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ジャニーズ事務所における性暴力とスポーツ界の性暴力問題ー社会学的視点からの分析ー

溝口紀子スポーツ社会学者、教育評論家
タレント事務所における性暴力をスポーツ社会学の視点で読み解く(写真:イメージマート)

ジャニーズ事務所における性暴力

元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが2023年4月12日、日本外国特派員協会(東京都千代田区)で開いた会見で、ジャニーズ事務所を創設した故ジャニー喜多川氏について、2012年から2016年にかけてジャニーズJr.として活動していた頃に「合計で15回から20回ほどジャニーさんから性的被害を受けた」と告発しました。

 この記事を目にしたときに、スポーツ社会学者として既視感を覚えたのです。それは、10年前に起きた柔道界の暴力、性暴力の問題と構造が似ていたからです。

スポーツ界の性暴力と似ている事件構造

女子柔道の指導者による教え子への性暴力全柔連の不祥事以降、スポーツ界では、指導者による暴力、性暴力事件が相次ぎ顕在化されるようになりました。

スポーツ界では、選手は指導者と「信頼関係」、「師弟関係」を結ぶため、暴力や性暴力を容認してしまう傾向があり、行為が長期化、過激化します。

 この時、保護者など周囲が気づいていない場合もあります。問題なのは、保護者や周囲が気づいたとしても、勝利、成果、組織の保身のために、暴力や暴言などの行き過ぎた行為を黙認してしまい、問題行動が顕在化されない場合です。

 今回のジャニーズ事務所も同じような構造の中で事件は起きていたのではないかと考えます。経営者自らが、タレントを発掘育成し、事務所の千両役者であるアイドルやスターを次々に誕生させれば、経営者のカリスマ性や業界内の権力が増します。事務所の関係者でさえも、経営者の行き過ぎた育成方法に、黙認してきた結果、相次ぐ告発が続いてしまっているのではないでしょうか。

報道の偏りとジェンダーバイアス

スポーツ界では、指導者がグルーミングという手法で選手を支配し、社会的逸脱行動を、見逃す、許すことで、指導者との信頼関係を得る、他者よりも優位な関係が築けるといったきらいがあります。

 同じように、タレント事務所の性暴力も、アイドル育成という名のもとに、従順なアイドル(身体)が生成されるように構造化され、グルーミングによる支配関係があったかもしれません。

 また今回の告発で気になった点があります。テレビなどのメディアが、この事件に関して積極的に報道しないことです。今回の事件が男性の被害者のせいか、SNS上では被害者を非難する声もあり、「男だったら、それくらい我慢しろ。退所したのに文句を言うな」といったジェンダーバイアスを感じます。

 もしこの事件が、大手芸能事務所の女性アイドルの告発だったらどうでしょう。メディアの取り扱いが若干違うのではないでしょうか。女性が、性暴力を告発すると世間から「ひどい」と同情してくれますが、今回のように男性が被害者だと注目してもらえません。本件がテレビでほとんど報道されないことで批判の声もありますが被害者や加害者のセクシュアリティに関係なく、性暴力に対して「NO」とメディアが率先して発信啓発しなければ、性暴力は根絶できないと思います。

再発防止策の表明と説明責任

ジャニーズ事務所は、本件について声明を発表しました。しかし声明では、事件の経過や再発防止策などの具体的な対応が示されていませんでした。未成年のタレントを雇用する事業者としての説明責任を果たしておらず、ガバナンスとして不十分だと思います。

 全柔連が行なったようにまず、第三者委員会を立ち上げ、これまでのタレント育成の中で、経営陣による性暴力がなかったか検証し、再発防止策を報告することが社会的な信頼を回復することになるのではないでしょうか。

 どうして、このような告発が相次ぐのか?会社組織の体質が社会的に問われてることに目を向けなければいけません。

 とりわけ、未成年のタレントを育成している以上、今後は司直や東京都教育委員会の監督、指導が必要だと思います。何より、保護者が安心して、児童を芸能事務所に送り出せるよう再発防止策を提示していただくことを切に希望します。

スポーツ社会学者、教育評論家

1971年生まれ。スポーツ社会学者(学術博士)日本女子体育大学教授。公社袋井市スポーツ協会会長。学校法人二階堂学園理事、評議員。前静岡県教育委員長。柔道五段。上級スポーツ施設管理士。日本スポーツ協会指導員(柔道コーチ3)。バルセロナ五輪(1992)女子柔道52級銀メダリスト。史上最年少の16歳でグランドスラムのパリ大会で優勝。フランス柔道ナショナルコーチの経験をもとに、スポーツ社会学者として社会科学の視点で柔道やスポーツはもちろん、教育、ジェンダー問題にも斬り込んでいきます。著書『性と柔』河出ブックス、河出書房新社、『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研。

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