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美容医療がSNSでバズる時代、産婦人科医が10代に伝えたい「理想のボディイメージ」の罠

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

私たちの生活において、メディアは大きな影響を与えています。テレビ、映画、雑誌、広告、インターネット、SNSなど、日々目にするメディアに映し出される「理想的なボディイメージ」は、私たちの自己認識や自尊心に影響します。

これらの「理想的な」イメージは現実とかけ離れていることが多いのですが、SNS等でそうしたイメージを目にする機会が多く、またアプリによる写真加工や美容医療がどんどん普及している現代は、「理想と現実のギャップ」によって多くの人が自分の身体に不満を感じやすい時代と言えるでしょう。

本記事では、メディアがどのようにしてボディイメージに影響を与えるのか、健康的なボディイメージを持つためにはどうすれば良いかなどについて、10代の女性を主な対象として解説します。

思春期を迎えると、第二次性徴に伴う身体的な変化に戸惑うことも多いかと思います。自分の身体を適切に理解し、健康的な方法で皆さんが自信を持つための手助けとなれば幸いです。

目次
・メディアがボディイメージに与える影響
・比較の罠
・健康的な体重と運動の重要性
・摂食障害の怖さ
・思春期における身体の変化と受け入れ方
・まとめ

メディアがボディイメージに与える影響

例えば、メディアが映す「理想的な女性像」は、実際のところごく一部の人々にしか当てはまりません。テレビ、映画、雑誌、広告、ビデオゲームなどに登場する女性たちは、しばしば「細く、キレイ」ですが、実際には「それを仕事としているモデルや女優」によって演じられています。

また、SNSを開くと、モデルや女優ではないキラキラしたキレイな人がたくさん目に入ってきますが、これには「アプリによる修正」「美容整形」の影響もおそらく小さくないでしょう。

よって、メディアに映る「細く、キレイ」は大多数の人にとって現実的ではなく、こうした「理想像」を目指すことで健康を害してしまう可能性があります。自尊心の低下、摂食障害、うつ病などがその一例です。

比較の罠

メディアに囲まれている現代では、自分と他人の外見を比較してしまうことは避けがたいものです。テレビや雑誌、SNSなどで見るモデルや俳優、キラキラしたような人たちと自分を比べると、自分の外見に不満を感じることは少なくないでしょう。特に、近年では10代といった若い世代でもその傾向が強まっているとされています。

こうしたメディアに映る他人との比較は、自分自身に対するネガティブな評価や感情を生み、結果として自己嫌悪や不安を強めることがあります。ネガティブな自己評価は、精神的にも身体的にも悪影響を及ぼします。例えば、無理なダイエット(減量)を始めることがあり、一時的には効果があるように感じられるかもしれませんが、長期的には健康を害するリスクが高まります。また、美容医療に無理をして多額のお金を投じてしまうことにも繋がります。

メディアに映る他人と自分を比較することには多くの罠が潜んでいて、このことを10代のうちから知っておくことがとても大切です。

健康的な体重と運動の重要性

健康的な体重を維持するための指標として、「BMI」(Body Mass Index)という指標がよく用いられます。BMIは身長と体重から計算され、痩せすぎか、ちょうど良い範囲内か、過体重か、肥満かを判断するために使用されます。

BMI = 体重kg ÷ (身長m x 身長m)
適正体重 = (身長m x 身長m) x 22
*例:身長150cm、体重50kgだと、BMIは「50 ÷ (1.5 x 1.5)」=「22.2」になります。

BMIが18.5〜24.9の範囲にある場合、健康的な体重と言えます。「細くなりたい!」と思っていても、BMIが18.5を下回る状態は決して健康的とは言えませんし、女性の場合には痩せすぎによって月経不順や無月経になるリスクもあります。

また、健康を維持するためには定期的な運動がとても大事です。10代の若い世代では、国際的なガイドライン等で、週のほとんどの日に合計60分の運動をすることが推奨されています。

中程度の運動(軽めのダンス、サイクリング、ハイキングなど)や強度の高い運動(ランニング、水泳、縄跳び、サッカーなど)を組み合わせることで、健康増進に繋がります。

なお、運動は身体だけでなく心にも良い影響を与え、ストレス軽減や睡眠の質向上、不安の緩和にも役立ちます。また、月経痛や月経前症候群の症状改善も期待できることが過去の研究で示されています。

摂食障害の怖さ

不健康な食習慣は、しばしば摂食障害と呼ばれる問題に発展することがあります。平たく言えば「体重や体型への強いこだわり」や「こうしたこだわりに関係した不健康な行動」が見られる病気です。拒食症(神経性やせ症)、過食症(神経性過食症)、過食性障害といった種類があります。

具体的な行動として、断食、食事を抜く、極端なダイエット、過食、わざと嘔吐する、利尿剤や下剤の不必要な使用などが挙げられます。これらの行動は身体に深刻な影響を及ぼすことがあり、早期に対処することが重要です。

摂食障害には軽度から重度までさまざまな段階があり、重度になると命に関わることもあります。死亡率は5〜7%程度と報告されています。

また、近年ではSNSの普及により、極端なダイエットや過剰な痩せを理想的とする風潮や情報が拡散され、摂食障害の発症・悪化に影響を与えていることが指摘されています。

*摂食障害については以下のウェブサイトも参考にしてください。

e-ヘルスネット. 摂食障害:神経性やせ症(AN)と神経性過食症(BN)

思春期における身体の変化と受け入れ方

思春期には身体が急激に変化します。身長が伸び、骨盤が広がり、皮膚トラブル(ニキビなど)が増えやすいです。第二次性徴に伴う変化もあり、学校内だけでなくSNS等で多くの人の外見を見る機会があるので、自分の身体が「普通」に見えるかどうか不安になってしまう気持ちは当然とも言えるでしょう。

しかし、身体的な外見には幅広い「正常」が存在します。女性であれば、乳房や陰唇のサイズや色は人によってさまざまであり、ほとんどの場合すべて「正常」です。(中には医療のサポートが必要な真の「異常」もありますが、決して多くはありません)

インターネットやメディアで見かける画像と自分をそのまま比較しないようにしましょう。思春期の身体の変化は、健康な成長の一部として受け入れることが大切です。

まとめ

SNSを含むメディアが私たちのボディイメージに与える影響をきちんと理解し、しっかりと健康的なボディイメージを持つことは、心身の健康にとってとても重要です。

外見に関する不安や恐怖心をなくし、自分自身をより大切にするために、「幻想的な理想」に振り回されることなく、健康的なライフスタイルを維持することが大切です。世の中の画像や動画をそのまま鵜呑みにせず、自分の個性や心身の健康を大事にすることで、自信を持ちやすくなるでしょう。

同時に、誤った「理想像」を他人に押し付けるような言動は誰であっても慎むべきです。言葉をかけた側は少しからかっただけのつもりでも、言われた側は深く傷つき、それがきっかけで摂食障害に至ってしまうケースもあります。外見に関する不用意な言葉は容易に人の健康や安心を奪ってしまう可能性があることを、10代のうちから知っておくことが求められますし、そのような学びの場を作るために包括的性教育の普及が必要です。

特に思春期で、自分の身体・外見について不安や疑問がある場合は、産婦人科などの専門家に相談することをお勧めします。保護者の方にも「思春期で産婦人科を受診することは恥ずかしいことではない」という認識を持っていただくことが大事で、ぜひお子さんの健康を一緒に守っていただけたら嬉しいです。

参考文献
・ACOG FAQs for Teens. Media and Body Image.

*以下の記事もご参照ください。

性に関する知識やスキルだけではない「包括的性教育」とは? 今の日本に必要な理由(重見大介)

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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