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「トランプ時代の終焉」告げた首都暴動 盟友も離反 退任後の影響力低下は避けられず

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

米議会がバイデン氏を次期大統領に選出する手続きに入った6日、トランプ大統領の支持者が大挙して連邦議会の建物内に押し入り一時建物を占拠した事件を受け、トランプ氏への批判がかつてない勢いで高まっている。盟友の共和党議員や支持基盤の経済団体も強い調子で大統領を批判しており、退任後も政治的影響力の維持を狙うトランプ氏自身への打撃となるのは必至だ。

まるでテロ攻撃

米メディアは、大勢のトランプ支持者が議会の建物の外で警官隊と小競り合いを続ける映像や、支持者の一部が建物の窓ガラスを割ったり外壁をよじ登ったりして議会内に突入しようとする動画を次々と放映。本会議場内にいた議員があわてて避難する姿や、2階席で傍聴していた市民が異変を察知してイスの間に身を伏せる姿も映し出されるなど、まるでテロ事件を思わせるような生々しい映像が、テレビやインターネット、SNSを通じ繰り返し流れた。

トランプ支持者の男性が、民主党のペロシ下院議長の部屋に侵入し、足を机の上に投げ出してイスに座っている姿もツイッターに投稿された。また、トランプ支持者の女性が銃で撃たれ、病院に搬送されたが、その後、死亡が確認された。首都ワシントンのバウザー市長は戒厳令を発令し、命令を破って外出した者は逮捕されると警告した。

国権の最高機関である連邦議会の建物が議会の開催中に武力で押し入られ占拠されたことを受け、米国内ではトランプ大統領への批判がかつてなく高まっている。「プラウドボーイズ」など過激な右翼組織を含むトランプ支持者がこの日、全国各地から首都に集結したのは、トランプ氏が、バイデン氏を大統領に選出しようとしている議会に直接抗議するよう呼び掛けたからだ。トランプ氏は呼び掛けの中で、6日の抗議活動は「ワイルドなものになる」と、暴動を煽るかのような発言もしていた。

大統領は「身勝手な男」

6日夜、選出手続き再開後に本会議場で演説した共和党の重鎮、ロムニー上院議員は、「われわれが今日ここに集まっているのは、(大統領選の敗北で)プライドを傷つけられた身勝手な男と、その男によってこの2カ月間、誤った情報を意図的に与えられ続け、扇動されて今日の行動に至った、男の支持者の激しい怒りのためだ」と述べ、トランプ氏への怒りをあらわにした。

ロムニー氏は以前から反トランプとして有名だが、この日、目を引いたのは、トランプ氏の盟友と見られてきた議員も、次々とトランプ氏に反旗を翻す発言や態度を示したことだ。

その1人、グラハム上院議員は演説で、客観的な状況からトランプ氏の敗北は明らかだと指摘した上で、「もう終わりだ」「(トランプ氏から)仲間外れにされても結構、もう十分だ」など、トランプ氏を見放す発言を繰り返した。

トランプ支持者による暴動を目の当たりにし、態度を変えた共和党議員も何人かいた。前日のジョージア州の上院選決選で民主党候補者に敗れたレフラー議員は、当初、バイデン氏の選出に反対する予定だったが、暴動後に考えを変え、賛成に回った。

ペンス副大統領の拍手の意味

そのレフラー氏が議場で賛成の意を表明した時、上院議長を務めるペンス副大統領が議長席からレフラー氏にひときわ大きな拍手を送る姿も、テレビカメラが捉えていた。ペンス氏はトランプ大統領から、上院議長の権限を利用してバイデン氏を大統領に選出しないよう圧力を掛けられていた。

トランプ大統領を支えてきた経済界も、今や反トランプの姿勢が鮮明だ。

全米製造業協会(NAM)のティモンズ会長は「首都で起きた暴動は製造業者が信じる米国の姿ではない」と暴動のきっかけをつくったトランプ氏を批判。さらに、ペンス副大統領に対し、憲法修正第25条を発動しトランプ大統領の即時、職務停止を真剣に検討するよう要求した。修正第25条は、大統領が職務遂行に適さないと判断された場合、副大統領と大多数の閣僚の合意によって大統領の職務を一時的、あるいは永久に停止できると定めている。

NAMは昨年、トランプ大統領の長女で大統領補佐官を務めるイヴァンカ・トランプ氏を、米国の製造業に多大な貢献をしたとして表彰するなど、トランプ氏を支持し続けてきた。

本音は「消えてほしい」

トランプ大統領はいまだに白人保守層を中心に高い支持率を誇っていることから、今月20日の退任後も、一定の政治的影響力を維持するとの見方もある。だが、トランプ氏が4年間、大統領として大きな影響力を保つことができたのは、共和党が多数を占める議会上院の存在も見逃せない。大統領の望む政策や人事を上院が追認することで、トランプ氏は有権者の歓心を買い続けた。

その上院は、5日のジョージア州の決選投票で共和党の候補者2人が共に民主党の候補者に敗れた結果、民主党が多数派となる。また、自らの選挙をにらみ、白人保守層の間で人気が高いトランプ氏のイエスマンを演じてきた共和党議員も、20日以降はトランプ氏のご機嫌とりをする必要はなくなる。

共和党の中にはクルーズ上院議員やペンス副大統領など、次期大統領選への出馬が有力視されているベテラン政治家も少なくなく、彼らにとってはトランプ氏の再出馬を阻止するためにも、トランプ氏の影響力を1日でも早く消したいというのが本音だろう。

ABCニュースでホワイトハウスを担当するカール記者は、暴動に揺れた首都ワシントンの様子を中継しながら、「トランプ時代は今日で終わりを告げた」と語った。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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