パリ五輪の総括・日本柔道の課題 #専門家のまとめ
フランスとの激戦で盛り上がった柔道混合団体は2位。とはいえ個人戦では、
男子 金2、銀1、銅2
女子 金1、銅1
金3、銀1、銅3の計8個のメダルとなりました。とりわけ女子は過去最少の2個のメダルとなり強化育成の手直しが急務となっています。選手個人の力を最大限に引き出せなかった理由は何か、日本柔道の課題を検証したいと思います。
ココがポイント
▼国際化、総合格闘技化するJUDOを制すには外国人コーチの起用が必要
・〝JUDO対策〟へ禁断の外国人コーチ入閣論 パリ五輪で明るみになった「競技性の変化」(東スポWEB)
▼女子柔道は過去最少の2個のメダル、東京五輪からメダル数は減少
団体でも勝てずメダル数は減少…日本柔道は弱くなったのか? 「誤審」「ルーレット」を越えて、パリで見えた“お家芸”の課題とは(Number Web)
▼満身創痍の選手が多かった女子チーム。4年ではなく3年で迎えたパリ五輪
【柔道】女子日本代表・増地監督「私の責任」過去最低メダル2個に沈痛 パリ五輪(sponichi Annex)
▼内定時期が早すぎることが課題。ランキングでシード権が決まる運用に変更されたことで、五輪大会前になるべく上位に位置することがメダル獲得につながる
・Ranking for Olympic Games Paris, France, 26 July 2024(International Judo Federation)
エキスパートの補足・見解
次のオリンピックで金メダルの数が増えるように、日本がどのように取り組むべきかについて説明します。
シード制度への対応
東京五輪金メダリストの阿部詩選手、素根輝選手は、まさかの敗戦となりました。二人の共通点は二人ともシード圏外であったこと。ちなみに、2回戦で第1シードのケルディヨロワ選手はランキング1位で阿部選手は9位。素根選手もシード圏外の18位でした。これまでは前回の五輪金メダリストはシード権を得ていましたが、IJF(国際柔道連盟)のシード制度が変更され、直前のランキング上位8名にシード権が与えられました。海外チームはこの制度を利用し、シード権を得るため五輪大会、直前まで試合に出場していた一方で、今回、日本チームの対応が遅れました。今後は、選手の内定時期をなるべく遅くし、ランキングを上げてシード権を確保することが重要です。これにより、確実にメダルを狙うことができます。
日本男子の課題と対策
日本男子個人戦では、強豪国のロシアが参加していなかったのでメダル数は増えました。軽中級の選手育成は堅実ですが、重量級の成績は低調です。海外選手に比べて体が小さい日本人は、フィジカル重視の現在の柔道で苦戦しています。重量級でも中量級の選手並みの身体能力、スピード、スタミナを持つために、体幹を鍛える必要があります。例えば、最重量級のリネール選手は今回、約15キロ減量して大会に臨んでいます。阿部一二三選手が団体戦でフランスのギャバ選手に一本負けした技は、現行の足を直接取らない「肩車」で、最近の国際大会で散見されるようになった技です。海外遠征の派遣を多くし情報戦に打ち勝つ必要があります。
日本女子の課題と対策
日本女子個人戦では、金メダル1個、銅メダル1個と過去最少の結果でした。この結果は、抜本的に強化方針を見直す必要があります。とりわけ、長期にわたるグランドデザインの見直しと中重量級の強化育成が必要です。阿部詩選手に勝ったケルディヨロワはウズベキスタン。カザフスタン、アゼルバイジャンなどの旧ソ連に加えコソボ、クロアチア、メキシコなどの柔道小国の選手が活躍しており、多様性ある柔道が展開されています。中高生の段階から海外遠征を増やし、海外の柔道に慣れ親しむことが重要です。同時に海外の柔道や情報、人脈に精通している外国人のコーチを起用することが急務です。
混合団体の新設
日本国内ではまだ混合団体競技が存在しません。現在、男女別々で団体戦が行われています。柔道人口の減少も考慮すると、中学、高校、大学、実業団などで混合団体種目を新設することが必要です。