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小山怜央アマ(29)朝日杯二次予選突破はならず トップクラス広瀬章人八段(35)に止められる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月9日。東京・将棋会館において第16回朝日杯将棋オープン戦二次予選・E組決勝▲広瀬章人八段(35歳)-△小山怜央アマ(29歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 14時に始まった対局は15時49分に終局。結果は115手で広瀬八段の勝ちとなりました。

 広瀬八段は本戦トーナメント(ベスト16)進出を決めています。

 一方、一次予選から5連勝と快進撃を続けていた小山さんはここで敗退。アマチュア初の本戦進出はなりませんでした。

広瀬八段、さすがの終盤力

 小山アマは二次予選1回戦で千田翔太七段に勝ちました。

 千田七段は、順位戦では現在B級1組に所属。本棋戦では2019年度の優勝者です。

 また広瀬八段はA級に在籍。本棋戦では2011年度と17年度に準優勝をしています。

 広瀬八段は、これまでタイトルを通算2期獲得。今年度も藤井聡太竜王に挑戦するなど、トップクラスの活躍を続けている棋士です。そうしたトップクラスの棋士と当たるところまで、小山さんは勝ち進んできたわけです。

 局後、小山さんと当たったことについて、広瀬八段は次のように語っています。

広瀬「そうですね。正直いうと、驚いたというところですけれども。なんていうか。千田さんとの将棋も、けっこう内容もよさそうだったので。将棋の調子というか、状態っていうのがかなりいいのかなと思っていました」「やっぱり小山さんがここまで勝ち上がられてきたということで。編入試験受けてる最中ですけど。まあ、なんというかやっぱり、プロと遜色ない実力の持ち主だと改めて思いました」

 本局は広瀬八段先手で、戦型は矢倉に進みました。これは小山さんにとって、予想外だったそうです。

小山「広瀬先生が(先手矢倉を)採用するイメージがあまりなかったので。意表の出だしではあったんですけど。普段の研究会とかの将棋を思い出して指してて」

 小山アマが急戦をにおわせる現代最新の布陣なのに対して、広瀬八段は飛車先の歩を交換したあと、横歩を取ります。小山アマは逆に飛車先から抑え込む順を取りました。

小山「思ったよりはうまく序盤戦は乗り切ったのかな、という感じでした」

広瀬「流行している形ですけど、ちょっと難しい。やや珍しい形になったかなと思いまして。△2六歩垂らされて以降、その歩をめぐる攻防というか。なんか早めに△2六歩をとがめる順があるか、考えてたんですけど。まあちょっと浮かばなかったので、本譜のような形になって。後手も態勢十分ですけど。一応こちらもそうですね、王様を深めに囲って。反撃含みでという指し方になりました」

 58手目。小山さんは飛車取りに銀を打ち、相手の飛車を封じ込めます。

広瀬「△3八銀からの順も、後手がちょっとやりくいかなと思っていたんですけど。ただ数手進んでみると、逆にこちらもやっぱり飛車が狭くて。ちょっと攻めも遠いというか。時間かかるんで。ちょっとそうですね、なんか飛車が隠居したあたりは自信がないかと思ってました」

小山「△3八銀自体は、広瀬先生がおっしゃる通り打ちにくい銀だったんですけど。ちょっと▲3九飛車と回られるとまずいので、しょうがないかなと思って打ちました。で、数手進んでみると、飛車を8一に回った局面は意外と景色がよくて。勝負にはなるのかなという感覚で進めてました」

 コンピュータ将棋ソフトが示す評価値は、やや小山さんリードで迎えた終盤戦。ここから棋界有数の終盤力の持ち主である広瀬八段が、底力を発揮します。

 小山さんは終盤で2個所、反省点があったそうです。

小山「(70手目)△8六桂と打ち込んだところは、その後の▲8八歩を軽視してたので。もうちょっと考えておけばよかったなっていうのと。最後の方の△5八金って、けっこう重くっちゃった手は、なんか自分の中ではもっといい手がありそうで。これが敗着になるんじゃないかという予感はしてたので。そこら辺は残念ではありますね」

 広瀬八段は正確な速度計算で優位に立ちます。

 

広瀬「(85手目で)角を取れたのが少し楽になったかと。(79手目)▲5二と寄ったときに、もう1回早逃げするとか。いろいろ後手も手段は多くて、悩ましかったとは思うんですけど。本譜が、先手玉が思ったよりも詰めろがかかりにくい形だったのが、幸いしたかなと」

 101手目。広瀬八段は自陣の桂を跳ねます。自玉の逃げ道を開きながら、相手玉への寄せにもはたらいている「詰めろ逃れの詰めろ」で、これがきれいな決め手となりました。

 115手目。広瀬八段は角を成り込んで王手をかけます。詰将棋のようなきれいな詰みで、広瀬八段が見事に勝ちきりました。

広瀬「本戦は、また当然ながら相手がさらに厳しくなるので。本局のようにうまくバランスを保って粘り強く指して勝ち上がっていければなと思います」

小山さんの挑戦は続く

 広瀬八段は小山さんについて「中盤以降の指し方がしっかりしてる」と、その実力を称えました。

広瀬「最後、こちらに幸いしましたけど。局面が思ったより難しかったのが幸いしたという程度で。今日、負けそうな局面もあったかなと思うので。やっぱり編入試験を受けるにふさわしい実力の持ち主かと、改めて思いました」

小山「朝日杯は、今期始まる前は1回も勝ったことがなかったので。まずは一つ一つ大事にしよう。一局一局大事に指そうと決めていたんですけど。思ったより内容がよくて、勝ち進むことができたので。最後も負けてはしまったんですけど、ちょっとボロボロになるんじゃないかという恐怖が自分の中にはあったので。そうならなくてよかったな、とは思ってます」

 小山さんが岡部怜央四段と対戦する棋士編入試五番勝負験第2局は、12月12日におこなわれます。

小山「朝日杯で貴重な経験をさせていただいたので、それをうまく活かして、落ち着いて指せたらと考えています」

 本局の感想戦が終わって一礼したあと、広瀬八段は小山さんに声をかけていました。

広瀬「編入試験もがんばってください」

小山「ありがとうございます」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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