『風の谷のナウシカ』巨神兵のビームvs『ラピュタ』の雷。どっちがすごいか、空想科学で考えてみた!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
美しい風景をバックに、透明感あるメロディが流れ、誰もがふっと優しい気持ちを取り戻す……。宮崎アニメは、本当にすばらしい。
でも同時に、壮絶な破壊兵器が登場したりするのも、宮崎アニメである。
特に『風の谷のナウシカ』の巨神兵のビームと『天空の城ラピュタ』のラピュタの雷(いかずち)は、その威力がすさまじい。
巨神兵は、かつて「火の七日間」で世界を焼き払ったと伝えられる巨大な人型兵器。
口からビームを吐いて地平線を薙ぎ払い、この世の終わりのような大爆発を起こした。
ラピュタの雷は、空に浮かぶ城・ラピュタの底面から発射される光の砲弾。
高空から海面に放たれたとき、下界で火球が広がり、爆風と轟音は天空をも揺るがした。
ラピュタ王の末裔・ムスカによれば、『旧約聖書』でソドムとゴモラの町を滅ぼした「天の火」も、古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』で語られる「インドラの矢」も、このラピュタの雷だという。
ともに、背筋が寒くなる破壊兵器だが、その威力はどちらが上なのだろうか?
◆どちらもすごい爆発を起こす!
巨神兵のビームと、ラピュタの雷は、ともに巨大な火球を発生させた。
このような場合、火球の半径と、その大きさまで膨張するのに要した時間から、爆発のエネルギーを求めることができる。
巨神兵のビームは、王蟲の群れに向けて発射され、地平線上に多数の火球を発生させた。その火球の半径は、目測で1kmほど。
また、アニメの画面を観察すると、火球が半径1kmまで膨張するのに0.1秒を要している。
ここから火球1個あたりのエネルギーを算出すると、ビキニ環礁の実験で使われた水爆の0.9発分だ。
また、このビームは60度の角度で放射状に発射された。
この掃射角度と火球の間隔から、このとき16個の火球が発生したことがわかる。
すると、ビームの総エネルギーはなんと、ビキニ水爆15発分!
身の毛もよだつ破壊兵器だ。
一方、ラピュタの雷で爆発した火球は、およそ1秒でラピュタが浮遊する高さほどまで膨張した。
ラピュタは積乱雲のなかに浮かんでいると考えられ、積乱雲は地上2~14kmくらいにまで伸びる縦長の雲だから、ここでは火球の半径を7kmと仮定しよう。
その場合、ラピュタの雷のエネルギーは、ビキニ水爆28発分!
巨神兵のビームを上回る、とんでもない威力である。
◆巨神兵たくさんvs天空の城
では、もしも巨神兵とラピュタが戦ったら、いったいどちらが勝つのか。
すでに見たとおり、威力ではラピュタが巨神兵の2倍近い。
高空からの攻撃も可能だし、1対1で戦えば、ラピュタが勝つ可能性が高いかもしれない。
だが『ナウシカ』の火の七日間のシーンを見ると、巨神兵は多数いるようだ。
だとしたら、勝敗は巨神兵の数にもよるのではないか。
巨神兵は何体いるのだろう?
これを知るには「全世界を7日間で火の海にするのに、巨神兵が何体必要か」を考えればいい。
身長100mほどの巨神兵にとって、地平線は35km彼方。またビーム1発は、そのエネルギーから計算して、半径9kmを壊滅させると思われる。
すると、地平線に向けて左右60度で掃射したときの破壊領域は、円弧に沿った横幅54km×前後幅18kmで、面積は900km²。
ビーム一閃だけで、東京23区の1.5倍が灰燼に帰すということだ!
また身長100mほどの巨人が人間と同じ動作で歩くと、時速30kmほどで進むことになる。
ここから計算すると、1体の巨神兵は、7日間で26万km²を火の海にできるはずだ。
これは本州と九州を合わせたくらいの面積で、世界の陸地面積の590分の1にあたる。
ということは、7日間で世界を火の海にするには、巨神兵は590体いればよい!
いや、つい元気よく「いればよい!」などと書いてしまったが、あんなのが590体もいたら、めちゃくちゃ怖い。
しかも、巨神兵590体vsラピュタ1基という兵力差では、もうラピュタに勝ち目はないのではないか……?
総火力を比較すれば、計算上は、巨神兵軍の圧勝だ。
もし巨神兵590体が地上からラピュタを包囲し、ビームの集中砲火を浴びせれば、旧約聖書の時代から空を制圧してきたラピュタも、その歴史に幕を下ろすだろう。
だが、それは「巨神兵がラピュタの近くに集結していたら」の話。
この590体という兵力は、巨神兵が世界中に散開し、効率よく「火の七日間」を遂行した……という仮定から出てきた数字だから、彼らはバラバラに広がっているはずなのだ。
その場合の、人口密度ならぬ「巨神兵密度」はどれくらいなのか?
計算すると、巨神兵同士の間隔は1340kmだ。
1体の巨神兵が函館にいたら、すぐ隣の巨神兵は熊本にいる……というくらい離れている。
こうなると話は違ってきそうである。
これだけ離れていたら、ラピュタが函館の上空にいるときは、熊本の巨神兵からは決して見えない。
どんなに目がよかろうと、ラピュタは地平線の向こうに隠れてしまって見えないのだ。
ということは、ラピュタvs巨神兵の戦いは、常に1対1!
するとラピュタとしては、空から巨神兵を1体ずつ狙い撃ちしていけばいいことになる。
その雷は、1発で半径41kmを焼き払うから、多少狙いが甘くても大丈夫だ。
一方、攻撃されている巨神兵が別の巨神兵に助けを求めても、時速30kmの歩行速度では、1340kmも離れた仲間のもとへ駆けつけるまで33時間もかかる。
とても間に合わないだろう。
つまり、巨神兵が「火の七日間」を遂行している最中であれば、ラピュタは上空から1体ずつ攻撃していくことで、全部の巨神兵を倒せる……という計算になるのだ。
なんと、有利なのはラピュタの雷!
このシミュレーション結果には、筆者も驚いた。すごいな、天空の城。