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安藤コーチと選手の練習場外の距離感は不適切なのか?コーチングとグルーミングの境界線 #専門家のまとめ

溝口紀子スポーツ社会学者、教育評論家
リンクの外から選手を指導する安藤美姫コーチ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

安藤美姫コーチの選手へのスキンシップが話題になっていますが、そもそも練習場以外で未成年選手とプライベートで交流することは適切だったのでしょうか。親身になりすぎた距離感は「コーチング」なのか、もしくは選手や指導者がそれぞれの歓心を買おうとする行動なのか、あるいはグルーミングなのでしょうか?コーチングとグルーミングの境界線を見極めることが重要です。

ココがポイント

▼手をつないで歩く、腰に手を回す、電車内で抱きしめ合うという行為は法律に違反するものではない?

・「法的に問題は…?」安藤美姫が今度は「“16歳教え子”との交際疑惑」に下した“法律家の見解”(FRIDAYデジタル)

▼スポーツにおけるセクハラ・パワハラの前にある「グルーミング」

・スポーツ界のハラスメントを許しているのは日本社会の風土だ(Yahoo!ニュースオリジナル

▼指導者と選手の関係を「師弟愛」と美化する風潮がある。その閉ざされた環境がハラスメントの温床にもなる。

スポーツ界の「師弟愛」がパワハラの温床になる(Yahoo!ニュースオリジナル)

▼不倫報道で解任された監督は「カラダの関係はない」と言う。師弟愛は、コーチング、恋愛、それともグルーミングなのか。

不倫報道で立教大監督を解任、上野裕一郎が初めて明かす真相「本当に申し訳ない…」「ただ、カラダの関係はない」「職を失ってハローワークに」(Number Web)

エキスパートの補足・見解

前述した記事によると、練習場以外での安藤コーチの選手へのスキンシップは、「真摯な交際関係」と認められれば、それは「みだらな」行為ではなく条例違反にはならない、とのことです。また選手の母親も同伴していたことから家族ぐるみの交流だったとも取れます。

とはいえ、安藤門下の教え子やその保護者にとって、安藤コーチの練習時間以外での選手とのプライベートな交流は、依怙贔屓と受け取られ嫌悪感や不信感を持つ可能性もあります。とりわけ未成年選手の場合や権力関係が明らかな場合、グルーミングと見なされる可能性があります。未成年はまだ発達途上にあり、権力関係の中で適切な判断を下すのが難しい場合があるからです。

ここでの「グルーミング」とは、選手の性的搾取を目的としたコーチが選手に近づき、親しくなって信頼を得る行為です。

選手の同意があり、信頼関係があれば、 多少の体罰やスキンシップは許されると指導者は考えがちですが、とりわけコーチが明らかに年上である場合、年齢差による経験や知識の差を利用して関係を構築することが懸念され、グルーミングと見なされやすいです。

指導者にとって、選手との絶妙な距離感は信頼を得るためのコーチングである一方で、無意識にグルーミングの関係にもなりやすくリスクも生じます。

私がフランスでナショナルコーチに就任していた時は、コーチと選手の間のプライベートの場での交流を禁止していました。練習場以外での選手と二人きりの食事会も禁止でした。なぜなら、それは特別指導ではなく他の選手やコーチへの背任行為になる可能性があるからです。紹介した記事のように、日本でも有名陸上部の監督が、選手と交際していたことが発覚し、解任させられたことがありました。

フィギュアのようなプライベートコーチの場合でも、他の選手と契約していることから、誤解されないように距離感が近くなりすぎない関係の適切さをコーチは常に考慮する必要があります。

スポーツ社会学者、教育評論家

1971年生まれ。スポーツ社会学者(学術博士)日本女子体育大学教授。公社袋井市スポーツ協会会長。学校法人二階堂学園理事、評議員。前静岡県教育委員長。柔道五段。上級スポーツ施設管理士。日本スポーツ協会指導員(柔道コーチ3)。バルセロナ五輪(1992)女子柔道52級銀メダリスト。史上最年少の16歳でグランドスラムのパリ大会で優勝。フランス柔道ナショナルコーチの経験をもとに、スポーツ社会学者として社会科学の視点で柔道やスポーツはもちろん、教育、ジェンダー問題にも斬り込んでいきます。著書『性と柔』河出ブックス、河出書房新社、『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研。

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