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「あなたの仲間みんなにわかってもらってください」――裁判長が柔道界に語りかけた言葉[松本市柔道事故]

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
有罪判決は,翌日の各紙で大々的に報じられた

全国的な関心の高さ

松本市の柔道教室で起きた重度障害事故の刑事裁判判決は、強制起訴裁判でありながらも有罪を勝ち得た点、柔道事故において刑事罰が下された点のいずれにおいても画期的な判決であった。判決当日(30日)の夕方、テレビ放送のキー局すべてで報道があり、また翌日の全国紙すべてで記事が掲載され、毎日新聞ではそれが第一面に位置づけられた。刑事裁判のあり方、柔道を含むスポーツ指導のあり方の両方に、きわめて大きなインパクトをもたらした判決であったといえる。

自分も、仲間も、柔道界も知らないこと

判決のポイントは、昨日「速報」として記事に書いたとおりである(「柔道事故――強制起訴の刑事裁判で画期的な有罪判決[松本市の柔道事故、判決速報]」)。また各社報道にも詳しい。判決から1日を経たいま、これまでにあまり報道されていない視点――裁判長は何を訴えたかったのか――から、この判決を振り返りたい。

判決のキーワードは「力加減」であった。判決文のなかにもざっと数えただけで18回も「力加減」という言葉が使われている。これほどまでに裁判所がこの言葉を強調したのには、理由がある。事故の被害者である澤田武蔵さんは、頭部を直接畳に打ちつけなかったものの、頭部にかかる加速回転によって急性硬膜下血腫を発症したと考えられている。被告人側はこの加速損傷について、柔道仲間たち、さらには柔道界一般も、無知であったため、自分もそれを予見することは不可能であったと主張した。

これに対して裁判所は、加速損傷といった細かいことは誰も知らなかったかもしれないけれど、そもそも「技量・体格を考慮して安全に配慮した力加減」を欠いたときに傷害・障害が起きることくらいは予見できたはずと指摘したのである。じつにシンプルな見解である。

裁判長が柔道界に語りかけた言葉

頭を打たなくても重大事故になりうるという加速損傷をめぐって、被告人側の主張は、「みんな知らないんだから、私も知らない」であった。裁判所はそこに踏み込まず、初心者に対する「力加減」の問題として本案件を整理したのである。

判決要旨を読み終えた裁判長は、最後に被告人を見つめ、こう語りかけた。澤田さんご夫妻を驚かせた言葉だ――

頭を打たなくても重大事故が起きるということが、裁判の過程で明らかになりました。こういうことがあることを、あなたの仲間、みんなにわかってもらってください。それが、あなたがやっていくべきことです。

柔道事故被害者家族はいつも、「もう二度と、私たち(の子ども)のような苦しい思いをする人を出さないでほしい」と訴えかける。そのためには、柔道界全体が加速損傷を含む柔道の重大事故防止にいっそう取り組んでいかなければならない。裁判長の言葉は、まるで柔道界全体に語りかけているかのようであった。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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