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豪腕・西山朋佳女流三冠、NHK杯1回戦で受け師・木村一基九段に勝利 2回戦は藤井聡太七冠と対戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月23日。第74回NHK杯テレビ将棋トーナメント1回戦、木村一基九段-西山朋佳女流三冠戦が放映されました。棋譜は公式ページをにアップされています。

 結果は153手で西山女流三冠の勝ちとなりました。2回戦では藤井聡太七冠(前期準優勝者)と対戦します。

 NHK杯で棋士のタイトル保持者と女流棋士が当たるのは2004年度3回戦・佐藤康光棋聖-中井広恵女流二冠戦以来となります。(肩書はいずれも当時)

 西山女流三冠の一般公式戦における直近の成績は12勝7敗(勝率0.632)となりました。(毎日新聞の報道によればNHK杯1回戦の収録は5月20日収録)

 7月4日の朝日杯一次予選1回戦・阿部光瑠七段戦に勝てば、13勝7敗(勝率0.650)。規定により、棋士編入試験の受験資格を獲得できます。

西山女流三冠、大きな勝利

 木村九段と西山女流三冠は、練習対局をする間柄でした。公式戦での対戦は初めてとなります。

 対局開始前、両者は次のように語っていました。

木村「(西山女流三冠は)昔から鋭さが目立つかなという印象を持っておりましたが、最近は特に序盤とかも研究が行き届いていて、充実しているなということを感じさせられます。積極性で負けずにがんばっていきたいと思います。せいいっぱい力が出せるように努めたいと思います」

西山「(木村九段は)長く将棋を教えていただいていた先生で、本当に尊敬の気持ちがありますが、こういった舞台で対局できることを、うれしく思っております。中終盤で特に力を発揮される先生という印象がありますので、そういったところでリードを奪われないように、自分なりにせいいっぱいがんばって参りたいと思います」

 振り飛車党の西山女流三冠。本局では三間飛車に振りました。対して居飛車党の木村九段は左美濃に構えています。そして序盤の駆け引きのあと、穴熊へと組み替えました。

西山「中盤でけっこう、膠着状態になって。どちらが手を作れるかという状況で、少し自信がやっぱり、囲いの差で、なかったんですけれど。実戦的な手を選んでたつもりでした」

 木村九段は遠く堅い穴熊が残ったまま攻める理想的な展開。しかし西山女流三冠も粘り強く応じて決め手を与えません。

木村「(98手目、飛金両取りに)△5五桂打つあたりで、もっと早く、というか、もっとよくしなくちゃいけなかったなという思いはありますが。ちょっと具体的なのがわからずに焦ったというところですかね」

 西山女流三冠は陣形が薄くなったものの、攻め合いに出て形勢は混沌としていきます。

西山「(103手目、金取りに)▲4四桂と打ったあたりで、攻め合いになっていたので、好転しているのを少し感じていました」

 そしてついに形勢は逆転。西山女流三冠が優位に立ちました。

木村「序盤、中盤は、これならという感じだったんですけど。ちょっと終盤でミスが目立ったかなという感じでした」

 最後、木村九段は西山陣の駒を取って形を作ります。対して西山女流三冠は木村玉に王手をかけました。これで詰んでいます。

 木村九段は作法通り駒台に手を伸ばし「負けました」と一礼。西山女流三冠は少し後ろに身を引いたあと、「ありがとうございました」と一礼を返しました。

 終局直後、両対局者は小声で言葉をかわします。

西山「(盤上を指差しながら)こっちわかってなかったです」

木村「そっちか・・・。いやあ、そうでしたね・・・。だいぶうまくいったと思ってたんだ」

 木村九段は少し悔しそうではありましたが、穏やかな表情で対局を振り返っていました。

 強敵を破った西山女流三冠。2回戦で藤井七冠と公式戦初の対局に臨みます。

西山「現在、序列1位の先生と指せるということで、いい内容の将棋を求めてがんばりたいなと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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