菅総理の記者会見と国会答弁がひどすぎるのはなぜか
フーテン老人世直し録(581)
皐月某日
菅総理は7日に記者会見を開き、11日までとされていた緊急事態宣言を31日まで延長すると宣言し、10日には衆参両院の集中審議に出席して、新型コロナウイルス対策や東京五輪開催について考えを述べたが、その内容がひどい。
7日の記者会見で菅総理が繰り返したのは「人流が減ったのは事実」という言葉だった。なぜ緊急事態宣言を出したかと言えば、ゴールデンウイーク中の人出を抑えるためで、その目的は達成されたというのだ。
それを聞いた瞬間フーテンは椅子から転げ落ちそうになった。緊急事態宣言を出した目的が「人流を減らすため」とはつゆほども思っていなかったからだ。緊急事態宣言は新型コロナウイルスの感染を防止し、収束に近づけるために出されたとばかり思っていた。
ところ菅総理はそうではなかった。フーテンが見ていたゴールは菅総理の見るゴールと違っていたことを知った。そうなると話は何から何まで違ってくる。フーテンの考え方と菅総理の考え方はかみ合わない。
「人流を減らせば感染防止になる」と言うのはその通りだ。だが大事なのは「人流減」より「感染防止」だろう。菅総理は手段と目的が逆になる考え方だ。「人流が減ったのは事実」と胸を張られると、フーテンには理解不能である。
目的は達したが感染は収まらない。だから結論は対象を拡大して緊急事態宣言を31日まで延長すると言われ、これもなぜ31日までなのかを含めてフーテンの理解を超える。
そして菅総理は、ゴールデンウイークは終わったので休業要請は一部緩和するという方針も示した。その結果、12日からは寄席はやるが映画館は休業という、これまたフーテンの貧しい頭脳では追いつけない現象が起こる。
貧しい頭脳を一生懸命働かせてみると、どうもこの政権は本気で新型コロナウイルスの感染を収束させようとは思っていないという結論になる。それとは別の論理で新型コロナ対策に取り組んでいるとしか思えないのだ。
もし菅総理が本気で新型コロナ対策に取り組むなら、米国のバイデン大統領のやり方を参考にするという思考があっておかしくない。フーテンが菅政権の誕生時に感心したのは、まだ米大統領選が決まってない時点から、菅総理はバイデンの勝利に賭けていたことだ。
10月の所信表明演説で、菅総理は「2050年カーボンニュートラル」という野心的な政策課題を打ち出した。もしトランプが再選されれば、それは米国の方針とは相容れない政策課題だ。そして10月時点ではバイデン有利と見られてはいたが、トランプ人気も侮れず、バイデン大統領誕生はまだ確定していなかった。
しかし菅総理はその賭けに勝った。そして分かったことは、菅総理は安倍政権時代から環境大臣と経産大臣のポストに子飼いの政治家を押し込んでいたことだ。いずれ自分が政権を握り「2050年カーボンニュートラル」を打ち出すための要員としてである。それが小泉進次郎と梶山弘志の2人だ。
「コロナは消える」と言ってコロナ対策を軽視したトランプと違い、バイデンは対照的にコロナ対策に力を入れた。その力の入れようが凄まじいのは予算の投入の仕方である。共和党の反対を押し切って6兆ドル(およそ650兆円)の財政出動でコロナ危機を乗り切ろうとしている。
国民一人当たり15万円の支給をはじめ、失業給付の上乗せや、大規模なワクチン接種の奨励などで7月4日までに米国民の日常生活を正常化させようとしている。そのため巨額の財政赤字を抱えることになるが、コロナとの戦いはそれに値すると考えている。
むしろバイデン政権はこの財政出動を新規の経済成長に結びつけようとしているのだ。これだけ巨額の資金を国民にばらまけば、コロナ対策で外出を制約されているうちは貯蓄に回るが、ワクチン接種で自由に外出できるようになればそれが消費に向かい、米国経済は改善するとみている。
政権誕生と同時にいち早く「2050年カーボンニュートラル」を打ち出し、バイデン政権の「気候変動対策」と歩調を合わせようとした菅政権が、コロナ対策でバイデン政権を真似しようとしないのはなぜか、フーテンは理解に苦しむ。麻生財務大臣のいる財務省を説得することができないのか。
ともかく菅総理は「経済」と「コロナ対策」の両立を言いながら、「経済」で柱にしたのは「Go Toトラベル」と「Go Toイート」だけで、それはいずれも自分と二階幹事長の支援者を潤す事業であった。そしてそれがコロナ感染の元凶と名指しされ、支持率を大きく下げる要因になる。
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