埼玉県川口市のSKIPシティで毎年実施されている＜SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024＞が現在開催中だ。

　白石和彌監督、中野量太監督、上田慎一郎監督らを名だたる映画監督たちを輩出する同映画祭は、いまでは若手映画作家の登竜門として広く知られる映画祭へと成長している。

　とりわけメイン・プログラムの国際コンペティション部門は、海外の新鋭映画作家によるハイクオリティかつバラエティ豊かな作品が集結。コロナ禍もすっかり明け、今年も海外からの多数のゲストが来場を予定している。

　そこで、昨年の＜SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023＞のときに行った４作品の海外映画人たちへのインタビューを届ける。

　四作品目は、デンマーク領グリーンランドの氷河から環境問題に迫ったネイチャー・ドキュメンタリー「イントゥ・ジ・アイス」。氷河学者のアラン・ハバード、ジェイソン・ボックス、古気候学の教授ドーテ・ダール・イェンセンの調査に同行した作品は、研究者たちの人間としての魅力を伝えるとともに、もう待ったなしの地球温暖化の現実を突きつける。

命懸けの撮影に挑んだラース・オステンフェルト監督は別の撮影に入っていて来日は叶わなかったが、代わりにディベロップメント・プロデューサーのキャスパー・ハーロヴ氏が映画祭には参加。

監督と企画開発の段階から行動を共にし、グリーンランドにも同行した彼に話を訊く。全四回／第三回

氷河のエキスパートである３人の科学者について

　前回（第二回はこちら）は、撮影に入るまでの下準備について語ってもらった。

　ここからは作品についていろいろと聞いていく。

　まず本作は、氷河のスペクタクル映像がひとつの見どころではある。だが、中心には二人の氷河学者アラン・ハバードとジェイソン・ボックス、そして古気候学の教授ドーテ・ダール・イェンセンの３名の地道な研究や調査に同行している。

　当初からそのような形にすることは考えていたのだろうか？

「いや、氷河の研究者たちの調査に同行させていただいて取材することは決めていましたけど、彼らを作品の中心にするかどうかはあまり考えていませんでした。

　で実のところ、作品では主に３人に焦点を当てたんですけど、彼ら以外にもけっこう研究者がいてそれぞれ取材をしました。

　ただ、もう見てもらえればわかるように、この3人が突出して個性的というか。環境問題のエキスパートでヒーローの要素があるんですよね。

　ひじょうに魅力的で、ずっと見ていたくなるような魅力がある。

　それで彼らに絞ったんです。で、はじめは彼らを主人公にするかも決めていなかったんですけど、彼らを通して、現在の環境問題や地球温暖化の実態をみせていった方がいいとなって。結果、彼らに完全にスポットライトを当てることになりました」

アランは学者だけど精神的には冒険家

　それぞれ接してみて、どんなことを感じただろうか？

「まず、アランに関しては立派な学者ではあるのだけれども、もう精神的には冒険家に近いといっていいかもしれない。

　ほかの科学者ではやらないこと、つまりフィールドワークとしても危険が伴うことを率先してやる。

　そういう勇敢さがある人です。

　はっきり言ってしまうと、ほとんどの科学者はクレバス、氷河の穴のようなところに降りていくことはしない。

　それは現場を実際に見ていないことを意味する。

　でも、アランは降りていって現場で実際に氷をみて、いろいろと調べるんだよね。

　ボードでけっこうな氷河の中にできた川の急流を下るシーンも入っているけど、あんなことをする科学者はみたことない（笑）」

ジェイソンはこの研究に命をかけている

　では、ジェイソン・ボックスはどうだろうか？

「ジェイソンはグリーンランドの氷に関しては、ほんとうに世界のトップのサイエンティストといっていいです。

　ほんとうに自らの研究に関してはとことんやる人で、調査に妥協はないです。

　この研究に命をかけているといっても過言ではないです。

　ゆえに地球の環境に危機感をひじょうに抱いている。だから、優れた科学者であるけれども、アクティビストでもある。

　気候変動の危機について積極的に発言して警鐘を鳴らしている人物でもあります」

科学者は曲者ぞろいのところもありますから、

それを束ねるのはそう簡単なことではない

　では、古気候学の教授ドーテ・ダール・イェンセンは？

「すばらしいオーガナイザーですね。

　何百人も世界中から集まった科学者を束ねて調査をしている。

　そのまとめ役ですから、彼女の人間性がすばらしいのは見てわかるのではないでしょうか。

　科学者は曲者ぞろいのところもありますから、それを束ねるのはそう簡単なことではないですよ。

　でも、彼女はこともなげにまとめている。わたしはそれだけで彼女を尊敬します」

（※第四回に続く）

【「イントゥ・ジ・アイス」キャスパー・ハーロヴ氏インタビュー第一回】

【「イントゥ・ジ・アイス」キャスパー・ハーロヴ氏インタビュー第二回】

「イントゥ・ジ・アイス」

監督：ラース・オステンフェルト

「イントゥ・ジ・アイス」に関する写真はすべて（C）Lars Ostenfeld

＜SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024＞

会期：《スクリーン上映》 2024年7月13日(土)~7月21日(日)

《オンライン配信》 2024年7月20日(土)10:00 ~ 7月24日(水)23:00

会場: SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、

多目的ホールほか(埼玉県川口市)

詳細は公式サイト : www.skipcity-dcf.jp