三笘薫に見えた日本U―24代表の明暗。なぜメダルに届かなかったのか?
三笘薫のワールドクラスの一撃
8月6日、東京五輪男子サッカー、3位決定戦で終盤に交代出場の三笘薫が決めたゴールは、控えめに言っても“世界基準”だった。
左サイドややエリア外でボールを受けると、リターンするフェイントを入れ、一気に縦に切り込んでディフェンスを置き去りにしていた。切り返しのスピード、精度も白眉。ディフェンスが入ってこられない間合いで、利き足ではない左足でGKの肩口を破るように、ニア上へ叩き込んだ。
GKギジェルモ・オチョアは、メキシコを代表するGKで国際経験も豊かである。オーバーエイジとしての出場で、この日も堅実なゴールキーピングで日本の前に立ちふさがっていた。三笘に対しても、ほとんど完璧な寄せ方だった。
つまり、三笘のシュートが世界を突き破ったのだ。
このプレー以外にも、三笘はメキシコを翻弄していた。一人で持ち込んでのドリブルシュートや、上田綺世への決定的なスルーパスなど、一つひとつがサッカーファンを熱狂させるレベル。ゴールの匂いを濃厚にさせていた。
では、三笘をもっと早く使うべきだったのか?
それはおそらく難しかった。
そのジレンマに、今回の日本がメダルに届かなかった理由が見える。
サイドアタッカーの駆け引きと守備
三笘のコンディションは別にして、先発で使うのは”博打”だった。
グループリーグで交代出場したメキシコ戦は、その証左だろう。
三笘は、堅実に守備をしながら時間を使い、試合をクローズする役目を託されていた。しかしボールを受けると仕掛けてしまい、悪戯にそれを失った。その失敗を繰り返していた。
「フラッグ!」
たまりかねたチームメイトから叱責に似た指示が飛ぶほどだった。
三笘は、相手と力の差がある場合、もしくは味方が圧倒的に優勢な場合、攻撃オンリーで力を示せる。しかし実力が拮抗している時、駆け引きで後手に回ると、チームを窮地に立たせる危険性があった。戦術面でのバランスを取れるか。それが90分間を戦う選手には求められるのだ。
そして三笘は守備に回った時、不規則さと弱さが目立った。
日本人アタッカーの守備の能力の懸念は、欧州のトップレベルのクラブに在籍した時、ほとんど必ず指摘される。
例えば、スペインにやってきたときの乾貴士は、その点で1年目は苦労している。彼はその仕掛ける力で高い評価を受けた一方、上位クラブ相手ではベンチだった。彼の守備が綻びになってしまっていたのだ。
日本では、前からボールホルダーにプレスをかけ、必死に追うことが”守備”に見られがちである。しかし浅はかにボールホルダーに詰め寄ると、スペインでは一斉に怒号が飛ぶ。守備は全体で行うもので、サイドの選手の守備は原則的に、ボールホルダーの侵入経路と自分の裏の選手へのパスコースを切って、追い詰めることにある。それを丹念に行うことでポジション的優位が生まれ、それが攻守両面で味方を有利にし、戦術として機能する。
同時に、強度も求められる。球際になった時のフィジカルや体の使い方など、デュエルと言われる類のものだろう。そのディテールが問われる。
乾は守備を身につけ、2年目から飛躍した。
交代出場した三笘は王者・川崎フロンターレをけん引するアタッカーとして、Jリーグでは無敵に近かった。疲れて足が止まって、チームとしての守りが崩れかけていたメキシコに対しても、同じく脅威となっていた。しかしチーム同士が四つに組んだ状態では、力を出せない可能性が高かったのだ。
その起用は、博打だった。
主力組と控え組の差
結局のところ、欧州でプレーを重ねている主力と、国内で活躍していた選手との差が出た。
<どんな状況でも自分の力を出せるか>
ヨーロッパでは、常にそれを試される。吉田麻也、酒井宏樹の二人は象徴的な選手だった。五輪年代でも、久保建英、堂安律、冨安健洋の3人は頭一つ二つ抜けていた。彼らに引っ張られるように、チームとして強くなっていったが…。
過密日程を戦う中、主力選手は擦り切れていった。
とりわけ、オーバーエイジの遠藤航は気の毒なほどのプレーが落ち込んでいた。グループリーグで力を使い果たし、準々決勝のニュージーランド戦からプレーに”灰汁が出た”。力強くボールを奪い返す一方、呆気なくボールを失う。準決勝のスペイン戦もファウルが多くなって、3位決定戦では攻撃意欲を見せたものの、あろうことか3失点すべてに絡んだ。
遠藤をどこかでバックアップできるMFが必要だったが、存在が大きすぎた。
選手層において(森保一監督には猛暑の中で中二日、戦略的なターンオーバーを準備していてほしかったが)、日本の4位は妥当だったのかもしれない。
三笘の成長
しかし逆説すれば、日本の逸材たちがヨーロッパに渡ることで、その力は鍛えられる。
五輪後、三笘はベルギー1部のクラブでプレーする。Jリーグでは得られない成長があるだろう。助っ人という重圧のある立場で、試合を決めることを求められ続ける。異なる国の生活やプレーリズムに適応し、チームメイトとコミュニケーションをとる。その経験で、スケールは大きくなるだろう。
何しろ、センスはすでに世界的ディフェンスにも通用するのだ。
日本人選手の良さは、修羅場を戦うことで成長できる点にある。
例えば、GK谷晃生は試合ごとに逞しさを増していった。守備エリアが広く、パンチング、キャッチングの判断が抜群で、キックも武器になっていた。PK戦でのストップは一つのハイライトか。殊勲者という賞があるなら、谷が受けるべきだ。
また、田中碧は五輪後にドイツのクラブに渡るが、とても楽しみなMFである。フランス戦、久保へ入れたパスの数々は世界を感じさせた。そのサッカーセンスはJリーグでもとびきり。異国で触発され、大きく開花するのではないか。
FW上田綺世の巻き返しにも期待したい。フランス戦、ボールを呼び込み、叩く、という単純な動きで才能の片鱗を見せた。メキシコとの3位決定戦でも、反転や動き出しなどは抜群で、日本を背負うべきストライカーだ。
大会前にも書いたが、五輪は育成年代の頂点であって、ゴールではない。あくまで始まりの場所である。メダルに届かなかった今、捲土重来を期すべき大会になった。
五輪世代が成熟することで、日本サッカーがさらに強くなることを切に願いたい。