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Appleなどが抗議、インドの「国内製造促進策」と「輸入依存低減策」とは?

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
インド初のアップル直営販売店がオープン(2023年4月)(写真:ロイター/アフロ)

インド政府はこのほど、パソコンやタブレット端末、サーバーなどのIT(情報技術)ハードウエアの国内生産を促進するインセンティブプログラムに少なくとも32社の企業が応募したと明らかにした。ロイター通信や米ブルームバーグ通信が報じた。

インド政府、PLI対象を拡大中

インドのバイシュナウ電子・情報技術相によれば、プログラムに申請したのは米HPや米デル・テクノロジーズ、台湾・華碩電脳(エイスース)、台湾・宏碁(エイサー)、中国レノボ・グループなど。米アップルはまだ申請していないという。

これは、PLI(プロダクション・リンクト・インセンティブ、生産連動型優遇策)と呼ばれるインド政府の補助金制度だ。インドで製造された製品の売上高の増加分に対して4〜6%の割合が補助金として支払われる。

「このITハードウエア向けPLIは、243億ルピー(約430億円)の投資を呼び込み、7万5000人の直接雇用を創出する」と、バイシュナウ電子・情報技術相は述べた。

PLI(生産連動型優遇策)は、モディ政権が掲げるインド製造業振興策「メーク・イン・インディア」への参加を促すものだ。米ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、PLIの対象となる企業は投資額から数百万ドル(数億円)を回収できる。インド政府は当初、その対象をスマートフォンなどの携帯電話と特定電子部品に限定していたが、最近は他の消費者向け電子機器や半導体、ドローン(無人機)などにも拡大するようになった。23年5月にはITハードウエア分野の2次募集として、対象をノートパソコン、一体型パソコン、タブレット端末、サーバー、超小型フォームファクター機器などに拡大した。

インド、パソコン輸入を免許制に

これに先立つ23年8月3日、インド政府はノートパソコンやタブレット端末などの電子機器の輸入を免許制にすると発表し、波紋を呼んだという経緯がある。当初は直ちに導入するとしていたが、その後移行期間を設けるとして、23年11月1日に実施すると明らかにした。

ブルームバーグやインド紙タイムズ・オブ・インディアによれば、米アップルや米インテルなどの米企業は23年8月中旬、この輸入規制に抗議した。

米国の8つの業界団体は、米商務省や米通商代表部(USTR)などに対し、インドに政策の再検討を促すよう要請する書簡を送った。共同書簡では、「自由な物資の流通を制限する措置を講じれば、貿易およびサプライチェーンのパートナーとしてのインドの信頼性に疑問が生じる」と指摘した。

米調査会社のIDCによると、インドのパソコン市場における23年4〜6月期のメーカー別出荷台数シェアは、HPが首位で31.1%を占めた。このあとレノボの16.2%、デルの15.3%、エイサーの11.4%、エイスースの7.2%と続いた。このランキングにアップルは入っていないが、同社は国際事業の経営体制を刷新し、インドに一段と比重を置く施策を講じている。23年4月には同社初のインド直営店をオープンした。

ウォール・ストリート・ジャーナルは、香港の調査会社カウンターポイントリサーチのデータを引用し、インドは、スマホとテレビについて、国内需要のほぼ100%を自国生産することに成功していると報じている。一方で、ITハードウエア製品全体で見ると、約3分の2を輸入に頼っている。

米通商代表部、インドに懸念伝える

同国はメーク・イン・インディアを推し進めるために、関税を調整するなど、さまざまな輸入制限を導入してきた。今回の輸入免許制はその一環とみられる。しかし、同国の電子機器製造業がまだ十分に発展していないことを考えると、この措置はメーカーと消費者の両方に悪影響を及ぼす可能性があると、業界幹部やアナリストらは指摘する。

ロイターなどによると、USTRのKatherine Tai(キャサリン・タイ)代表はこのほどインドを訪れ、ゴヤル商工相に米政府の懸念を伝えた。

タイ氏は「この政策が実施された場合、米国のインド輸出に悪影響を与えないよう、関係者が検討し、情報を提供する機会が必要だ」と指摘した。

こうしたなか、インド政府はこのほど、ノートパソコンやタブレット端末などに関する新たな「輸入管理制度」を23年11月1日から導入すると正式発表した。

ロイターによると、この制度の下では、企業が輸入製品の数量と合計価格を登録する義務がある一方、インド政府は輸入申請を却下することはなく、収集したデータを市場状況の監視に利用するという。当初、政府が申請の保留や却下ができる仕組みとされたが、米政府や業界からの批判を受け、内容を一部変更したようだ。

これにより、デルやHP、アップル、レノボなどのパソコンメーカーに安堵(あんど)がもたらされたとロイターは報じている。

筆者からの補足コメント:

インドの新規制の下では、新モデルを市場投入するたびにライセンスを得る必要があり、手間と時間がかかることになるとも指摘されています。アップルは、電子機器受託製造サービス(EMS)世界最大手である台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などと提携して、インドで「iPhone」の生産を拡大しています。ですが、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、パソコン「Mac」やタブレット端末「iPad」はインドで生産しておらず、これら製品の同国向け販売はインドへの輸出品に頼っています。パソコン大手のHPやデルは現地生産を行っていますが、その数量は限定的。今後、これらメーカーは現地生産やその拡大を迫られる可能性があると指摘されています。

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年9月8日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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