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カナダの土産は「ヴィトン」? 李承信が語る日本代表の課題は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
スキルが高く評価される(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表は日本時間26日(現地時間25日)には、現地バンクーバーでパシフィック・ネーションズカップ(PNC)のカナダ代表戦に挑む。

 10番をつける先発スタンドオフの座には、李承信が入った。身長176センチ、体重86キロの23歳。メンバー発表に先立っておこなわれたオンライン会見では、「カナダ代表戦ではどれだけボールを動かし続け、フィニッシュまで持っていけるかがキーになる」と展望していた。

 エディー・ジョーンズ新ヘッドコーチ体制の日本代表は、6、7月のサマーキャンペーンを1勝4敗と負け越している。大幅な若返りと『超速ラグビー』という新コンセプトの導入を同時並行でおこなっているなか、李は何を思うか。

以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——現状は。

「夏のシリーズでおもに出た課題は、被ターンオーバーの回数、セットピースの部分。それを踏まえ、今回のカナダ代表戦ではフィジカリティとボールを動かすことをテーマに置いています。今日(取材前)の練習では、いいラグビーができていると思いました。モメンタム(勢い)を自分たちから作って、ボールを動かし続けるところを、10番としても形を作れていますし、アウトサイド、FW(の選手)も速いセットをしてボールを動かしている。

 あとは、それをフィニッシュまで獲り切れるかどうか。今日も、多々ラストパスをミスするなど、フィニッシュまで獲り切れない部分があったので」

——決定力が至らない理由と改善点は。

「ひとつはスキルの精度、コミュニケーションの部分が要因であるとは思うんですけど、ゴール前に行ったところで獲り急いでいる部分もあります。焦ってチームのシステムや組織で動けていない部分、個人でどうにか獲りきろうとする部分も。それは夏のシリーズでも(あった)。いまは成長段階だと思うんですけど…。敵陣ゴール前に入った時(の動きは)カナダに来ても重点的に練習はしています。チームとして、組織として動けるか、同じページを見て動けるかが大事になってくるんじゃないかなと。

チームのアイデンティティ、軸としてあるのは『超速ラグビー』。どんどんボールを動かし続ける。ただ80分間それをするのは難しい部分もあるので、ゲームの最初の20分、間の40分、最後のフィニッシュの20分で、自分たちのやるべきことを明確にして、10番としてもコントロールする。コンテストキックを使ったり、3点を狙うところは3点を狙ったりと、80分を通してのマネージメントが非常に大事になる。そこは自分自身がもっと成長させなければいけない点なので、いい経験ができているなと思いますね」

——いま司令塔として意識することは。

「組織としてどこにどうボールを運ぶかのスピード、速く考え、速くコミュニケーションを取ってチームとして動くことは常に(重要だと)言っていることです。その前提で、一番、速く判断を下すのは10番の責任。スペースについてのコミュニケーションでは自分からどんどん発信して、『超速ラグビー』をリードするのが大事ですね。どれだけ速く繋がって、速くコミュニケーションが取れるか(が重要)」

——ジェイミー・ジョーンズ前ヘッドコーチ時代の日本代表、所属するコベルコ神戸スティーラーズ、いまの日本代表とで、10番の役割に違いはありますか。スティーラーズではおもに13番(アウトサイドセンター)を任されていますが。

「いまよりジェイミーの時のほうが、形というかシステムが具体的で、隅々まで固められている感じはありました。自分はそれがやりにくいということも別になかったですし、経験が浅かったのでそっちのほうがプレーしやすかった。神戸でも、いまの『超速ラグビー』でもシェイプ(陣形)は決まっていますが、どれだけ目の前の状況、ディフェンスの枚数(をもとに判断できるかを重視)。形ができていなくても、目の前のスペースにどれだけアタックできるかというアダプト、順応が求められています。10番としても、テンポが速く、きつい中でもそういうスペースを見つけ、アタックを組み立てていく。難しさを感じていますが、これ自分のをものにできればどんなラグビースタイルにも順応していける。ラグビー選手として大幅に成長できるチャンスだと思います」

——キャンプの進め方を教えてください。

「週に2~3回、ゲームドライバーというキーになるポジションのメンバー(フッカー、ロック、スクラムハーフ、スタンドオフ、フルバック、主将)がスタッフとミーティングする時間が設けられている。そこでクリアなゲームテーマ、プランニングを(共有)。それは前のサマーシリーズでもあったのですが、(時間が経ったことで)選手たちも1週間の流れに慣れてきた部分もあるので、いい方向に進んでいると思います。

 スタッフの設けた時間以外でも、ゲームドライバーだけで集まる。カード、天候といった想定外のことが起きた時のことも話せるだけ話しています。今回は若いチーム。リーチ(マイケル)さんも(齋藤)直人さんもいない。成長できるチャンスなのかなと思います」

——34歳の立川理道選手が主将となりました。

「発言の影響力、リーダーシップもある方ですが、練習では誰よりも身体を張ってくれて、誰よりも声を出して、練習でもゲームライクにチームのインテンシティ(強度)をリードしてくれる。オフフィールドでも——今回、大学生が来ていますが——何の壁もなく、フレンドリー。それは自分たちの年代に対してもそう。ハルさんの人柄だと思うんですけど。ワンチームとなれるような雰囲気を作ってくれて、若手も伸び伸びできています。頼りになるリーダーだなと思います。

10番としてハルさんのコミュニケーションは頼りになります。ハルさんが12番(インサイドセンター)にいるとプレーしやすい。ラグビーIQが高く、自分も学ぶところが多いです。

(立川の)相手チームに入ってトレーニングをすると、『もっとこうしたほうがいいんじゃない?』と10番としてどこに仕掛けるか、ゲームメイクについてハルさんの経験からアドバイスをもらえる。そこは本当に、自分としてももちろん切磋琢磨して競争はしていきたいですけど、学びにもなっていますね。

 プレー中も、ミーティングでも、意見があるとスタッフ、チームメイトと共有してくれます。どれだけ自分がプレーしやすいよう、チームがいい方向に行けるようにと考えてくださっていて、それが発言にも出ています。もちろんハルさん自身のプレーのスタンダードが高い。反面、周りに求める要求も高い。主将としての立場もありますけど、チームにハルさんが与える影響が大きい」

 今回のツアーは、現体制下初の海外遠征だ。

「折角、遠征を経験できている。ホテルにこもらず、チームメイトと街に出て、国の文化を知ったり、仲間とコネクトを深めたりして欲しい」

 指揮官からはこのように通達されていると、李は説明する。

「スケジュール的には着いた日もその次の日も練習があったんですけど、その次の日はオフ。本当に『ラグビー、ラグビー』(と一辺倒に)になっていなくて、ポジティブな雰囲気でもあります。楽しめていますね」

 休息日の過ごし方は。そう問われたら、日本の若者の口からは出にくい類のブランド名が出た。

「ルーミー——同部屋——が藤原忍さん。忍さんとはカフェに行ったり、あとは(ルイ・)ヴィトン(の店舗)にも。まだ買っていないですけど、明日(取材日翌日)、色違いのカードケースを買おうと思っています。はい。ちょっと奮発します」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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