阪神タイガース18年ぶりのリーグ優勝!歓喜のビールかけで虎戦士は・・・《ビールかけ裏話・後編》
■18年ぶりの優勝を味わう
18年ぶりにリーグ制覇を成し遂げた阪神タイガース。選手のお楽しみは優勝祝勝会でのビールかけだ。
祝勝会の会場に勢ぞろいした虎戦士たちは、おそろいのTシャツを着て、“そのとき”を今か今かと待ちわび、テンションはどんどん上昇していった。
ではビールかけの裏話、前編の続きをどうぞ。
(ビールかけの映像は阪神タイガース公式YouTubeに)
■「糸原健斗劇団」座長・糸原健斗
「あれ、おいしかったね(笑)」。ニヤリと振り返るのは糸原健斗選手だ。
岡田彰布監督のあいさつに続いて行われた鏡開きでのことである。壇上にて木槌で鏡を開く人の名を、司会者が読み上げる。
「岡田監督、平田ヘッドコーチ、近本選手会長、大山選手、中野選手、佐藤輝明選手、木浪選手、梅野選手、坂本選手…」。
名前が呼ばれるたびに「おー!」と合いの手を入れる選手たち。その中で自身の名前が出ることを期待する糸原選手が、違う名前を聞くたびにガッカリするオーバーリアクションを見せ、周りの後輩たちも悪ノリする。
「岩崎選手、岩貞選手、青柳選手、伊藤将司選手、村上選手、大竹選手…」。
次の名前は出てこず、終了した。すると、ここで全員が吉本新喜劇ばりにズッコケる。
「呼んだってー!」「呼んだってー!」「あと1人くらい呼んだってー!」
口々に訴えるチームメイトたち。ヨハン・ミエセス選手は、失意の糸原選手を慰めるかのようにハグをする。
そこで仕方なく?司会者が「では、糸原健斗選手」と言うと、即座にぴょんぴょん飛び跳ねながら糸原選手は壇上に駆け上がり、選手たちも拍手喝采で沸いた。まるで寸劇だ。
台本があったわけでも、なにか打ち合わせをしたわけでもない。なのに自然と「糸原健斗劇団」が結成されてしまうのは、糸原選手の人柄によるものだろう。場の空気を読んで、身を挺して笑いを提供する。そんな“糸原座長”が、みんなは大好きなのだ。
そういえばビールかけが始まる前にも、突如「イトハラ!」「イトハラ!」と「糸原コール」が起こり、そこでもぴょんぴょんとジャンプして応えていた。周りにいかに愛されているかがよくわかる。
ビールかけについて糸原選手に訊くと、質問にかぶり気味に「最っ高!。くそ楽しかった」と返ってきた。鏡開きに呼ばれたくだりも、自分でプッと吹き出しながら「いや、もう最高だよ。目立ててよかったわ」と楽しげに振り返った。
次のビールかけでも…と期待してしまうが、何かプランはあるだろうか。
「いや、ないよ。その場のもう、あの嬉しさを爆発させれば大丈夫。次もね」。
嬉しさを爆発させ、きっと次も何かアドリブでやってくれるだろう。糸原選手のいるところには、必ず笑いの渦が巻き起こるはずだ。
「糸原健斗劇団」の次回公演、開演が待ちどおしい。
■声が枯れ枯れの島田海吏
途中から声が枯れてしまっていた島田海吏選手は、「喉、一瞬でやられたっすね。叫びすぎっすよ(笑)」と初のビールかけを楽しんだ。
「とにかく雰囲気が最高でしたね。みんなで一つのことを成し遂げた喜びみたいな、それで盛り上がったのかなと思います」。
充実感でいっぱいのようだ。何か裏話はないのかと尋ねたが、岡田監督とミエセス選手のやり取りに勝るものはないという。
「あれ、まじでおもしろかった。一生見られますね(笑)。何回も見てます(笑)」。
実はあのときミエセス選手がかぶっていた大仏のかぶりものと『本日の主役』のたすきは、橘圭祐通訳に頼まれた島田選手が購入してきたもので、笑いの演出に一役買っていたわけだ。
ビールかけの仕方については、「初めての人が多かったんで、みんな適当っすよ。やっぱ、もっと振ったほうがいいってのはあったかな。意外と振りが足りなくて、なんかチョビチョビとしか出なくて、思ったより飛ばなかった」と気づいたという。
「でもよく振ったら、プシューッといくのが後からわかってきたから。ちゃんと次に活かせるようにします(笑)。いい勉強、いい経験ができたかな」と学習した。
次回はよりスパークしたビールかけが見られるに違いない。すると、「スパークできるように頑張ります!成績もスパークできるように頑張ります!」と、うまいこと締めてくれた。
ポストシーズンでのラッキーボーイになるかもしれない。
■全身タイツでもイケメンな熊谷敬宥
大山世代より若い選手には、“かぶりもの指令”が出ていたと聞く。前日にドン・キホーテに買い出しに行って「全身タイツ」を選んだのは熊谷敬宥選手、小野寺暖選手、榮枝裕貴選手、小幡竜平選手の4人だった。
熊谷選手は「若手なんで、なんか盛り上げようかなと思って。一番目立つから」とセレクトの理由を明かす。黒だったので目立ったかどうかは疑問だが、ただイケメンは何をやってもイケメンだということだけはわかった。
ビールかけは「初めてです」と言ってすぐ、「あ、大学時代に遊びでやったことあります(笑)。全然違うっすね」と、顔にそぐわないキャラを出してくるのはいつものことだ。
「全員がハイテンションで、みんなの素性が見れたのがおもしろかった。普段、あんま騒がなさそうな人が騒いでたり…いや、騒ぐというか盛り上がってたり。今まで見たことない一面が見られたんで、おもしろかったですねぇ」。
次のビールかけがすでに楽しみだが、今度は何をやってくれるのだろうかと問うと、即「秘密です!言ったらアレなんで」とニヤリ。なにやら“秘策”があるらしい。これは大いに期待しよう。
■全身タイツがお気に入り?小野寺暖
小野寺暖選手は「人生初で最高でした」というわりに、「そんなに弾けてないです。弾け足りなかったです」と、やや悔いを残した。
「なんかもう、わちゃわちゃしすぎて、誰が誰かもわかんなかったっす。今、自分が誰にかけてるかもわかってなかった(笑)」。しかし十分に楽しめたという。
「くまさん(熊谷選手)が『全身タイツ買おうや』って言って、ほんまは榮枝と小幡も着てたんですけど。あいつら、(上のTシャツを)脱いでなかったですね。僕は途中で脱いで、タイツ姿になりましたよ」。
小野寺選手は次は何をしてくれるのかな。「じゃ、違う色のタイツに…(笑)」って、どんだけ全身タイツが好きなんや~。
■ビールかけ後のシャワーでの匂いに悶絶した小幡竜平
小幡竜平選手は「初めてのことだったんで全部が新鮮で。テレビで見たことはあったけど、それが実際に体験できるっていうのが、すごくうれしかったですね」と語る。
ビール自体は好きではないそうだが、ビールかけをしている最中は匂いも気にならなかったという。
「でも終わって、みんなでシャワー浴びたんですけど、そのときがくっさすぎて、それがけっこうきましたね(笑)」。そんなに臭かったのか…。
中に全身タイツを着込みながらも「も、ええか」と脱がず、かけることを楽しんだ。
「とにかくかけまくった。全然上の先輩でも関係なしに後ろからバーッとできたんで、それが楽しかったです。ほぼほぼ先輩みんなにいきましたよ」。
そして、次のビールかけに向けて「もっと出す勢いを強くして、長時間持続させるというのはやります!」と“極意”を会得し、強く意気込んでいた。
■もっと酔いたかった西純矢
西純矢投手にとっても、ビールかけは初体験だった。とにかく楽しむだけだったと振り返る。
湯浅京己投手とともに「テレビの人に『かけに行け』って言われて(笑)。そのときはもう、勢いのままかけただけです」と、岡田監督に突撃した。後ろからだったので、おそらく監督は誰にかけられているのかわかっていなかったと思うが。
ただ、その“勢い”のおかげで、テレビも新聞も“いい画”が撮れていた。
ビールは常温だったが、「でもちょっと冷たかったすよ。(体が)濡れてるからですかね、冷たく感じたっすね」という。もう飲める年齢で、ビールは好きだそうだ。
「かけながら飲んだりもしてましたけど、全然酔わないっすね。なんか物足りない(笑)。もうちょっと酔いたかったっすけどね。もの足りない感じで終わったっすね」。
次は、存分に酔えますように。
■ビールかけマイスター、加治屋連
“ビールかけマイスター”は加治屋連投手だ。福岡ソフトバンクホークス時代に4度経験しているから、さすが“コツ”を心得ている。
「瓶の口を指で塞いで、ちょっとずつ開けていく。すると、けっこう勢いよく飛ぶ。わーっと振って一気にパッとやると、弱いイメージがありますね。ビールが出るスペースは狭いほうが、強いというか勢いは出るんじゃないかな」。
なるほど。これは参考になる。その手法で「ひと通りいきました。監督にも。でもたぶん、監督は気づいてないかも。かけられすぎてたから(笑)。平田さん、ピッチングコーチの2人、岩崎、岩貞、島本…中継ぎにも万遍なく。裏方さんにももちろんいきました」と、躍動したようだ。裏方さんを忘れないところは、さすがビールかけのベテランだ。
「ぬるいからおいしくはない」と飲みはしなかったが、「何回やっても気持ちいいというか、うれしいもの」と浴びまくった。加治屋投手にとって、「このチームメイトと優勝してビールかけをする」というのは夢だったという。それが叶ったから、喜びもひとしおだった。そこにはこんな思いがある。
「優勝した瞬間、家族の顔が浮かんだんです。こんなことは初めて。戦力外になって、家族に不安や苦しい思いをさせてしまったので、今は僕自身がプレーしているだけでなく、家族に支えられて一緒に戦っているような感じ。だから優勝した瞬間に感謝の思いというか、いろいろ感じましたね」。
「これまでの倍以上に楽しかった」というビールかけを、もう一度やる。「(日本一を)絶対につかみたい。チャンスがあるんだから」。
家族とともにまた、「ソレ(by原口文仁)」を目指して戦う。
■横田慎太郎さんも一緒に
ビールかけがスタートする直前、チームスタッフは「ヨコ、一緒にやるよ。準備は、いーい?一緒にやろうね」と、横田慎太郎さんのサインボールを手に呼びかけた。
ビールが大好きで、ビールかけに呼ばれることを楽しみに待っていた横田さんも、きっと一緒に楽しんだことだろう。もしかすると、ときおり飲んでもいたかもしれない。
4000本用意されたビールはあっという間になくなった。“予行演習”は無事完了だ。“本番”のビールかけでまたどんなエピソードが飛び出すのか、今からわくわくする。
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)