予約時間に1人だけ入店、全員揃ったのは2時間後……飲食店が「バラバラ入店」に困惑で反響!
複数人で飲食店を利用
飲食店を複数人で利用したことはありますか。
広島駅近くにある鉄板焼店の店主が、スレッズ(Threads)で次のような投稿をして、物議を醸しています。
5人で予約した客が、予約時間に1人で入店し、6人に増えたと述べています。予約時間から20分後に2人、40分後に2人、最後の6人目が訪れたのは2時間後。店主は、ワンオペで大変なので1時間に1組ずつ予約を入れているのに、と困惑しています。
様々な返信=反応がありますが、その大半は店主に寄り添うコメントです。バラバラ入店=五月雨入店について考察していきましょう。
飲食店のビジネス
飲食店の利益は、売上からコスト=費用(原価、人件費、家賃、光熱費など)を引いたものになります。飲食業界の利益率は高くありません。10%もあればかなりよい方で、通常は5%以内といったところ。
売上は通常、客単価と客席数と回転率を掛け合わせて算出されます。客単価は客ひとりあたりが費やす金額なので、飲食店にとっては、多ければ多いほど嬉しいのは言及するまでもありません。客席数は全体のキャパシティであり、大箱であればあるほど、売上が大きくなります。最後の回転率は、利用者にとってはわかりにくいところですが、これは客席数がどのように回っているかという指標であり、非常に重要です。
客単価を増やすには
飲食店の売上を増やすには、どうすればよいでしょうか。
席数は変わらないので、客単価と回転率を上げていくしか売上を増やす方法はありません。
客単価を増やすには、値上げが最も単純なことですが、客が離れたり、オーダー数が減ったりして、結果的に売上が下がってしまう危険性が強いので、難しいところ。料理をおすすめして一品でも多く注文してもらったり、ドリンクを飲み終えたらすかさず次のドリンクを促したりするのが現実的です。
回転率を高めるには
回転率を高めるには、席の稼働率や回転数を増やさなければなりません。できる限り空いている席をなくすと共に、長居させすぎないことが重要となります。
ファインダイニングであれば、完全予約制に近く、ディナーで1回転というところが多いですが、一斉スタートのカウンターガストロノミーや鮨店であれば、2部制を採用しており、2回転することも一般的です。たとえば、ディナーが18時からの営業で、18時から全席埋まっていて20時に全ての客が退店し、20時30分から別の客が全ての席を専有して営業が終了。これであれば、営業時間中に無駄になる席は一席たりともありません。
カフェは慌ただしいセルフ式から時間の流れが止まったかのようなオーセンティックで高単価なものまであるので、回転数も2回転から10回転とだいぶ異なるのが特徴。
客単価の安いラーメン店や牛丼店、ハンバーガーショップなどのファストフードでは回転率が非常に重要となるので、滞在時間が長い子連れや同行者待ちの問題がよく俎上に載せられます。
人数の変更
件の事案では、来店時に人数変更がありました。
人数が少なくなる場合には対応しやすいですが、コースの場合には仕込んだり、用意したりしたものが提供できなくなってしまいます。キャンセル料をとることができればまだカバーできますが、食品ロスは回避されることはありません。
人数が増えると、対応できない場合があります。入店時に人数増加がわかっても、コースであれば食材が足りなかったり、仕込みが間に合わなかったりする可能性が高いからです。
テーブルのアサインも予約客を中心に配置されているので、非常に効率が悪くなります。奇数人数から偶数人数に1人増えるのであれば、2人用1テーブルが、1人から2人の利用に変わるだけなので、まだ対応しやすいです。しかし、偶数人数から奇数人数に1人増えるのであれば、テーブルが不足することがあります。
丸いラウンドテーブルであったり、I字やL字といったカウンター席であったり、キャパシティがぎりぎりの個室であったりすれば、たった1人の増加でも対応できません。
バラバラ入店
時間差のあるバラバラ入店でも、飲食店に迷惑をかけます。
飲食店でのディナー滞在時間は通常、1時間30分から2時間となります。カウンタースタイルの完全2部制を敷いているような店であれば、途中入店した場合には、その時に提供しているメニューからしか食べられないと断っていることが多いです。もしくは、滞在時間が決まった居酒屋のコースであれば、次から次へと料理を提供して、時間がきたら終了というケースもあります。
こういったレギュレーションであれば、何人が途中から入店したとしても、開始時間と終了時間に変動はありません。
しかし、遅れた客を待ってからスタートしたり、途中から参加した客にも最初から提供してくれたりする場合には、終了時間が遅くなってしまいます。飲食店は客の滞在時間を考慮して、予約枠を設定しているだけに、終了時間が遅くなってしまうのは困るのです。
客の滞在時間が不必要に長くなれば、空いている席も少なくなってしまいます。次の予約客やウォークインで入りたい客にとっても迷惑をかけてしまうのは自明の理です。
開始時間に全員が集まっていれば、最初はドリンクのオーダーを行い、そこから料理とスムーズにオペレーションが流れますが、バラバラ入店では、入店する度にドリンクのオーダーとなり、余計な手間がかかります。今事案のようにワンオペであれば、調理中にドリンクのオーダーや用意ができないので、より効率が悪くなるでしょう。
空間の価値
飲食店の空間には少なからぬコストがかけられているので、価値があります。
賃貸料があるのは当然のことながら、灯りや空調といった光熱費、テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金がかかっているのです。
時間差でバラバラに入店すれば、入店していない客の席が無駄となり、滞在時間が長くなれば、無駄なコストがかかってしまいます。
共食の意味
時間差で入店することによって、共食の意味合いが薄れてしまいます。
共食とは一緒に食卓を囲んで共に食べることであり、誰かと一緒に食事をすること。配偶者や子どもなど家族や親類と共に食べることはもちろん、パートナーや友人、会社の同僚などと一緒に食事をする場合も当てはまります。
共に同じものを食べることによって、コミュニケーションをとり、絆も育まれます。しかし、食べ始める時間がバラバラで、食べるものも違っていて、お腹の空き具合も違っていれば、“同じ食体験”を共有したとは言い難いです。
食体験の毀損
来ない人がいるせいで、料理を取り分けたり、残しておいたりと、余計な手間も要してしまいます。
誰かが遅れてやって来ては乾杯し、説明しながら前菜から順番に提供していては、先に訪れた人は自分のペースで食べ進めることができず、絆を深めるどころではありません。
目まぐるしい現代社会において、時間はとても価値があるものです。
小さい頃に、食事の時間になっても食卓にいなければ、親に注意された人は多いと思います。みんなで同じ時間に“いただきます”をして食べ始めることは、共に食卓を囲む人間にとっては非常に重要です。
時間差になりそうなら
ここまで述べてきたように、バラバラと集まるような時間から開始したのでは、客にとっても飲食店にとっても嬉しいことはありません。
会社の仕事の状況によって、開始時間に全員が揃わないことはあるかと思います。しかし、これはただ単に、開始時間が適切ではないだけです。
どの飲食店でも、予約時に必ず訊くのは、予約者の名前と電話番号、そして入店する日時と人数です。アレルギーや好き嫌い、オプションも尋ねますが、最も重要なのは先の4項目となります。入店する日時と人数とは「ある日時」に「ある人数」で入店して食事することを意味しているのです。「ある日時」から30分おきに1人ずつ入店したり、最初に1人だけ入店して後は任意の時間に訪れたりすることではありません。
ある日時に全ての人がきっちり揃うのは難しいのは理解できます。しかし、できるだけ多くの人が同時に食事を開始できるように調整することが大切です。