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視聴率低迷が取りざたされる「いだてん」 主人公の地元からは「手ごたえあり」の声

田中森士ライター・元新聞記者
金栗四三がストックホルム五輪で着用したユニホーム(筆者撮影)

毎週日曜の午後8時に放送中のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)」の視聴率に注目が集まっている。関東地区の初回の視聴率は15.5%(ビデオリサーチ調べ)と、歴代ワースト2位を記録。2話の視聴率も12.0%(同前)と低迷した。さらに、SNSやネット記事では「大河ドラマの題材としてふさわしくなかったのでは」などと否定的な意見が目立つ。まさに逆風が吹く状況といえるが、前半の主人公・金栗四三(かなくり・しそう)の出身地、熊本県和水(なごみ)町では、「注目度は高い」「手ごたえを感じる」など今後に期待する声が上がっている。

11日にオープンしたばかりの「金栗四三生家記念館」(同町)。金栗が14歳までを過ごしたこの場所に20日、筆者が足を運ぶと、大勢の人で賑わっていた。ここで2話の撮影が行われたこともあり、来館者らは建物の天井や金栗の勉強部屋などを、熱心に観覧していた。同町社会教育課によると、これまで想定を上回る来館者数で、14日は1日だけで1152人に達したという。

11日にオープンしたばかりの「金栗四三生家記念館」(筆者撮影)
11日にオープンしたばかりの「金栗四三生家記念館」(筆者撮影)

同課の前渕康彦課長は、「多くの方に足を運んでいただけて嬉しい。盛り上がりを感じる」と笑顔。一方、視聴率については「今の時代、録画して後日視聴する人も多いだろう。どれだけ参考にしてよいものか」と疑問を投げかけた。また、題材に否定的な声が聞かれることについては、「2020年の東京五輪に向け、まさに今取り上げるべきテーマ」と強調。その上で「金栗自身が魅力的な人物であり、さらに東京五輪につながるストーリーはロマンを感じる。大河ドラマとしての要件は充分満たしているだろう」と分析した。

「生家記念館」と同日にオープンした「金栗四三ミュージアム」(同町)も20日、大勢の大河ドラマファンなどで賑わっていた。筆者が訪れた時間帯、駐車場は満車で、第2駐車場まで車を誘導してもらった。ミュージアムは、金栗の生涯を紹介した展示パネルのほか、足袋など金栗の遺品が展示されている。ミュージアムによると、12〜14日の三連休で、想定を上回る約3千人の来館者があった。40分間で回れるよう展示内容を企画したが、展示に熱心に見入る来館者が続出。1時間ほど滞在する人も多く、休みの日は混雑が続いているという。

ミュージアムの北川雅和館長は、「ありがたいことに電話で『素晴らしい展示でした』などお褒めの言葉を多数頂戴している。大河ドラマの視聴率が低迷していると聞くが、ミュージアムとしては金栗への関心が徐々に高まっているという手ごたえを感じている」と充実した表情。これから金栗を中心に話が進んでいくことを念頭に、「展開が進んでいけばドラマ自体への注目度も上がっていくのでは」と今後に期待を寄せた。

賑わいを見せる「金栗四三ミュージアム」(筆者撮影)
賑わいを見せる「金栗四三ミュージアム」(筆者撮影)

ミュージアムの外で、来館者にも大河ドラマの感想を尋ねた。妻と2人で訪れた福岡県筑紫野市の50代男性は、長年の大河ドラマファン。初回については「正直これまでとは違うなと感じた。登場人物も多く混乱した」とした一方で、「2話は話が分かりやすく急に観やすくなった印象。戦国時代を題材としたものよりも登場人物を身近に感じることができ、楽しめた」と好意的な意見だった。一方で、「大河ドラマに慣れ親しんだ人の中には、『近現代』を扱うことに少し違和感を覚える人もいるだろう」とも述べた。

熊本市西区から家族で訪れた男性(30)は、「実はまだ一度も観ていないんです」。「クドカン」が脚本を担当したということで、興味を持ち録画まではした。しかしながら仕事が忙しく、観る時間が取れていないという。「若い世代は僕みたいな人、多いと思いますよ。よく考えたら僕は視聴率に貢献できてませんね」といたずらっぽく笑った。

筆者は今回、生家とミュージアムをじっくり見学したが、来館者の多くが家族連れで、親子三代も目立った。その光景を見て、今回の大河ドラマはまさに「世代間をつなぐ」テーマであると感じた。また、展示から伝わってくる金栗のへこたれない精神、そしてまっすぐな姿勢には、勇気をもらった。閉塞感が漂う日本社会だが、間もなく平成は終わり、次の時代へと日本全体が進む。そうした意味では、「いだてん」はまさに今必要なテーマだと強く感じる。今後、視聴率論争ではなく、「いだてん」のストーリーや意味合いについて注目が集まることを切に願う。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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