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インバウンド回復でホテル代高騰の札幌。民泊マンションはさぞ儲かる?調べてみた

櫻井幸雄住宅評論家
ホテル建設が進む札幌中心部だが、その予約は取りにくい。夏の朝6時に筆者撮影

 外国人観光客が一気に増えたこの夏、飛行機、新幹線、そしてホテルの予約が取れない状況が日本各地で生じている。

 北海道の札幌でも、夏休み期間中、国内外からの観光客が殺到し、ホテルの予約が取れないし、宿泊費が上昇。7月28日に札幌の中心に近い豊平川河川敷で開かれた「道新・UHB花火大会」や8月3日〜5日の「すすきの祭り」の際には「カプセルホテルでも1泊1万2000円」「ビジネスホテルの宿泊料は通常の3倍」という状況が生まれた。

 もともと、札幌市内では冬の雪まつりなどビッグイベントの期間中、ホテルの宿泊料が大きく跳ね上がっていた。そのハイシーズンの期間が広がり、高騰ぶりに拍車がかかっている状況だ。

 そうなると、つい考えてしまうのが、「マンションを買って、民泊として活用したら、どれくらい儲かるか」。

 沖縄の那覇市では、民泊マンションを取材したことがあった。民泊利用者と居住者のトラブルを回避する画期的分譲マンション、その賢い工夫とはの記事だ。が、札幌で民泊マンションは調べたことがなかった。

 札幌なら、民泊マンションが安く買えて、すごく儲かるのだろうか。たとえば、マンション住戸を2000万円台で購入し、民泊で年間500万円以上の収益を得る。ついでに、家族で夏のゴルフ、秋の味覚、冬のスキーを楽しむ拠点にできたら最高……ただでさえ暑い2023年夏、欲にまみれた、暑苦しい取材を敢行した。

札幌の民泊といえば……

 札幌の民泊事情を調べたら、特殊な状況が判明した。

 まず、近年分譲されたマンションは、管理規約で「民泊禁止」となっているのが普通。観光地として人気の高い札幌のマンションで民泊可としたら、利用する人が増え、定住する人に迷惑がかかると考えられていること、そして民泊可とするためには消防法の規制が厳しくなることなどが理由だ。ただし、隠れ民泊とか違法民泊と言われる状況で、こっそり民泊を行っている人はゼロではない。

 一方で、多くみつかるのは、賃貸住宅を活用した民泊。賃貸アパート、賃貸マンションには、賃貸契約に「民泊として利用できる」という項目を設けた物件があり、又貸しするような形で民泊利用ができるのだ。

 その場合、賃借人は「民泊利用可能」を前提に借りることになるため、アパートの1室が民泊として活用されても、他の住人からクレームが出ることはない。

 賃貸アパート、賃貸マンションのほか、賃貸の一戸建てでも一部に「民泊可能」の物件があった。

 それらは札幌中心地から離れて、近くに鉄道駅、バス停もないため、マイカー利用でないと生活できないという立地条件のものが目立つ。

 要するに、普通に賃借人を募集しても借り手が現れない。そこで、「民泊利用可能」とし、幅広く借り手を集めようとしているのだ。宿泊料金が安い分、建物が古く、不便な場所になっているわけで、そのような民泊は、じつは日本中に存在する。

 民泊の制度には、「利用者がいない空き家を活用して、旅行者に割安な宿を提供する」という目的もある。駅から離れた賃貸物件は、「普通の賃貸としては利用者が少ない」し、不便な分「割安な宿泊費」の設定となる。民泊本来の目的どおりの活用法が実現している側面もある。

 不便な賃貸物件は安く借りることができるものの、民泊としての収益も限られる。自ら使うときも交通の不便さがネックになる。

 民泊には「年間180日まで」という稼働可能日数の制限がある。民泊として180日活用し、1年の約半分はセカンドハウスとして自分で利用する。そういう使い方をした場合、不便な場所の賃貸は民泊としての収益で、なんとか1年間の家賃がほぼまかなえるかどうか、といったところ(実際にまかなえるかどうかは、最終的な稼働日数による)。

 そのため、この方法は「1年のうち半分くらいは札幌に行く必要があり、その滞在費を民泊で得られる費用で捻出したい」という人にはよさそう。が、「宿泊費が爆上がりしている札幌中心部の民泊」として期待される大きな儲けは出そうにない。

 「大儲け」の期待に応えられそうなのは、はじめから「民泊マンション」として計画され、札幌中心エリアに立地する物件。新しい建物で、設備も最新、そして便利な場所なので、利用者としても借りたくなる民泊だ。しかし、札幌中心部でその数は少なく、現在、購入可能な民泊マンションは1物件しかなかった。

民泊マンションならば、実質利回りで4パーセント以上か

 札幌の中心エリアで現在販売中の、「民泊利用を前提とした分譲マンション」は大手不動産会社が分譲するもので、狸小路とすすきのの間に立地。札幌の中心地のなかでも、ど真ん中と言える中央区の南三条通り沿いで、地上14階建て・全38戸の規模となる。

 その住戸は約44平米の1LDKから約52平米の2LDK。価格は3900万円台後半から5100万円台後半だ。札幌中心部の新築分譲マンションは、現在70平米程度の3LDKで7000万円以上が相場。それからすると順当か、ちょっとだけ安い設定といえるのだが、1LDKでも意外に高いなと思う人は少なくないはずだ。

 マンション住戸が2000万円台で購入でき……という一つ目の期待はもろくも崩れた。

 しかし、民泊としての収益は大きそうだ。

 民泊として利用する場合、1LDKでもリビングにソファーベッドを入れることで、家族4人の利用が可能。2LDKならば、5〜6人での利用もできる。

 民泊は家族旅行者が主なターゲットとなるため、4人以上での利用を想定して室料が算出される。そして、札幌中心地の新築マンションならば、それなりの宿泊料金が設定できる。

 4人利用で室料2万円とすると、年180日フル稼働で1年の収益は360万円。3950万円の1LDKで表面利回りは9パーセントを超える。

 実質利回りを厳しく計算すると、4パーセントか5パーセントか。と、ここで考えたいのは、ハイシーズンにおける札幌の宿泊費高騰だ。ホテルの宿泊費が通常期の3倍になる時期だけ民泊として活用し、宿泊費を高く設定すれば利回りはさらに上がるはず……欲が広がるのである。

民泊マンションの実際の使い方

 大きな収益が期待できる民泊マンションだが、利点はそれだけではない。

 札幌の民泊マンションで大きな魅力となっているのは、観光客が殺到するハイシーズンでも拠点が確保される、ということ。雪まつりやすすきの祭りなど、札幌中心部のホテルは部屋を予約するのに苦労する。その繁忙期でも部屋が自由に使えるのだ。

 これは、企業のオーナー社長や個人事業主に喜ばれる。というのも、「雪まつりのとき、札幌に行きませんか」と取引先を誘ったり、「札幌の部屋を自由に使ってください」と提供する利用法があるからだ。

 コロナ禍が開けた今、札幌中心地ではホテルの建設や改装が相次いでいる。

 じつはコロナ禍で宿泊客が大幅に減り、ホテルが経営難になった時期、「ホテル用地が売却され、マンションに変わる」という見通しがあった。ところが、実際にはマンションになった場所はなく、経営が苦しくなったホテルは外資を中心にしたホテル業者に買い取られ、新たなホテルに変わっている。

 外資は、コロナ禍の時期も「札幌のホテル経営は有望」とみていたわけで、実際に今は宿泊者が増加。宿泊料金も上昇し続けている。

 そのなか、札幌中心部で民泊マンションを所有していれば、ハイシーズンに高く貸せるだけでなく、「ホテルが取りにくいときでも、自由に使える部屋が確保される」という利得ももたらされる。ただし、前述したとおり、その数は驚くほど少ない。

 それが、札幌中心部における民泊マンションの実情なのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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