ、王のフィリップ6世のお出まし。しかしその直後に1人の道化師がささっと現れ、やけに明るい口調で言いました。

「やあやあ皆さんおそろいで、ごきげんいかがですかー?」

その態度は、今風にいえば完全に空気を読んでいません。

「そうそう、ぼく聞きましたよー。海軍のみんな、こてんぱんにされて、船から飛びおりたんですって、あはは」

※イメージ
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しかも王国の一大事をネタに、軽口をたたき始めました。

「でもでも王様、ご安心を。生身で海に飛び込むなんて、フランス軍の勇気が証明されたじゃありませんか!」

・・この態度、王はどれほど激怒するかと思いきや、フィリップ6世は苦々しい顔をしながらも言いました。「う、ううむ・・。いまは立て直しを考えるより、仕方あるまい」

感情を爆発させることなく、先々に向けて冷静な振る舞いを見せたのです。それにしても、この道化師はなぜ王から無礼をとがめられたり、刑罰を喰らったりしないのでしょうか。

ジョーカーは邪魔者か?切り札か?

このフィリップ6世に軽口をたたいていたのは、宮廷道化師(きゅうていどうけし)。いわば王室のお抱えであり、たとえ王様のように身分の高い人物の前でも、とくべつに自由な振る舞いが許されていたのです。

そしてこのフランス王国の道化師は、おどけて何も分かっていない振りをして、じつは相当な切れ者であったと思われます。

一大決戦で大敗と、そのままでは叱責や責任のなすりつけ合いが起こり、内部で瓦解しかねない事態。それを「あいつが言うなら仕方がない」と、文字通り“道化”を演じることで緩衝材となり、場をうまく収めてしまいました。

こうした宮廷道化師は、ときに重要な外交関係をも左右することがあったと言います。他国の権力者にも「ほら、うちの王様も立場があるからさ。ほんとうは君と仲良くしたいんだよー」などと言い、対立の回避や交渉の進展を、陰ながら促していたのかも知れません。

平時であれば、ふざけた雰囲気の人間は邪魔者になりかねませんが、ここぞという場面では一発逆転の鍵に。

ちなみにトランプのジョーカーも“ババ抜き”では手放したい札ですが、他のゲームでは最強の1枚であったり、他のどんな札にもなり替わる“切り札”となります。

なお実際によく見かけるトランプのデザインは、だれが創作したのかは分からず、宮廷道化師との関連性は不明です。しかし、両者には大きな共通点を感じずにはいられません。

今の世も持っておくべきジョーカー

さて、歴史上の宮廷道化師たちは、その自由な立場を利用し、しばしば権力者に過ちを気づかせる役割りを担いました。

「いやー、あの政策はまずかったよね。もう、みんな怒っちゃってるよー?」などと、だれも言えないような意見を公言。

かつて英国では、宮廷道化師があまりに厳しく批判をするので、女王のエリザベス1世が「お主なあ、もう少し遠慮をせぬか」と、こぼしたエピソードが存在するほどです。

しかし、たとえピエロの格好をしていなくても、こうした存在は現代のあらゆる組織にとって、必要かも知れません。

国にしても企業にしても、その規模が大きくなりトップの力が強まるほど、だれも意見できない状況が生まれがちです。

だからこそ言うべきことは言える、まさにジョーカーのような存在は、組織が健全性を保つために、重要な存在となります。

宮廷道化師は過去の人々が考えた、ひとつの知恵の形なのかも知れません。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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