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全国学力テストは教育基本法違反です!

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 今年も全国学力テスト(全国学力・学習状況調査等)が4月16日に、国・公・私立学校の小学6年生と中学3年生の全児童・生徒を対象に、国語と算数・数学の2科目で行われることになっている。過去問(過去問題)を解かせたりするテスト対策も現在では普通のことのようになっているが、4月に向けていっそう熱を帯びてくるのだろう。

 その全国学力テストについて、「教育基本法に違反している」と指摘する人がいる。埼玉大学教育学部の高橋哲准教授だ。彼は次のようにいった。

「旧教育基本法の第10条第1項、現行の教育基本法では第16条第1項で禁じている『不当な支配』に牴触しています。全国学力テストは教育基本法違反なわけです」

 ちなみに現行の教育基本法第16条第1項では、「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の 定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」とされている。そして彼は、「北海道学力テスト事件」の判決文を示して説明をはじめた。

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教育基本法違反を主張する高橋哲・埼玉大学教育学部准教授(写真提供:高橋氏)]]

 北海道学力テスト事件は、「旭川学テ事件」とか「永山中学校事件」ともいわれている。現在の全国学力テストは、2007年度から小6と中3を対象に悉皆方式で行われているが、その前にも全国学力テストが存在していた。1956年度から小・中・高で行われていた「全国学力調査」だ。

 当初、全国学力調査は抽出方式で行われていた。ところが1961年度から、中学2年生と3年生を対象にして行われていた全国学力調査が、生徒全員を対象とする悉皆方式に変えられた。この悉皆が文部省(当時、現・文部科学省=文科省)の考える教育の強制であり、文部省による「不当支配」だとして、教員を中心に反対運動が起き、北海道旭川市永山中学で実力で阻止しようとした教員が逮捕されるという事件となった。これが北海道学力テスト事件である。

 その裁判において争点のひとつとなったのが、全国学力調査が当時の教育基本法第10条第1項に違反するかどうかということだった。一審の旭川地方裁判所は1966年5月に、これを違法と認めた。

 判決理由は、「学力調査は、文部省が独自に発案し、その具体的内容及び方法の一切を立案、決定し、各都道府県教委を経て各市町村教委にそのとおり実施させたものであって、文部省を実質上の主体とする調査と認めるべきもの」だとし、「その性質、内容及び影響からみて教育基本法第10条第1項にいう教育に対する不当な支配にあたり、同法を初めとする現行教育法秩序に違反する実質的違法性をもち」としている。

 違法との判決をうけて文部省は、1966年を最後に全国学力調査を止めてしまう。違法判決による波紋を避けたかったのだろう。ただし矛を収めたわけではなくて、この問題は最高裁判所の大法廷まで争われることになる。その大法廷判決がでたのが1976年5月で、ここでは「違法ではない」との判断が下された。

 その理由を、「本件学力調査実施要領によれば、同調査においては、試験問題の程度は全体として平易なものとし、特別の準備を要しないものとすることとされ、また、個々の学校、生徒、市町村、都道府県についての調査結果は公表しないこととされる等の一応の配慮が加えられていた」として、「教育に対する強い影響力、支配力をもち、教基法第10条にいう教育に対する『不当な支配』にあたるものとすることは、相当ではなく、結局、本件学力調査は、その調査の方法において違法であるということはできない」と結論づけている。

 そして1967年から廃止となっていた全国学力調査が、2007年に悉皆方式による全国学力テストというかたちで復活するわけだが、背景には、この大法廷判決があることはまちがいない。「違法ではない」という「お墨付き」があるのだから「悉皆方式」で復活させても問題ない、と文科省は判断したはずである。

 この大法廷判決に照らし合わせてみても、「現在の全国学力テストは教育法違反だ」と、高橋准教授はいう。彼が続ける。

「まずは、現在の全国学力テストが決して平易なものではなくて、それなりの準備が必要な内容になっていることです」

 大法廷が「違法ではない」とした理由のひとつは、「試験問題の程度は全体として平易なもの」ということだった。「平易な問題ではない」ならば、大法廷判決の範疇外となってしまう。つまり、「違法ではない」と言い切れなくなるのだ。

 さらに大法廷判決では、「特別の準備を要しないものとすることとされ」と指摘している。特別の準備を要しないものだから違法ではない、というわけだ。

「しかし現在の全国学力テストでは準備することが当然のことになっています」と、高橋准教授はいう。過去問をやらせるのは当たり前になっているし、「全国学力テスト対策に時間を割かれて通常の授業に支障がでている」という現場教員の声も、よく聞く。

 大法廷の判決理由の範疇を、全国学力テストは逸脱していることになる。これだけでも、現在の全国学力テストは旧教育基本法の第10条に牴触しているといえ、それを引き継いでいる現行の教育基本法第16条にも違反している可能性がでてくる。さらに、高橋准教授が続ける。

「2014年の全国学力テストの実施要綱から、都道府県の教育委員会の判断で結果を公表できるとしています。市町村においても、その教育員会の判断によって地域内の学校の成績が公表できるとされています。大法廷判決では、調査結果は公表しないという配慮があるから合法という判断でした。これが、崩れている」

 先に引用した大法廷の判決理由を再度引用すれば、「個々の学校、生徒、市町村、都道府県についての調査結果は公表しないこととされる等の一応の配慮が加えられていた」というので「違法ではない」とされている。それが現在の全国学力テストでは、都道府県ごとの成績が公表され、それがランキングされることによって、競争を招いていることは多くの人が承知のことである。「全国学力テストでトップ」などと胸をそらせる自治体があるのも事実だし、「うちは全国学力テストでも上位です」と自校自慢をする校長も少なくないどころか、かなり多い。

 大法廷が「違法ではない」と判断した理由である「調査結果は公表しない」が、完全に崩れている。となれば、「違法である」となる。

 準備をしなければならない問題になっている、調査結果が公表されている、この2点だけでも大法廷の判決理由に反している。そうなると、大法廷の「違法ではない」という判断は適用できない可能性が高い。

「だから、悉皆方式で行われている現在の全国学力テストは、旧教育法の第10条を引き継いでいる現行の教育基本法第16条で禁じている『不当な支配』となっている。教育基本法違反なのです」と、高橋准教授はいう。大法廷判決さえ蔑ろにしている可能性の高い現在の悉皆方式での全国学力テストは、問題が多いといわざるをえない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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