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大外刈は初心者に禁止すべきか? 柔道事故問題、第三者委員会の設置で真相を解明できるのか?

溝口紀子スポーツ社会学者、教育評論家

なぜ、いま、柔道事故が起きたのか

夏の全国大会の予選シーズンにはいった5月下旬、福岡市の中学校で柔道による死亡事故が発生した。

女子生徒は校内の武道場で先輩の女子生徒と2人1組で練習中、大外刈りの技をかけられて転倒し、後頭部と首を打ち意識不明になった。すぐに救急搬送されたが、意識が戻らないまま27日午前に死亡した。脳内に出血があったという。

出典:|毎日新聞

これまで柔道事故を指摘してきた内田良准教授は、今回の事故も、典型的な柔道事故と分析している。

報道の翌日29日、全日本柔道連盟(以下、全柔連)の重大事故総合対策委員会(以下、重大事故委員会)から、私のところに第一報が入った。どうやらご当地の柔道連盟でも内部情報を収集するのに苦労しているようであった。実際、このように学校で事故がおきた途端、関係者に箝口令が敷かれてしまうからだ。そこで全柔連は福岡市教育委員会に事故報告書の提出を依頼した。

6月1日に開催された重大事故委員会では、柔道事故被害者会の会長らもオブザーバーとして参加し、福岡市教育委員会に事故報告書、福岡県柔道連盟の報告書をもとに、再発防止のための協議をおこなった。2012年から2014年までの3年間、重大事故は起きていたが、死亡者ゼロが続いていただけに落胆と心痛な思いに包まれた会議であった。

指導上の問題はなかったのか

それではなぜ、初心者に大外刈で投げると事故が起きやすい状況を把握していたはずの上級の指導者のもとで事故が起きてしまったのか。

当該の顧問は、安全指導講習を受講した全柔連A級指導員でもある。

全柔連の作成した柔道の安全指導手引きには、初心者、とくに中一、高校一年生に、乱取りを始めた5−7月ごろに多発、大外刈で頭部の事故が起きやすいと記されている。さらに、動画でもわかりやすく注意喚起を促している(全柔連動画)。

とりわけ事故が多い5月−7月は、初心者が受け身をようやく身につけ始める時期でもあり、同時に試合シーズンにも重なる。部員が少ないクラブの場合、試合に出場する経験者の投げ込みを受けるために初心者でも投げ込み要員として、当てられることもある。さらに初心者にとって一番受け身が難しい、大外刈で後頭部を打撲する事例が多い。

事故の原因は第三者委員会で検証されるとおもうが、再発防止にむけて、教育委員会が「6ヶ月未満の初心者へ大外刈をかけることを禁止」するなど、明文化する必要があるかもしれない。実際、静岡県教育委員会では事故防止のために中学校の授業で大外刈をかけることを禁止している。とはいえ柔道事故の多くは、部活動で起きており今後は部活動での大外刈の扱いも同様に扱うべきかもしれない。

第三者委員会はなぜ設置されたのか

この事故の特徴として、事故直後に福岡市教育委員会が第三者委員会を設置したことである。なぜ迅速に設置されたのか?

それは昨年、公布されたいじめ防止対策推進法を受けての措置であったと考えられる。重大事態への対処として、速やかに、適切な方法により事実関係を明確にするための調査を行うことになっている。さらにそれらの調査情報を生徒や保護者に提供しなければならないなど、迅速性、透明性が求められている。 

それだけに新制度が始まって透明性のある調査ができるかどうか、新制度の機能も問われている。

今後の展望と課題

2年前に全柔連の不祥事が続いた。その当時、組織の暴力体質を指摘され、相次ぐ柔道事故根絶を目指すため重大事故総合対策委員会が発足された。

とりわけ、指導者の資質向上をめざし、指導者資格の見直しがされてきた。

事故の約1ヶ月前である4月21日、内閣府公益認定等委員会が全柔連を訪問し、「事故対策に真摯に取り組んでいる、改革については順調に進んでいる印象を受けた」との報告があった。

とはいえ今回の事故が物語るように、地方の柔道協会、指導者たちに意識改革、注意喚起は十分に伝播していないことが自明なものとなった。私もA級指導員資格を保持しているが、この事故によってA級指導員が安全であるとはいえなくなってしまった。自己反省の意味で、今一度、柔道、スポーツ指導における安全配慮についてもう一度確認し、再発防止に努めたい。柔道で子供達の命を奪うことは絶対あってはならない。

スポーツ社会学者、教育評論家

1971年生まれ。スポーツ社会学者(学術博士)日本女子体育大学教授。公社袋井市スポーツ協会会長。学校法人二階堂学園理事、評議員。前静岡県教育委員長。柔道五段。上級スポーツ施設管理士。日本スポーツ協会指導員(柔道コーチ3)。バルセロナ五輪(1992)女子柔道52級銀メダリスト。史上最年少の16歳でグランドスラムのパリ大会で優勝。フランス柔道ナショナルコーチの経験をもとに、スポーツ社会学者として社会科学の視点で柔道やスポーツはもちろん、教育、ジェンダー問題にも斬り込んでいきます。著書『性と柔』河出ブックス、河出書房新社、『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研。

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