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アラブ諸国でバズっているシラク元大統領のブチギレシーン

プラド夏樹パリ在住ライター
感じが良いことで人気があったが、ブチギレすることも多かった。(写真:ロイター/アフロ)

「記憶に残る業績はアメリカ主導のイラク戦争に反対表明したこと」が71%

9月30日、ジャック・シラク元大統領の国葬がサン・シュルピス教会で行われた。前日のLe Journal du dimanche 紙では、「歴代大統領で誰が一番良い大統領だったと思いますか」という質問に対する統計が発表されたが、トップはド・ゴール元大統領とシラク元大統領だった。

私はミッテラン元大統領の時代にフランスに来たのだが、彼は3位で17%でしかない。インテリで、高飛車なところもあったミッテラン元大統領に対する国民の感情は賛美、シラク元大統領に対する気持ちは「親しみやすさ」だったというところだろうか。

同紙は「シラク元大統領のどのような点を記憶していますか?」という質問に対する上位2点の答えは

人生を謳歌する感じ良い人物:31%

現場を自分の足で歩いて理解している国民に近しい政治家:27%

「記憶に残る業績は」は「2003年に開始されたアメリカ主導のイラク戦争に反対表明したこと:71%」でダントツに一位だった。

同時に、シラク元大統領(以下、元大統領)はキレる時には辺り構わずブチギレする人だった。その「裏表がない人」という印象、そこが国民の人気を集めたというのもあるかもしれない。

緊張高まるエルサレムで「自分の足で歩きたい」

たとえば、1996年10月22日にイスラエルを訪問した時のことだ。1年前にイザック・ラビン首相が銃撃され、パレスチナではヤーセル・アラファト氏がパレスチナ自治政府初代議長に選出されたばかりで緊張が高まっていた。

先月27日に発信されたLe Point 紙電子版によれば、元大統領がエルサレム旧市街を訪問するにあたって、イスラエル側が用意した装甲車に乗ることを拒否、「自分の足で歩きたい」と言ったらしい。同行したパレスチナ自治政府駐仏代表部長(当時)のライラ・シャイッド氏によれば、「あの当時、旧市街を歩くなんて、そんな勇気がある外国の政治家は彼だけだった」と言う。

ところが、元大統領がパレスチナ自治政府アラファト議長(当時)と親しかったことから、市場で握手をしたがるパレスチナ人が押し寄せ、護衛隊と揉み合うことになってしまった。

その時、元大統領は護衛隊に対して英語で「何がまた問題なんだい?うんざりしてきたよ。どうしろっていうんだ?フランスに帰れっていうのか!そうすれば君たちは満足なのかい?彼ら(パレスチナ人)が私に近づきたいならそれでいいじゃないか、放っておきなさい。危険なことは何もない、問題ない。これでは護衛ではなくて、挑発。今すぐやめてくれ!」と怒りを爆発させた。(下記の動画の39秒から)

エルサレムには聖アンナ教会があるが、ここでも激怒。同教会はフランス所有のこともあるが、護衛のために武器を持って中に入っていたイスラエル軍の兵隊たちに「教会の中に武器を持って入るとはなにごと!今すぐ、出てください。あなたたちが出るまで私は中にはいりません。いくらでも待ちます」

上記のビデオが、元大統領が亡くなって以来、アラブ諸国のSNSで多く発信されているそうだ。親日家というだけではなく、親アラブ諸国派としても人気が高かったのだ。ちなみに、アラファト議長(当時)は、2004年、ラマラーのパレスチナ自治政府議長府でイスラエル軍に軟禁されていた間に体調を崩したが、元大統領の計らいでフランスで入院し、その後、パリ近郊で亡くなった。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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