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宇宙の年齢は138億年ではなく267億年で、さらにダークマターは存在しない!?

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「宇宙の推定年齢とダークマターの存在を覆す新説」というテーマで動画をお送りします。

オタワ大学の研究チームは2023年7月、現時点で最も宇宙を正しく理解できていると考えられている「ビッグバン宇宙論」に、既知の他の理論を組み合わせることで、宇宙をより正しく理解できる可能性を示しました。

そして新説によるとこの宇宙が誕生したのは267億年前と、定説である138億年前とくらべて2倍も古くから宇宙が存在していた可能性も示しています。

さらに2024年3月に同じ研究チームが新たに発表した論文によると、仮にこの理論が正しければ、この宇宙にダークマターが存在しないことが示されたそうです。

今回の動画では宇宙論まわりの概要をじっくりと説明した上で新説の要点について触れ、その後新たな主張についても紹介していきます。

●ビッグバン宇宙論と定常宇宙論

現在、この宇宙の姿を説明する理論としては、「ビッグバン宇宙論」が主流となっています。

ビッグバン宇宙論では、現在の宇宙は膨張していると解釈されています。

そして膨張しているからには、この宇宙には始まりがあったとされ、終焉も訪れると考えられています。

始まりの瞬間、この宇宙は超高温・超高密度の火の玉(ビッグバン)の状態でした。

ビッグバンと対立する概念として、この宇宙は膨張しておらず、終わりも始まりもない永遠不変のものであるとする、「定常宇宙論」があります。

20世紀半ば頃まではこの定常宇宙論の方が定説でした。

ですが後述する様々な観測事実から、現在ではビッグバン宇宙論が定説となっています。

そして現在大活躍中の最新最強の「ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が撮影した深宇宙の観測から、ビッグバン宇宙論が間違いであるとする結果が得られたと一部の界隈で話題になりました。

結論から言うと確かにJWSTの観測により、既存の宇宙論では説明できない結果が得られたのは事実です。

ただしこれはビッグバン宇宙論を否定するものではありません。

●定常宇宙論派の主な主張

○疲れた光仮説

遠方の天体からやってきた光の波長ごとの強度の分布(スペクトル)を調べると、地球から遠い天体からの光ほど波長が伸びていることがわかっています。

これは「赤方偏移」と呼ばれる現象です。

ビッグバン宇宙論においては、赤方偏移は「宇宙膨張」によるものであると解釈しています。

地球に届くまでの過程で、空間の膨張の影響を受けた光はその波長が伸びてしまう、というわけです。

一方定常宇宙論派は、赤方偏移を「光が宇宙を旅する過程で他の何かと作用し、エネルギーが減衰した結果」であると解釈しています。

このように遠方から来た光はエネルギーが減衰しているという仮説を「疲れた光仮説」と呼びます。

疲れた光仮説が正しい場合、宇宙が膨張していなくても赤方偏移を説明できるため、これは定常宇宙論と矛盾しません。

この疲れた光仮説が正しいとするのが定常宇宙論派の主な主張となります。

○最新のJWSTの観測結果

JWSTが本格的な科学観測を開始してから最初に公開されたこちらの画像は、「SMACS 0723」と呼ばれる銀河団が存在する領域を撮影したものです。

以前にもハッブル宇宙望遠鏡(HST)で撮影したことがある領域です。

ノッティンガム大学などの研究チームは、JWSTの極めて高い観測性能により、HSTでは理解できなかったこの領域に存在する銀河の詳細な形状を調べました。

その結果、遠方の宇宙において、天の川銀河やアンドロメダ銀河のように円盤状の形をした「円盤銀河」が従来の予想の実に10倍も高い割合で存在していたことが

判明しました。

円盤銀河は特に地球から近傍の宇宙に多くみられており、形状に統一性がなく小さい「矮小銀河」が多数の衝突を繰り返すことで、徐々に銀河が成長して形成されるものであると従来の宇宙論では考えられてきました。

ですがJWSTによる最新の観測では、この定説を覆す驚くべき結果が得られています。

これを発表した論文でも、タイトルに「Panic!」という単語が含まれているほどです。

そんなJWSTの観測結果が拡大解釈され、「ビッグバン宇宙論は間違いだった」と話題になったという流れです。

●ビッグバン宇宙論を裏付ける観測事実

定常宇宙論派に対し、ビッグバン宇宙論派の主張は様々な観測事実に裏付けられています。

観測事実はいくつもありますが、ここでは「遠方の銀河の表面輝度」と「宇宙背景放射」の2つを掘り下げます。

○遠方の銀河の表面輝度

仮に宇宙が膨張しておらず定常の場合、地球から見た天体の見た目の大きさも、見た目の明るさも、どちらも地球からの距離の2乗に反比例します。

ある天体が本来の大きさや明るさをそのままに、地球から元の2倍離れた場合、見た目の大きさも明るさも4分の1になり、元の3倍離れた場合どちらも9分の1になります。

つまりある天体の単位面積当たりの明るさ(表面輝度)は、宇宙が定常である場合、距離に寄らず常に一定ということになります。

一方、宇宙が膨張している場合、宇宙膨張による赤方偏移や、天体そのものが遠ざかっていることなど、様々な効果によって単位面積当たりの明るさは距離が遠いほど暗くなります。

そして実際の観測結果から、遠方の天体ほど単位面積当たりの明るさが暗くなっていることがわかっています。

これは疲れた光仮説では説明できず、ビッグバン宇宙論を支持する観測事実の一つです。

○宇宙背景放射

宇宙マイクロ波背景放射、または単に宇宙背景放射とは、全方向からほぼ等しい強度でやってくる電波(マイクロ波)です。

まだ定常宇宙論の支持派も多かったころ、宇宙背景放射は理論的に存在が予言されていました。

そんな中発見された背景放射は、予言されていたものと非常に高い精度で性質が一致していました。

宇宙背景放射が検出されて以降、ビッグバン宇宙論は定説としての立場を確立していったとされています。

背景放射はビッグバン宇宙論を裏付ける最も強い観測的事実であるとも言われています。

宇宙背景放射は、この宇宙がかつて超高温の状態であったことの名残です。

そんな宇宙が膨張して現在のような広大で冷たいものに進化したと考えるほか、背景放射の存在を説明できる理論は存在しません。

○JWSTの最新の観測結果の解釈

そしてビッグバン宇宙論が間違っているという主張の根拠として扱われている「JWSTの最新観測結果」ですが、実際はこれも依然としてビッグバン宇宙論を支持し続けています。

初期宇宙においては、現代と比べて銀河の大きさの平均が非常に小さいことがわかっています。

これは過去に銀河が存在しない状態から、徐々に形成されていったとするビッグバン宇宙論の主張と矛盾しません。

確かにJWSTの観測により、宇宙のかなり初期から形の整った円盤銀河が多数存在していたことはわかっていますが、これで銀河形成のメカニズムなどの理解が覆ることがあっても、ビッグバン自体が否定されることはありません。

●宇宙は267億年前に誕生した!?

そんな中オタワ大学の研究チームは2023年7月、現在の定説であるビッグバン理論に、先述した「疲れた光仮説」と、「時間変化する結合定数」という概念を組み込んだハイブリッドな新理論を提唱しました。

疲れた光仮説は、定常宇宙論の主な論拠であり、ビッグバン宇宙論とは相容れないものであるというイメージが一般的です。

ですが実際はこれらは矛盾するものではなく、新理論ではこれらを共存させています。

また結合定数とは、粒子間の相互作用を支配する基本的な物理定数のことで、この定数の値によって、粒子同士がどのように作用しあうのかが決まります。

定数という名前が付いていますが、時間と共に変化していた可能性があるそうです。

新理論では、この時間変化する結合定数という概念も取り入れられています。

では新理論を扱うメリットはどのようなものなのでしょうか?

この新理論によって、JWSTが超遠方の宇宙で観測した超初期の銀河の成長があまりに早いという、ビッグバン宇宙論で説明できない謎を上手く説明できます。

新理論によると、宇宙はなんと267億年前に誕生したという結論が得られるそうです。

138億年という定説と比べると2倍も古くから宇宙が存在していることになります。

そしてこれによって超初期宇宙で観測された銀河の形成期間が、数億年というわずかな期間から数十億年という期間に延長されます。成長に十分な時間があるので、理論と観測の間に矛盾が生じなくなります。

●ダークマターが存在しない!?

今回の新理論(以下CCC+TLモデル)を発表したオタワ大学の同じチームは、今度は2024年3月に、CCC+TLモデルについて新たな検証を行った論文を発表しました。

研究チームはCCC+TLモデルの検証を行ったところ、別のチームが発表した、銀河分布や宇宙背景放射などのいくつかの観測結果と矛盾がないことが示されたとのことです。

しかしCCC+TLモデルが既存のデータと矛盾せずにうまく機能するのは、未知の物質ダークマターがこの宇宙に存在しない場合のみだといいます。

さらにこの理論において、宇宙の加速膨張の原因はダークエネルギーではなく、「宇宙が膨張するにつれて物質の重力が弱まるため」であると説明ができます。

よってまとめると、CCC+TLモデルが仮に正しければ、宇宙の年齢が267億年に延長されることで初期宇宙に存在する過度に成熟した銀河の存在を上手く説明できるだけでなく、宇宙論において最大級の問題であるダークマターやダークエネルギーの謎まで同時に解明されることになります。

研究チームによると、「私の知る限り、ダークマターの存在を否定しつつ、広く信じられている一般的な宇宙論に基づいた観測結果とも矛盾しない論文は、私の論文が初めてである」とのことです。

ただしダークマターやダークエネルギーを含めた一般的な宇宙論は、いくつもの明確な根拠があるからこそその存在が広く信じられています。

よってCCC+TLモデルのように、定説から大きく外れた理論が広く受け入れられるようになるまでには、乗り越えるべき壁がいくつも立ちはだかります。

とはいえ科学はこのように、様々なアプローチの理論が現れては、それらが検討されることで進化していきます。

今回の新理論が正しいのかは今後検討されていくことですが、その過程自体が科学を成長させる尊い流れです。

https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad1bc6
https://www.eurekalert.org/news-releases/1037861?language=english
https://www.uottawa.ca/about-us/media/news/new-research-suggests-our-universe-has-no-dark-matter
https://astro-dic.jp/baryon-acoustic-oscillation/

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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