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佐々木勇気八段、藤井聡太竜王に秘策をぶつけて会心の勝利 竜王戦七番勝負は両者2勝ずつのタイに

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月15日、16日。大阪府茨木市・おにクルにおいて、第37期竜王戦七番勝負第4局▲佐々木勇気八段(30歳)-△藤井聡太竜王(22歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。


 15日9時に始まった対局は、16日15時45分に終局。結果は97手で佐々木八段の勝ちとなりました。


 七番勝負はこれで互いに2勝2敗となりました。


 第5局は11月27日・28日、和歌山県和歌山市・和歌山城ホールでおこなわれます。


 今回の竜王戦で、通算14回目の七番勝負登場となる藤井竜王(七冠)。過去13回はそのすべてを制してきました。七番勝負で2敗目を喫したのは14回中、3回目となります。


佐々木八段、秘策をぶつけてリード


 佐々木八段先手で、戦型は角換わり。両者ともに得意とする戦型です。佐々木八段が早繰り銀に出たのに対して、藤井竜王も早繰り銀に。そこで佐々木八段がその早繰り銀を中段で繰り替え、腰掛け銀へとスイッチする秘策を見せました。


佐々木「相早繰り銀の難しい将棋なんですけれども」「分岐が多い将棋なので、どの将棋になるかは、ちょっとやってみないとわからないところはあったんですけれど。早繰り銀の形から腰掛け銀に変えて。後手の動きを見て、より積極的にっていう。本譜の指し方はちょっとやってみたい形ではありました」


 佐々木八段は、アグレッシブな方針を見せて動きます。


佐々木「(31手目)▲6五歩、▲4六角と、今回は積極的な動きをやってみました」

藤井「▲6五歩から▲4六角と攻めてこられる手順を少し軽視してしまっていて。進んでみると、かなり早い段階からちょっと苦しい展開になってしまったかなと感じていました」

 佐々木八段は事前に想定していた形の一つであったか、あまり時間を使うことなく指し進めていきます。角交換によって藤井竜王に桂を跳ばせ、弱点となる桂頭をねらって攻めるのがうまい手の作り方。藤井陣に生じたスキに角を打ち込んで馬を作るなど、佐々木八段が少しずつポイントを稼いでいきました。

佐々木「馬が手厚くなってくれてるかなと思ったんですけど」

 1日目は18時に手番の側が次の手を封じて、指し掛けとなります。その少し前に、佐々木八段は61手目、銀を中段に上がる手を指しました。

藤井「私もたぶん、封じ手の時刻の15分ぐらい前に指したことはこれまでたぶん、何回かあるので。そこは意表を突かれたということはないんですけど。1日目、ちょっと常に厳しい手を指されて。相当苦しくなってしまったなとは感じていました」

 藤井竜王が62手目を封じて、1日目が終わりました。

佐々木「1日目はうまくいったなと思ったんですけど」

藤井「相当厳しい形勢になってしまったかなと思っていました」


佐々木八段、会心譜で2勝目


 明けて2日目。藤井竜王は端9筋の香を進め、佐々木陣に成り込みます。このあとは佐々木八段がさらに攻め続け、馬を切って飛車先の歩を成り込み、右辺2筋を破って好調に進めていきます。コンピュータ将棋(AI)が示す評価値では、佐々木八段が大きく優勢。しかし対局者自身は、自分の力だけで戦わなければなりません。佐々木八段は楽観することなく、慎重に考え続けます。

佐々木「ちょっと2日目の昼休ぐらいのところで、なかなか決めきれる順が見つからなかったので。またちょっと、難しくしたかなと思いながら考えていました。(81手目)▲3二とのところ、本当は▲2二と、っていう変化を指したかったんですけど。ちょっと勝ち筋が読み切れなかったので。予定変更の順で」「最後も、ちょっとギリギリの勝負になったかなと思っていました」

 藤井竜王は佐々木陣に角を打ち込んで王手飛車をかけます。迫力のある反撃ですが、佐々木八段は攻防ともに正確に応じて、乱れるところがありません。角を打って「合駒請求」をしたのもうまい攻防手となりました。

佐々木「(93手目)▲5三角に△6二香と1枚駒使わせることができたら、少し勝ち筋に入ってるのかなと」

 97手目。佐々木八段は藤井陣に飛車取りで銀を打ち込み、一手勝ち。藤井竜王が投了し、竜王戦七番勝負としては比較的早い15時台での終局となりました。

佐々木「今回は内容がよく指せたかなと思いますし。踏ん張ることができたかなと思います。竜王戦は自分の実力以上というか、内容のいい将棋が指せているので。これを継続できるように、第5局までに、また少しでも実力を高められるようにがんばりたいと思います」「竜王戦は2勝2敗になんとかできまして。12月までシリーズを楽しむことができました。これでモチベーションを上げて、またがんばっていきたいと思います」

藤井「1日目の午前中ぐらいで、本当に勝負どころが少し過ぎてしまって、一方的な将棋になってしまったので。対局を楽しみにしていただいていた方には、申し訳なく思っています。また第5局以降は、まずは熱戦が指せるようにせいいっぱいがんばりたいと思います」「これで2勝2敗というスコアになったので。第5局以降気持ちを切り替えて、まずは第5局に向けて、しっかり準備をしていきたいと思います」

通算対戦成績も拮抗


 藤井竜王と佐々木八段の対戦成績は藤井6勝、佐々木4勝となりました。

 藤井竜王と10局以上対戦している棋士の中では、佐々木八段はもっとも拮抗した成績をあげています。


 藤井竜王の今年度成績は22勝8敗(勝率0.733)となりました。


 佐々木勇気八段の今年度成績は20勝10敗(勝率0.667)です。


 王者・藤井竜王が4連覇を果たすのか。それとも佐々木八段が現棋界の絶対王者からタイトルを奪い、初の戴冠を果たすのか。今期竜王戦は、激熱の展開となってきました。


将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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