阪神タイガース18年ぶりのリーグ優勝!歓喜のビールかけで虎戦士は・・・《ビールかけ裏話・前編》
■「ミエちゃん、主役ちゃうよ」「そんなの関係ねぇ」
阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝を成し遂げた。たまりにたまったマグマが爆発するように、試合後の優勝祝賀会でのビールかけは大いに盛り上がった。
冒頭のあいさつで壇上に上がった岡田彰布監督は、ヨハン・ミエセス選手が掛けているたすきに目を留めた。そこに書かれていたのは『本日の主役』。即座に「ミエちゃん、主役ちゃうよ、今日は」と鋭くツッコむと、ミエセス選手もお得意のギャグで「ソンナノカンケェネェ!」と返す。
さらに、「成績にちなんだ暴れ方をしてください」と追い打ちをかける岡田監督に、またもやミエセス選手は「ソンナノカンケェネェ!」を連呼し、会場内に爆笑を巻き起こした。まるでコントだった。
「ビールかけ、オレは5回目だけどね」とドヤ顔をした岡田監督は、「もう1回するからね。そのための今日は予行演習ということでやってください」と予告し、日本一への自信をみなぎらせていた。
そして選手会長・近本光司選手の「バモス!」を号令に、いよいよビールかけが始まった。いや、ほとんどの選手が待ちきれずにフライングしていたが…。
では、ビールかけを楽しんだ選手をできる限り紹介しよう。まずは前編だ。
(ビールかけの映像は阪神タイガース公式YouTubeに)
■「パインアレ」のかぶりものは原口文仁
真っ先に目を惹いたのが黄色い頭だ。岡田監督が好きなパインアメを模したかぶりもののようだが、よく見ると「パインアメ」ではなく「パインアレ」の文字が入っている。
「優勝」という言葉を封印して「アレ」と言い続けた岡田監督とタイガースへのリスペクトだ。
はたして誰がかぶっているのかと思いきや…なんと、最年長野手の原口文仁選手ではないか!
「いやいや、14年分たまっているからね。このときを待っていた!!」
プロ入り14年目。ひたすら優勝を目指して邁進し、ようやくたどり着くことができた喜びを、パインアメ(パインアレ)のかぶりものに込めた。
「ビールかけで何かしたいなと思って、自分から言い出したんですよ。パインアメの会社の広報の方が特注で作ってくれて…。採寸しなかったから『ちょっと小さいかも』と心配されたけど、僕、頭小っちゃいからね、ジャストフィット!(笑)」。
パインアメを製造販売しているパイン株式会社の広報担当、井守真紀さんも「8月下旬に発注をいただきました。ビールでぐちゃぐちゃになるだろうと想定して、撥水加工の布を調達して作ったんですが、ビールかけをする原口さんがすごく楽しそうで、お役に立ててよかったです」とテレビを見て、大いに喜んだそうだ。
「ビールかけ、最高っすよ。まだまだやるから、『ソレ』に向けて(笑)。次は裸になるかもね。ウソウソ」と笑わせたあと、「あれ(コスプレ)は、あくまでもオマケだからね。優勝することが最大の目的で、そのいいことがあったあとのオマケ」と続け、原口選手はあらためて日本一を誓っていた。
「アレ」の次は「ソレ」なようだ。
■ビールだけでなく日本酒までかけていた木浪聖也
亜細亜大学時代にビールかけの経験があるという木浪聖也選手。「リーグ優勝したし、日本一にもなったんで。でも、自分は全然貢献してなくて、ただ経験しただけでした」と振り返る。だが今回はプロで、しかも自身が多大な貢献をしてのビールかけだ。
「めちゃめちゃ楽しかったです。テンション上がりましたね~。いろんな人の顔にぶちまけてやりました!もちろん、監督にもいきましたよ。みんなに隔たりなくね」。
ビールをかけきったあと、さらに鏡開きに使った樽から柄杓で日本酒をすくってかけていた。
「ちょっと残ってて、『全部ぶちまいていいよ』と言われたんで、やってたっす(笑)」。
木浪選手はかぶりものはしていなかったが、「勝ってビールかけができるのが一番なんで、かぶりものはいいっすね、自分は。とにかくあの場を楽しむ!」と無邪気な姿から、心から楽しんでいるのが伝わってきた。
■侍のシャンパンファイト以来だった中野拓夢
中野拓夢選手は人生2度目のビールかけ…いや、1度目はビールではなくシャンパンだ。そう、今年3月のWBCで世界一に輝いたときのシャンパンファイト以来だった。
「このチームで1年間戦ってきて、みんなでビールかけできたことは楽しかったですし、一生の思い出というか、忘れられないものになるんじゃないかなと思います」。
侍ジャパンとはまた違った味わいだったようだ。
「やってるときは先輩も後輩も関係なくというか、先輩にも思いっきり楽しくかけることができました。もう誰が誰かわかんなくなってた部分もあるので、勢いでって感じでいってました。振るとピシュッとでるので、それで狙ってかけてました」。
残念ながら岡田監督にはいけなかったそうなので、それは“次回”にぜひ!
■過去4度は「くそ寒かった」と、経験者の大竹耕太郎
経験者といえば大竹耕太郎投手だ。こちらはなんと福岡ソフトバンクホークス時代に4度も経験済みだ。
「(ホークス時代は)リーグ優勝をせずにCSで勝って日本一になってのビールかけだったので、4回ともくそ寒かったんですよ。11月もけっこう半ばになってますから。今回は寒くなかったので、寒くないビールかけはいいっすね(笑)」。
なるほど。まだ暑さの残る時期にできてよかった。
「今までよりは貢献できていると思うし、そういう意味では気分も全然違う」と謙虚に話しつつも、充実感が漂う。そして「監督の最初の話がおもしろかったですよね。ミエちゃんいじりが」と、思い出して笑った。
次は「くそ寒いビールかけ」になるが、さらに貢献して存分に味わってほしい。
■「知らない姿が見られたのがおもしろかった」と梅野隆太郎
リハビリ中の選手たちも駆けつけた。初のビールかけだったという梅野隆太郎選手は、「ビールかけが楽しかったというより、やっぱり優勝がうれしいという感情のほうが強いかな」と感慨深げに話す。
死球で左手首を骨折し、途中で戦線を離脱せねばならなかった悔しさはあるだろう。しかし、そこまで正捕手としてしっかりとチームを牽引してきた自負が、梅野選手にはある。そして、離脱後もチームとともに戦っている気持ちに変わりはない。
「自分じゃどうすることもできないケガだし、そこまでやってきたわけだから。自分としては参加しに行ったというより、今も常に一緒に戦っていると思っているから。思いはみんなと一緒にあるから」。
優勝の瞬間にプレーしていなくとも、そこまで積み上げてきた勝利は梅野選手あってのものというのは、ゆるぎない事実だ。
ビールかけでは「いろんな選手の知らない姿が見られたのはおもしろかった。コロナで外食とかもできなかったから、酔ったらどんな感じになるのかわからない選手もたくさんいるから」と、新たな発見も楽しんだ。
「普段そんなに話していない後輩たちも、みんながビールをかけにきてくれたのもうれしかった。本当にこんなに楽しいものなんだなって思った」。
後輩たちも、ここぞとばかりに“敬愛の情”を表したのだろう。
ところで、左手は大丈夫だったのだろうか。
「ちょっと不便だったね。まだあまり動かないから。装具はあらかじめ外しといた。だってビールがかかったら、臭くなるだろうと思ったから(笑)」。
そこまで想定できるのはさすがだ。
■ビールで清められた?湯浅京己
同じくリハビリ組の湯浅京己投手も「目に入って、めちゃくちゃ痛い~」と叫びながらも、ビールかけを楽しんでいた。
「テレビ局の人に無理やり連れていかれた」と後ろから岡田監督にかけたが、写真を撮られていることに気づいてわざと悪い顔を作るなど、密かに盛り上げていた。
「あの場所に行けてうれしかったし、呼んでもらえてありがたいなって思いました。いろんな人に声かけてもらえて話せたし。より一層、CSと日本シリーズで少しでもチームの力になりたいって思ったし、自分の中でもう1こスイッチが入ったというのがあったんで、あの場にいられてよかったです」。
湯浅投手も中野選手と同じく侍ジャパンのメンバーとして世界一に輝いている。そのときから、ある思いを抱いていたという。
「あのシャンパンファイトのときから、タイガースでビールかけやりたいなって思っていた。自分自身が今シーズン、ほとんど投げてないから複雑な気持ちとか悔しさとかもあったけど、やっぱりビールかけ自体は楽しかった。だからこそ、日本一になるときにはしっかり投げて貢献して、もう一回ビールかけをやりたいな、このチームで」。
ずっと切望していながらも、故障で離脱したことが歯がゆくてしかたない。しかし、チャンスはまだある。ポストシーズンでアツアツなピッチングをすることをあらためて誓った。
そして、最後は近本光司選手に左脇腹にビールをかけてもらっていた。
「ちかさんに『脇腹にかけて』って言ったっす。消毒してって。再発しないように清めてもらった(笑)」。
もう治ってはいるが、お清めのビール(?)で万全を施した。これでもう大丈夫だろう。
■スコアラーさんを慰労する今岡真訪コーチ
2003年、2005年は主力選手としてビールかけで弾けた今岡真訪バッティングコーチは、「やっぱり選手がはしゃがんとね。選手と監督のものやから。コーチは裏方よ」と控えめにして、スコアラーさんたちを慰労していた。
「普段は負けたら、優勝しなかったら、絶対に悪者になるからね、スコアラーさんは。陰にいて毎試合、傾向と対策と分析をしてくれている。それを選手がしっかり頭に入れてやった結果が優勝ということ。勝ったらスコアラーさんも報われるし、こうやって表に出てきてくれる。それが僕はうれしい」。
指導者として感謝の念は尽きない。勝ったときは、もっとスコアラーさんにスポットが当たってほしいと考えている。こうして優勝してスコアラーさんに恩返しできたことが、今岡コーチの喜びを倍増させていた。
選手やコーチ、それぞれの思いが詰まった優勝祝賀会でのビールかけ。
後編は、糸原健斗名誉キャプテンの“あのシーンの振り返り”から・・・。
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)