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『ゴジラ-1.0』を大絶賛できない人のために…。違和感の正体

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ロサンゼルスのプレミア上映での山崎貴監督と主演の神木隆之介(写真:REX/アフロ)

スペインでもやっと『ゴジラ-1.0』が公開された。面白かったが、日本で大絶賛、全米でも大ヒットというニュースで膨れ上がった、期待を満たすほどではなかった。

なぜか?

※以下、ネタバレはありませんが、見ていないと理解できない部分があります。見てから読むことをおススメします。

①説明調、絶叫調のセリフ

「俺は●●なんだー!」式のセリフ。心情は言葉ではっきりと表現される。パニックになったり緊迫感が高まるシーンであればあるほど声は大きくなり、絶叫になる。

これは山崎貴監督の演出の特徴なのだそうだ。

何を考えているか何が起こっているかがわかりやすい。反面、見ている方に想像の余地がない。カメラが寄ることで無言でも感情表現ができるのが映画なのに、まるで舞台のようだった。

この演出が私には合わなかった。

戦後の軍国青年って口下手かと思っていたが、意外に口が回る。敗戦と戦勝国の振る舞いに忸怩たる思いの者も多かったはずだが、恨み言は無し。ゴジラという国難の前に「今度は勝つ!」という一種の高揚感が生まれたのだろうけど。

②主人公たちの男女関係

二人が親密になる描写がもっとあっても良かった。

特に女性からのアプローチ不足。男は自分の戦争に頭が一杯だったから、それを解きほぐす女の行動が見たかった。共働きで共同生活を経済的に支えるとかだけではない心身のサポート。それがないと結婚の重要性が見えてこない。

単純な話、初めて一緒に寝たと「思わせる」シーン(「見せる」必要は無い)があれば、全然違った。

そもそも女って、男とはまったく違う戦中を生きてきたはずだ。戦後になり抑圧から解放された女が男の目を開かせて、それが決死のゴジラ退治のモラルを支えるとかできたはず。

男は不器用だった。

愛する女の前で無口なのは昭和の男の常だが、戦闘シーンや男同士ではあれだけ雄弁なのに女に対してはからっきしダメ。あと、敵性語だった英語の使用も気になった。

③状況もゴジラも意外に小さい

主人公の周りでしか物語が起きていない印象が残った。

あれだけの大災害なのだから、もっと見知らぬ人たちのドラマがあったはずなのに。主人公の成長ストーリーなのだからしょうがないのだが、最後になるほど仲間とか同志とかの内輪へと収束していった。国難なのに私難とか私怨に近くなっていた。

ゴジラの横幅は銀座の大通りにすっぽり収まるサイズ感。群衆パニックシーンはあれで良かったのかな?

人間って散り散りにならず直線に走るものなのか? 路地に入って身を隠し、敵から見えないところへ逃げるのが、生存本能だと思うが。実際、横道に逸れて助かっているし。

続く爆発の描写、きのこ雲と黒い雨のシーンが素晴らしかったので、残念。

↑日本で1月12日から上映開始のモノクロ版

④ゴジラの残虐性の欠如

いや、数万人レベルで殺しているので、残虐ではある。だが、それは数字であり映像ではない。人間を口で噛むシーンは斬新だったが、食べないで放り投げるので、血が出ないし、体も千切れない。

残虐描写が無いのは年齢制限への配慮らしいが、それによって怖さが少し減ってしまったのは残念だ。

ゴジラにとって人間は虫けらだろう。

人間を踏み潰すのはアクシデントなのか、それともわざとやっているのか? もちろんわざとだろうが、人を喜んで殺す狂気を描写して怖さをボリュームアップする手もあった。

今回のゴジラの目は意外に知的に見えた。

怒る動物であって、それゆえに飛行機を追い掛けたりするわけだが、目に感情がこもり顔に表情がある分、爬虫類の冷血さが薄れた。何を考えているかわからない薄気味悪さが薄れた。泳いでいるシーンでは、丸い頭と鼻が突き出たラインが哺乳類のようにも見えた。

ある程度、知的でないと、集中力散漫だと囮には引っ掛からない。

災害には敵意はない。台風や地震はあなたに何の恨みもない。が、ゴジラは人間、特に日本人への殺意に満ちている。

となると、ある程度、知的にせざるを得ないが、そうするとゴジラの脅威に型をはめることになる。

人口密集地以外には現れないなどの行動パターンが生まれてしまう。

日本国民全体の脅威ではなくなってしまう。

主人公周辺での脅威になってしまいかねない。次回作の伏線は、そんな危険な兆候のように見えたのだが……。

※『ゴジラ-1.0』のオフィシャルサイト

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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