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今季初先発の日本代表・松田力也、トヨタ移籍へ必要な覚悟。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
キャンプに参加する松田(写真提供=JRFU)

 ラグビー日本代表は7月21日、北海道・札幌ドームでイタリア代表とぶつかる。

 今夏の5試合は次で最後。世界ランクで6つ上回る8位の相手からシリーズ2勝目を狙う。

 スペース攻略の迅速化を目指すエディー・ジョーンズヘッドコーチは、こう述べる。

「私たちがここまで進んでいる方向についてはいい感触です。結果には満足していませんが、アタックでは我々のスタイルを示しているシーンがある。今後はここに一貫性が必要。我々のキャップ数(代表戦出場数)が200以下という若いチーム。またスピードに乗って息の合った連係を取るには非常に時間がかかることを認識しています。プレーヤーにも、お互いを知る時間は必要です。ただ、チームの方向性は正しい。時間がかかるとは思いますが、今週末のイタリア代表戦もよきチャンスと捉えます」

 ここで流れの円滑化、万事における好判断が期待されるのが今度のスタンドオフか。

 松田力也。昨秋のワールドカップフランス大会で正司令塔を担った30歳だ。メンバーに入ったのは6月22日のイングランド代表戦(東京・国立競技場/●17―52)以来で、イタリア代表戦をシリーズ初先発とする。

 若手中心のJAPANXVの対マオリ・オールブラックス2連戦(6月29日以降、1勝1敗)では当初からメンバー外の予定だったものの、13日のジョージア代表戦(宮城・ユアテックスタジアム仙台/●23―25)でもメンバー外。スターターの座は23歳の李承信、リザーブのスタンドオフ 要員も同学年で現在29歳の山沢拓也に譲った。

 ジョーンズは言う。

「松田は今回の合宿合流から課題がいくつかありました。これまで本人のプレーしてきたスタイルとは(現代表は)明確に違う。そこに慣れてもらうべきだという課題です。それを彼は解決しています。テストマッチ(代表戦)に向けてハードなトレーニングも積んでいて、いい形で成長しています」

 正確なゴールキックと強靭さ、首尾よくプランを遂行する資質を強みとする松田は、メンバー発表前の17日、オンラインで取材に応じている。

 まず話したのは、ジェイミー・ジョセフ前ヘッドコーチ時代と現在とのスタイルの違い、雌伏期間に意識したことについてだ。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——前体制時といまとの違い。

「アタックの部分では速くボールを動かす。どう動かすかも含めて変わってきました。僕自身のことで変わったのはボールのもらい方、ラインの深さ、仕掛け方がいままでと違う。最近は、自分の感覚をどう合わせていくかを考えてプレーしています。ディテールも前回の日本代表とは違う。合わせていきたいです。

ランの仕掛け方が重要視されている。その感覚をすり合わせるので、初めは少し戸惑いました。でもいまは手応えを感じているし、周りとの連携を含めてよくなっている実感はあります。

 どんどん相手に仕掛けることが必要とされている。どんどん相手に仕掛けることが必要とされている。ディフェンスとの間合いで、(これまでは)早く外にボールを運べばもらった人がスペースを持ってプレーできるかなと考えていましたが、いまは仕掛けることでその周りにスペースを作り出す形。もともとは僕もそっちの仕掛けていくタイプだったんですけど、長くスタンドオフをやってくるなかで速く外にシフト…という風になっていた。そこの切り替えに取り組んでいて、いまうまくはまってきています」

——雌伏期間、ジョーンズからのフィードバックは。

「『いい形で成長している』と言ってもらえていました。『出られないことにはストレスはあると思うけど、この調子で取り組んで。また若い選手をサポートしながらチーム全体が上がっていけるようにして欲しい』とも。悔しさをエネルギーに変えていますが、僕もいい年。フィールド外で若い選手とコミュニケーションを取っています」

——定位置争いについて。

「李はキックもうまいですがランが持ち味。思い切ったいいプレーをする。そこが『超速ラグビー』(ジョーンズが打ち出すコンセプトの名称)に合っているとは思います。そこで僕自身、ランでも勝負しますが、速い判断、スキルを使う。それも『超速ラグビー』には必要になってくる。よさを高めながらチャレンジしたいです。10番(先発スタンドオフ)へのこだわりは相変わらず持っている。10番を着られなかったこの2試合(代表戦)に関しては、もう一度、自分を見つめ直すいい時間にもなった。悔しさもありながらいい形でトレーニングできています」

——いまの日本代表をどう見るか。

「いい形で進んでいる部分もたくさんあるし、『超速ラグビー』を体現できている時は相手にプレッシャーをかけている実感もある。でも、ゲームを80分通して見た時にキックも使わないといけないし、ゆっくりこっちが時間を使い、整え、アタックすることも必要になる。ずっと自分たちがペースを握っているわけではないし、相手がペースを握っている時にどうやってコントロールして流れを取り戻すかを考えないといけない。そして、そこは僕が他との違いを出せる部分。冷静にコントロールしたい。『超速ラグビー』をどうオーガナイズするかを考えます」

——次の相手は強いが。

「なかなか簡単な試合にはならない。自分たちのラグビーをする時間をどれだけ作れるかが鍵になると思うし、相手の時間をどれだけ自分たちの時間に戻せるかも。あとはスコアできるところでスコアしないと勝てるゲームにはならない。突き詰めていきたい」

 ナショナルチームで新たな刺激を受けている松田は、国内リーグワンでも転換期を迎えている。

 2017年からプレーしてきた埼玉パナソニックワイルドナイツを退団し、来季からトヨタヴェルブリッツに移籍する。

 前所属先では21年度まで旧トップリーグ時代から2シーズン連続で首位。ここ2シーズンは準優勝も、昨季はレギュラーシーズン全勝と存在感を示していた。

 かたやヴェルブリッツは昨季、アーロン・スミス、ボーデン・バレット(すでに退団)を司令塔団に据えながら12チーム中7位。新司令塔候補である松田は、その現実にどう対処するか。

 今回の取材で話した。

——ヴェルブリッツを選んだわけ。

「チームを変えることは大きな決断で、勇気がいることだったんですけど、(出身の帝京大学で)同期の姫野和樹(ヴェルブリッツの主将)らがいい声をかけてくれたのが要因のひとつ。彼と一緒にラグビーをしてタイトルを狙い思いがありました。世界的な9番(スミス)もいて、スティーブ・ハンセン(総監督)、イアン・フォスター(ヘッドコーチ)というオールブラックス(ニュージーランド代表)出やってきたコーチのもと、新しいラグビーをインストールできると思った。わくわくしているし、自分自身のプレーの幅を広げるにも前向きにとらえています」

——前年度の順位を踏まえると、優勝するためのタスクは少なくないかもしれません。

「ラグビーはひとりでやるものじゃない。色々なコミュニケーションを取りながらやります。代表のなかでもヴェルブリッツの選手がたくさんいるので彼らといいコミュニケーションを取って、早く周りを知って、彼らをいい形で活かせるようにしたいです。ワイルドナイツはいいモデルになっている。それを倒すにはどうするかを考えることでも成長できる。周りにいい影響を与えたいし、自分も刺激をもらいながらやっていきたいです」

 進歩を楽しむ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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