中学校で「銃剣道」、自衛隊の人員危機が背景か―「外部講師」として自衛官が教育現場にも
文部科学省が先月31日に告示した新学習指導要領で、中学校で教える武道9種目として、柔道や空手、剣道に加え、銃剣道が明記された。銃剣道が旧日本軍の銃剣術を前身とすることや、一般的にはほとんど認知されておらず、国民的なスポーツとは言えないことから、教育現場で教えることに、批判的な声も少なくない。そもそも、なぜ、銃剣道が武道9種目に加えられたのか。その経緯や背景について、文科省や元自衛官、自衛隊に詳しいジャーナリストらに聞いた。
〇旧日本軍の銃剣術が前身、銃剣道は今でも自衛隊のための戦技
銃剣道とは、剣道に似た装備で、「長さ1.66メートル以上の銃剣を模した「木銃」を使い、互いに突きあうという格闘技だ。その前身は、明治初期に旧日本軍が近接戦闘での技術として生み出した銃剣術。小銃の先に短剣を付け槍のようにして戦うもので、戦中の竹やり訓練も、この銃剣術をもとにされたものだ。公益社団法人全日本銃剣道連盟は、戦後の銃剣道について「戦前の戦技的内容を完全に払拭した近代スポーツ」「現代社会人としての人間形成に資する」としている。だが、元航空自衛隊の軍事ジャーナリストで、銃剣道3段の使い手でもある小西誠氏は「銃剣道は、学習指導要領で指定するような武道ではない」と異論を唱える。「銃剣道は、あくまで、自衛隊の近接戦闘術です。陸上自衛隊では、持久走・射撃と並ぶ『三大戦技』のひとつとされ、陸自教範『普通科中隊』においても、今でも近接戦闘の決着に『銃剣突撃』を定めています。こうした戦技を学校教育に導入するのは、戦中の軍事教練の復活でしょう」(小西氏)。
〇自衛隊出身の自民議員が強烈にプッシュ
銃剣道が学習指導要領における「武道」に含まれた経緯も不透明だ。文科省・スポーツ庁によると、当初は銃剣道を実施している中学校が1校しかなかったため、学習指導要領の改訂案には明記していなかったという。しかし、「パブリックコメントで銃剣道を武道として学習指導要領に加えるべきとの意見が多くあったので、銃剣道も中学で教える武道に追加した」とスポーツ庁は説明する。このパブリックコメントで、「組織票」を入れさせたとみられるのが、自衛隊出身の佐藤正久参議員議員(自民)だ。佐藤議員は、今年3月15日付の自身のブログで、当初の学習指導要領案の武道から銃剣道が漏れていることに憤り、
と書いている。また、
とも書いている。筆者の取材に対し、スポーツ庁は銃剣道を中学で教える武道に追加した経緯について、終始、その詳細を語らなかったが、佐藤議員の強烈なプッシュに忖度した、と観るべきなのかもしれない。
〇銃剣道を中学で教えるのは、自衛官リクルートのため?
銃剣道が中学で教える武道に追加された背景について、自衛隊関連の取材を続けるジャーナリストの布施祐仁氏は「教育現場に元自衛隊員が入り込むためではないか」と読む。「昨年末、全国の自衛隊員に配布された隊員募集への協力依頼の文書には、“日本を支えていこうという仲間を十分確保していくのが極めて難しい状況(危機的状況)になっています”と書かれていました。少子化に加えて安保法制の影響もあり、今後も人員確保は厳しい状況が続くと見込まれます。ですから、自衛隊は退職自衛官の学校への再就職を推進しています。元自衛官を学校に送り込むことで、若者たちをリクルートできるからです。銃剣道が武道の種目に入れば、退職自衛官が学校に職を得る機会か増える。そういう思惑はあるのだろうと思います」(布施氏)。銃剣道の競技人口はその9割が自衛官か元自衛官とされ、普通の中学校教員で銃剣道を教えられる人はほとんどいない。実際、文科省・スポーツ庁に「外部講師として自衛官か元自衛官が中学校で銃剣道を教える可能性はあるのか」と筆者が問い合わせると、「あり得ないことではない」と認めた。
〇姑息なことより、誠実な政権運営を
いずれにしても、中学生に自衛隊の「戦技」である銃剣道を教えることは、穏やかではない。今回の決定をめぐるプロセスも不透明だ。仮に、自衛隊の人員確保が危機的状況であり、テコ入れが必要であっても、教育を利用するという姑息なことをするべきではない。必要なのは、自衛隊が派遣されている南スーダンでの状況について「戦闘」を「衝突」と言い換えるような、ポスト真実な振る舞い自体を、安倍政権が反省し、誠実な政権運営をしていくことだろう。