マクロン大統領、燃料税引き上げ断念。しかし、「富裕税復活を!」と粘る黄色いベスト
11月半ばからフランスを揺るがしていた燃料税引き上げに対する抗議運動、黄色いベスト運動。
この週末、私が暮らしているような庶民的な場所はいつもと同じだったが、凱旋門近く、また、ブルジョワジーの住む16区、ラグジュアリーブランドの店が並ぶシャンゼリゼ通りなどで車が燃やされ、店舗が壊された。
警察は事態をコントロールできなくなり、普通にデモをしにやって来た人々にも催涙弾を投げつけた。群衆がチュイルリー公園の鉄門を寄ってたかって壊しところ、押しつぶされて重傷を負った人もいる。逃げ遅れてデモ隊から袋叩きにされる機動隊、ひっくり返されたパトカー……。通常のデモは政党や労働組合によって組織され、整理係が多くいるのでこのようなことは起こりにくいが、今回は、リーダーや代表者もなかったため、アナーキーな状態に陥った。この日、パリだけで、警察は催涙弾8000弾、フラッシュボールのゴム弾1193弾を使用した。
あまりの激しさに、5日夜、マクロン政権は、「国を危険な状態に陥れる税制は執行できない」とし、2019年の燃料税値上げを断念すると発表した。電気代値上げと車検の厳格化については6ヶ月間の猶予期間をとる予定だ。
ところが、黄色いベスト側は、今のところ「そんな譲歩はパンくずみたいなもの。こっちはバゲット一本くれって言ってるんだ!」と。これまでほどではないかもしれないが、デモの続行が予想されている。
中産階級のちゃぶ台ひっくり返し
もとはと言えば、黄色いベスト運動は、大都市で仕事をしているが、家賃や地価の高さゆえに周縁地域に暮らさざるを得ない中産階級の人々の不満が発端だった。
例えば、パリ市内の不動産価格は年々、確実に上昇している。現在、不動産を買うとすれば1m2あたり平均10000ユーロ(約128万円)、借家するとなると、薄暗いジメジメしたワンルームでも最低600ユーロ(7万7千円)はする。若い時はそれでも良いかもしれないが、家庭を築くとなるとそうはいかない。より広く安い物件を求め、人々は周縁地域に引っ越す。
しかし、都市周縁地域では、地価は割安だが公共交通が発達していない。仕事に行くのに車は必需品で、中産階級とはいえど、ガソリン代の出費にあえぐ。
もちろん、燃料税引き上げ政策は、地球温暖化対策強化を目的にしたものだった。ところが、黄色いベスト運動の人々の言い分はといえば、「エコロジーなんてブルジョアの言うこと。こっちは、月末が苦しんだから、まずは食わせてくれ!」なのだ。
ブルターニュの小都市に住む友人Pに聞いてみた。彼は先祖代々の農地でリンゴ栽培を生業としている。奥さんのSが小学校の先生をしているために、どうにか安定した生活を送っている。娘25歳は社会福祉士、息子21歳は学生。それぞれが独立した生活をするためには、家には1人あたり1台の車がなければやっていけない。そこで子ども2人には、それぞれ、15年から20年落ちの中古車を約2000ユーロ(約20万円)で買ってやった。
しかし、その後、排気ガス減少を目的に、来年から車検が厳格化されることが発表された(こちらも6ヶ月の猶予と、今夜、発表された)。そうなると2000ユーロで買った子どもたちの車は廃車になることは明らかである。「子ども2人に新車は買えっこないでしょ」と言う。
政府は「新車の電気自動車を買うなら27%を国が支給しますよ」と言っているが、毎月末になると冷蔵庫カラッポという人々にとっては、その残りの73%が払えないのである。しかし、今や、問題はそれだけではない。
富裕税を復活させろ!
もともと、マクロン大統領の人気をガタ落ちにしたのは、昨年5月に就任するや否や、前オランド政権下で130万ユーロ(約1億6千万円)以上の資産(動産・不動産を含む)をもつ世帯に課せられていた富裕税を撤廃し、おまけに、貧困層に支給される住居生活援助費を下げたことがある。
黄色いベスト運動は、この富裕税の復活も要求しているが、今のところ、マクロン大統領は断固として反対している。富裕層が資産と共に国外に流出しては困るからだ。
しかし、気をつけたほうがいい。黄色いベスト運動には71%の国民が賛成しているし、今週土曜日、黄色いベストのデモと同時に警察の労働組合がストを予告したとか……