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柔道事故――強制起訴の刑事裁判で画期的な有罪判決[松本市の柔道事故,判決速報]

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
傍聴券を求める人の列。200名を超える人が並んだ。

柔道事故史上,画期的判決

「主文 被告人を禁錮1年に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。」

柔道三大大会として知られる全日本柔道選手権大会が日本武道館で盛大に開催された翌日、柔道事故の刑事裁判において重みのある判決が下された。

この裁判は、2008年5月長野県松本市の柔道教室で、小学6年の澤田武蔵さんを投げて脳に重度の障害(意識障害と全身麻痺)を負わせたとして、指導者である小島武鎮(たけしげ)被告人が業務上過失傷害罪に問われているものである。初心者で身長146cm・体重43kgの子どもを、柔道4段で身長180cm・体重80kgの指導者が「片襟体落とし」という変則技で投げて、事故は起きた。柔道事故については日本で2例目となる刑事裁判であることにくわえて、日本で8例目の検察審査会による強制起訴事件としても注目されていた。午後2時過ぎ、裁判所前には、200名を超える傍聴希望者が列をなした。その注目の高さがうかがわれる。

「主文 被告人を禁錮1年に処する。」

柔道事故の刑事裁判として,そしてまた強制起訴の裁判として,画期的な有罪判決が下された。今回の重要な注目点は、(1)頭を打たなくても急性硬膜下血腫が生じることを予見できたのか、(2)体格差があるなかで技量の未熟な小学生を力強く投げることがどう評価されるかにあった。

裁判所のロジックは明快だった。頭を打つかどうかに関係なく、技量のない小学生であるのだから、力加減をして投げるのが当然でしょう。力加減をせずに力強く子どもを投げることで、何らかの傷害が起こることくらいは予見できたはず、と。判決文のなかで何度も繰り返された言葉は、「力加減」であった。

判決の狙いが,学校の柔道指導にまで届くことを期待

これまで1983~2013年度の31年間に、学校管理下の柔道で118名の子どもが命を落としてきた。ここには、本案件のような学校外の町道場や柔道教室で起きた事故は含まれていない(その数はまったく不明である)。そして、これまでのところ学校管理下での柔道事故では、障害事例を含めて一度たりとも刑事責任が問われたことはない。他方で、町道場や柔道教室での事故では、2010年に大阪市此花区で指導者が小学1年の子どもを投げて死亡させた件について、日本で初めて刑事責任が問われ、有罪(罰金100万円)が確定した。今回の案件はしたがって、日本で2件目の刑事裁判であり、有罪判決であるということになる。

学校という教育や指導の正当性がまかり通ってしまう状況に比べれば、学校外の柔道教室での事故は相対的に刑事責任が問われやすいとみることができよう(もちろんそれでもハードルはとても高い)。しかも大阪市此花区の事例も今回の事例も、いずれも指導者が小学生を投げたことで起きた案件であることも刑事罰を問う上では重要な要素である。今後期待されるのは、この判決の意図――初心者には「力加減」を――が、学校現場での柔道事故裁判にも風穴を開けることである。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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