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グリーンランドの氷河の世界を圧倒的スケールで。最初はテレビ生放送を企画、しかしあえなくボツに!

水上賢治映画ライター
「イントゥ・ジ・アイス」より

 埼玉県川口市のSKIPシティで毎年開催される<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>が本日7月13日(土)に開幕を迎える。

 白石和彌監督、中野量太監督、上田慎一郎監督らを名だたる映画監督を輩出。いまでは若手映画作家の登竜門として広く知られる映画祭へと成長している。

 とりわけメイン・プログラムの国際コンペティション部門は、海外の新鋭映画作家によるハイクオリティかつバラエティ豊かな作品が集結。コロナ禍もすっかり明け、今年も海外からの多数のゲストが来場を予定している。

 そこで、昨年の<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023>のときに行った海外映画人たちへのインタビューを届ける。

 四作品目は、デンマーク領グリーンランドの氷河から環境問題に迫ったネイチャー・ドキュメンタリー「イントゥ・ジ・アイス」。氷河学者のアラン・ハバード、ジェイソン・ボックス、古気候学の教授ドーテ・ダール・イェンセンの調査に同行した作品は、研究者たちの人間としての魅力を伝えるとともに、もう待ったなしの地球温暖化の現実を突きつける。

 命懸けの撮影に挑んだラース・オステンフェルト監督は別の撮影に入っていて来日は叶わなかったが、代わりにディベロップメント・プロデューサーのキャスパー・ハーロヴ氏が映画祭には参加。

 監督と企画開発の段階から行動を共にし、グリーンランドにも同行した彼に話を訊く。全四回/第一回

ディベロップメント・プロデューサーのキャスパー・ハーロヴ氏  筆者撮影
ディベロップメント・プロデューサーのキャスパー・ハーロヴ氏  筆者撮影

実は、音声と録音もやっています(笑)

 まず今回の企画の始まりについてこう明かす。

「実は、ラース・オステンフェルト監督とはけっこう前から仕事をしています。

 あるテレビ番組の制作でご一緒したこともありますし、広告代理店関係の仕事で一緒になったこともあります。

 企画開発を一緒に考えたこともありました。

 今回の作品『イントゥ・ジ・アイス』のアイデアに関しては、ラースが最初に出してきた企画でした。

 で、ラースがわたしにアプローチをしてきまして、最初の制作資金を集めるファンドを作ることを依頼されました。

 ただ、残念ながらファンドを作ったものどこも投資してくれない。却下されまくって一向に資金がたまりませんでした(苦笑)。

 2年ぐらいかかってようやくお金が集まって制作費にメドが立ったんですね。

 ただ、その資金は当然ギリギリで、これ以上、集まる見込みもない。

 簡単に人を雇ったり、いい機材をレンタルしたりという余裕がない。

 ということで、まあお互いよく知っているし、今回はラースと僕でタッグを組んで二人でやろうということになりました。

 なので、グリーンランドに実際に行っての調査の同行取材も、ラースがカメラマンをやって、僕が音声と録音をやっています。

 僕の役割で言うと、グリーンランドでの撮影にしても、あの調査の撮影にしてもいろいろと許可が必要で、それもすべて自分がやりました。

 もちろんお金の管理や、危険な撮影もあるのでセキュリティーのチェックや保険などもわたしが手配しました。

 なので、スタッフ兼プロデューサーといったところでしょうか(笑)」

「イントゥ・ジ・アイス」より
「イントゥ・ジ・アイス」より

いろいろなテレビが気候変動や環境破壊について伝えている。でも、

実際の起きていることを映像とともに伝えるメディアはほとんどない

 はじめの企画の段階から、グリーンランドの調査隊に一緒に同行しようっていうことだったのだろうか?

「最初は、グリーンランドの氷床から、生放送をして現地のいろいろなところを見せるというテレビ企画だったんです。

 でも、それがどんどん変わっていきました。

 僕も最初の企画でけっこうおもしろものがみせられるんじゃないかと思ったんです。

 でもよくよく調べてみると、その氷床には誰も住んでないし、生き物もいない。

 おそらく何も起きることはないから、映したところでずっと氷を映すことになってつまらないということが判明したんです。

 しかも、その場所に行くには、飛行機でないといけないぐらい奥地で。たどり着くまでにものすごく時間がかかる。

 すごい大変な思いをしていっても、撮れるものがないのではちょっと厳しい。

 それでコンセプトがどんどん変わっていって、調べていくうちにグリーンランドのちょうど真ん中ぐらいのところで科学者が調査をしていることがわかったんです。

 じゃあ、専門家である科学者に氷河についていろいろと説明してもらおうと考えました。

 でも、ただ説明してもらうだけでは、やはり物足りない。

 実際に目してこそ氷河を感じてもらえるのではないかとなって、僕ら二人で現地に行こうという形になりました。

 しかも、現地の科学者たちが調査しているのは気候変動について。これは無視できない世界の関心事でもある。

 いろいろなテレビが気候変動や環境破壊について伝えている。でも、実際のところどんなことが起きているかを映像とともに伝えるメディアはほとんどない。

 ならば自分たちが実際に見に行って、映像に記録して、みなさんのもとへ届ければいいのではないかとなって、今に至りました」

かつてオオカミの姿を収めようとして失敗したことも

 その当初考えられた生中継というのも興味があるが。

「いや、実は僕とラースは同じようなことをやったことがあるんです。

 ある森に昔からオオカミが住んでいる。でも、めったに姿を現さない。

 で、そのオオカミをどうにかとらえようと、ライブカメラを置いて撮ることにしたんです。2週間にわたってひたすら撮り続けた。

 でも、何も映らなかったんです(苦笑)。

 その苦い思い出もあったからか、氷床になにもないとわかった時点で固執することはまったくなくて、企画はすぐ別の方向で考え始めましたね」

(※第二回に続く)

「イントゥ・ジ・アイス」ポスタービジュアル
「イントゥ・ジ・アイス」ポスタービジュアル

「イントゥ・ジ・アイス」

監督:ラース・オステンフェルト

「イントゥ・ジ・アイス」に関する写真はすべて(C)Lars Ostenfeld

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>ポスタービジュアル  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024
<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>ポスタービジュアル  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>

会期:《スクリーン上映》 2024年7月13日(土)~7月21日(日)

《オンライン配信》 2024年7月20日(土)10:00 ~ 7月24日(水)23:00

会場: SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、

多目的ホールほか(埼玉県川口市)

詳細は公式サイト : www.skipcity-dcf.jp

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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