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『アンチヒーロー』長谷川博己と北村匠海が13年前に共演の学園ドラマ。脇役生徒から現在のトップ俳優も

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『アンチヒーロー』出演中の北村匠海(写真:西村尚己/アフロ)

 春クールの連続ドラマの中で視聴率、評価共に高い『アンチヒーロー』(TBS系)。長谷川博己の演じる弁護士・明墨が手掛けた裁判がすべて、12年前の一家殺人事件の死刑囚の無実を証明することに繋がっていたとわかり、物語が佳境に入っていく。

 長谷川は2010年の『セカンドバージン』で鈴木京香の不倫愛の相手役を務めて注目を集め、大河ドラマ『麒麟がくる』や映画『シン・ゴジラ』などで主演も重ねたが、初主演作は13年前の『鈴木先生』。『アンチヒーロー』で同僚の弁護士・赤峰役の北村匠海も生徒役の1人で出演していた。

最低記録の視聴率でも評価は高かった異色作

 『鈴木先生』はいろいろな意味で異色作だった。テレビ東京系の月曜22時枠の放送で、平均視聴率は2.16%。21世紀のGP帯の連続ドラマの最低記録だった。しかし、従来の学園ものと一線を画す内容は評判を呼び、ギャラクシー賞の優秀賞、日本民間放送連盟賞の最優秀賞などを受賞。2013年には映画化もされている。

 武富健治のマンガが原作で、舞台は中学校。当時34歳の長谷川が演じた鈴木先生は、不良や問題児でない普通の生徒が心に抱えているものに気を配り、独自の教育メソッドで理想のクラス作りを目指す。

 問題が起きても悩みながら冷静にふるまう一方、女子生徒との性的な妄想に苛まれてもいた。ストーリーも1話から、男子生徒が同級生の妹の小学生と肉体関係を持って騒動になったりと、賛否を呼んだ。

 脚本はのちに『リーガル・ハイ』や『コンフィデンスマンJP』などを手掛ける古沢良太。生徒役にもジャニーズ勢などはいなかった中、現在は主役も張る若手が、まだ無名に近かった頃に名を連ねていた。

優等生だが給食で問題を起こす役を演じる

 子役出身の北村匠海は当時13歳で、出水正という生徒を演じていた。厳しい両親のもとで育ち成績も良い優等生だが、給食の時間にカレーをグチャグチャにかき混ぜて「げりみそ」などと騒ぎ、女子生徒を激怒させる。鈴木先生に呼び出されて理由を聞かれ、「見ていてわからなければ、言ってもわかりません」と挑発するようなやり取りを見せた。

 北村はその後、映画『君の膵臓をたべたい』や『東京リベンジャーズ』シリーズで主演。『にじいろカルテ』、『星降る夜に』、『風間公親-教場0-』などドラマ出演も途切れず、スター街道を歩んでいる。

役者を続けるきっかけになって再会に醍醐味

 『アンチヒーロー』初回放送前の特番では、『鈴木先生』以来の長谷川との共演に触れ、「役者を続けていくきっかけにもなった先生との再会は醍醐味」と語っていた。長谷川のほうは北村について「10代のときとは全然違う。人前で注目を浴びて大変な想いもしてきているのが出ている」と話した。

 今回は同じ弁護士として対峙。明墨が無罪を勝ち獲った被告が、実は殺人を犯していたことを知った赤峰が「先生の正義がどこにあるのかわかりません」と詰め寄るシーンも。

 明墨は「君が君の正義を貫くように私は私の道を突き進む」と応じたが、長谷川は「視線を合わせて芝居をすることで、匠海くんの俳優としてのいろいろなものが見えた」と、“教え子”の成長を喜んでいるようだった。

妄想に誘う美少女役で初レギュラーだった土屋太鳳

 『鈴木先生』でメインの女子生徒の小川蘇美を演じたのは土屋太鳳。大規模な女優オーディションからデビューし、この作品が連ドラ初レギュラーだった。

 小川蘇美は凛として聡明でもの静かな美少女。鈴木先生が理想のクラスを作るためのスペシャルファクターとして、職員のクラス替え会議でさりげなく引き入れていた。そして、鈴木先生の夢や妄想に現れる。部屋に来て服を脱ぎ出したり、風呂に現れたり、布団に連れ込んだり。

 体育教師も風俗店で小川と同じソックスを穿かせたイメージプレイをしていた。クラスで彼女を好きな男子が5人いて、その1人の学級委員が暴走して壊れる。本人の意図しないところで周りを惑わせる聖少女ぶりを、当時16歳の土屋が体現していた。

 土屋も以後、朝ドラ『まれ』や映画『orange』、『青空エール』など主演級の作品が相次ぎ、若手トップ女優の1人となった。公開中の『帰ってきた あぶない刑事』でも、主人公のタカ(舘ひろし)かユージ(柴田恭兵)の娘?というキーパーソンの役で出演している。

土屋太鳳
土屋太鳳写真:2020 TIFF/アフロ

 正義感の強い女子のリーダー的存在の中村加奈役で、出番が多かったのは未来穂香。ジュニアファッション誌「ラブベリー」のモデルから、『鈴木先生』の前年公開の映画『マリア様がみてる』ですでに主演していた。ニューヨーク留学を経て復帰後は、本名の矢作穂香で活動。深夜で人気を博した『おしゃ家ソムリエおしゃ子!』などに主演した。

赤裸々でインパクトを残した小野花梨が12歳で片鱗

 ひときわインパクトを残した女子生徒が、性体験が豊富なカーベェこと河辺彩香で、小野花梨が演じていた。1年生のときから同級生や先輩とつき合って関係を持ち、「全然やさしくないんだもん。濡れる前に挿れてくるし」などと赤裸々な発言は、鈴木先生にめまいを起こさせる。

 小野は当時12歳の子役で、オーディションに受かったものの、スタッフ会議では「小学生にこの役をやらせていいのか」と議論されたという。だが、小野自身が「やります」と言い、「台詞の意味はよくわからないまま、何となくイヤなことをされたニュアンスで捉えていました」と振り返っている。

 その後の小野は、脇役中心ながら出演作は多数。映画『SUNNY』の薬物中毒のコギャルや、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の豆腐屋の娘など、縦横無尽な演技で印象を残し続けている。昨年の日本アカデミー賞では『ハケンアニメ!』の天才アニメーター役で新人俳優賞。『初恋、ざらり』では知的障害のある役でドラマ初主演も果たした。

 『鈴木先生』の河辺役でも、情緒不安定で「私は絶対悪くない!」と錯乱するシーンなどは圧巻で、当時から演技力の片鱗を見せていた。

出番は少なかった三つ編みの松岡茉優

 また、カンヌ国際映画祭で3部門受賞の『ドライブ・マイ・カー』のドライバー役で脚光を浴びた三浦透子が、クラスで一番の食いしん坊の樺山あきらを演じている。大好物の酢豚が給食の献立から外されると聞き、鈴木先生に泣いて撤回を懇願した。

 現在は映画監督となり、北村主演の『明け方の若者たち』などを手掛けた松本花奈は、中村加奈の親友だった入江沙季役。中村が小川と仲良くなったことに嫉妬し、鈴木先生のできちゃった婚を生徒が問う“鈴木裁判”では、鈴木先生を敵対視する家庭科教師と他クラスの女子の手先に。裁判を混乱に陥れようとしていた。

 そして、あまり出番はなかったが、バレー部で保健委員の堀の内七海を演じたのが松岡茉優だ。8歳から子役として活動し、中2で『おはスタ』のおはガールに。『鈴木先生』出演時は16歳で、おでこを出して三つ編みといういでたちだった。

 このドラマでの松岡は、学級委員がクラス中から責め立てられて吐いたあと、ゲロにみんなが尻込みしているところで、「私やるよ」と掃除を始めた場面が目を引いたくらい。

松岡茉優
松岡茉優写真:アフロ

多くの映画賞からドラマの教師役で主演も

 しかし、翌年公開の映画『桐島、部活やめるってよ』でのクラスのイケてるグループのギャル役や、朝ドラ『あまちゃん』のアイドルグループのリーダー役で注目を高める。当初は目標に「八嶋智人さんの女性版」を掲げ、名バイプレイヤーを志向していたようだが、観る者を引き込む演技力で駆け上がっていく。

 『勝手にふるえてろ』や『蜜蜂と遠雷』など主演作で数々の映画賞を受賞。カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを獲得した『万引き家族』でも、安藤サクラが演じた主人公の妹というメインキャスト。『鈴木先生』では差のあった土屋とも肩を並べ、実力派のトップ女優となっている。

 昨年の主演ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』では自身が教師役として、学園ものに凱旋した。卒業式の日に担任した生徒の誰かに突き落とされてタイムリープし、自分を殺そうとした者がいるクラスに向き合うストーリー。「何でもする」と覚悟を決めて、静かな熱が滾るような姿を見せた。鈴木先生とは違う意味で、型通りでない教師像を築いていた。

 今はあまり見なくなった生徒たちも、芝居のうまい面々を揃えた印象があった『鈴木先生』。視聴率こそ冴えなかったが伝説的な名作となると共に、その中から、第一線で活躍を続ける俳優が少なからず出たのも、必然だったと言える。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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