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年末年始人間関係トラブル防止法:正月休みの正しい過ごし方と認知の歪みの心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:そんなに怒らないで)(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

<年末年始、帰省、正月休み。楽しいけれど、人間関係トラブルが多くなる。その原因になるのは、「認知の歪み」。でも、正月休みを上手に活用できれば、将来のトラブル防止にもなる。>

■年末の忙しさ

今年も残りわずか。仕事納めも終われば、今度は自宅の大掃除やら年賀状やら実家への帰省やら。やることはいっぱいです。本当なら穏やかに、楽しく、ハッピーな年末年始を過ごしたいものですが、不愉快になり、互いに責め合い、大げんかになることもあります。せっかくのお正月休みなのに。

そこで今回は、年末年始、正月休みの人間関係トラブルを、社会心理学から考えてみたいと思います。

■考え方の歪み(認知の偏り、バイアス)

私たちは、自分が正しいと思っています。はい。確かにあなたは正しいのでしょう。ただ問題は、相手も同じように自分が正しいと思っていることです。それで考えが同じなら良いですが、考えが食い違えば、摩擦が起き、トラブル発生です。

私たちのものの考え方は、いつも少し歪んでいます。特に直感的にさっと判断する時、この歪みが現れやすくなります。

人は心に余裕があるときは、複雑なことをじっくり考えて判断もできます。ところが、疲れたり、焦ったり、無理をしたり。心に余裕がなくなると、複雑に考えることが面倒になり、直感的な判断が優勢になります。そうすると、いつも以上に歪んだ認知が発生しやすくなるのです。

■年末年始のストレス

本当なら、正月休みはゆっくりしたいものです。

でも、やっぱり年末は忙しい。毎年のことといえ、1年ぶりです。いつもとは違うことをしなければなりません。やっと1年の仕事を終え、疲れも溜まっている時に、今度は家の仕事であり、実家や親戚との付き合いが待っています。

大混雑の中の移動も大変なストレスです。現代人の人間関係能力は低下し、親戚付き合いも薄くなっているのに、正月だけは実家に親戚が集まるとしたら、楽しいと感じられる人は良いのですが、ストレスと感じる人にとっては、もはや難行苦行になることでしょう。

■自分の方が頑張っている、我慢している:認知の歪み1

大掃除でも、子供や孫の世話でも、年末年始の家族や親戚の様々な事柄も。あなたは、頑張っています。あなたは、パートナーよりも、兄弟姉妹よりも、頑張っています。そう、感じますよね。

しかし、心理学研究によると、人はいつも実際以上に自分が他の人よりも頑張っている、我慢していると感じるものなのです。二人で役割分担している人に質問すると、大抵は自分の方が6割頑張っていると答えます。自分の苦労や我慢は自分で全部わかるからです。相手の頑張りや苦労は、見えない部分もあるでしょう。

人はやはり自分に都合が良いように考えたいという面もあります。お互いに自分が6割だと感じ、お互いに相手が自分に感謝すべきだと感じている。これでは、人間関係がうまくいきません。

普段なら、そんなふうに考えていても表面化しないのですが、年末年始の多忙と疲れとストレスの中で、相手に思いをぶつけてしまえば、ケンカにもなるでしょう。

いえ、認知の歪みや誤解ではなく、頑張り屋のあなたは本当に他の人よりも貢献していることでしょう。その通りでしょう。ただ問題は、相手も同じことを考えているということです。

(写真はイメージ:写真AC)
(写真はイメージ:写真AC)

■自分のことは環境のせい、人のことはその人自身のせい:認知の歪み2

お母さんが大掃除をしていて、水が入ったバケツを廊下に置いてある。そこに娘が通りかかって、バケツをけ飛ばして水をこぼしたとします。お母さんは何というでしょうか。「どこに目をつけてるの!おっちょおちょいね!」と叱るでしょう。

でも、同じことが逆に起きたらどうでしょうか。

娘が大掃除をしていて、水が入ったバケツを廊下に置いてある。そこにお母さんがが通りかかって、バケツをけ飛ばして水をこぼしたとします。お母さんは何というでしょうか。「誰ですか、こんなとこにバケツを置いたのは!危ないでしょ!」と怒るでしょう。

同じことが起きたのに、自分に起きた時にはバケツのせいだと感じますし、人に起きた時にはその人自身のせいだと感じるのです。これは、お母さんだけではなく、すぐ口に出すかどうかはともかくとして、人はそう感じるものなのです。

お正月に実家に行く側の家族に言い分があり、迎え入れる実家側にも言い分があるものです。

■誤りがわかったその瞬間に:認知の歪み3

夫が運転していて、妻が助手席で道案内をするとしましょう。

夫「次、どっちへ曲がればいいんだ」

妻「ええっと、右かな」

右車線へ行った方が良いのか、左車線を行った方が良いのかも、同じです。新幹線の自由席に乗るための行列で、何号車の行列に並べば良いのかも同じです。

その選択が正しければ良いでしょう。右が正しく、右の道が空いていて、右の道が早く着くなら良いでしょう。しかしそうではないとき、妻を責める夫もいます。

人は、あることがわかったその瞬間に、事前にわかっていて当然だと感じるのです。

なぜ気がつかなかった、なぜ確かめなかった、なぜ正しく選べなかったと責められることは、多々あります。妻に責められる夫もいます。

妻(夫)に選択を任せて、その選択が正しい時にはお礼も感謝もなく、その選択が間違っていた場合には責める。それは、最悪です。責めるぐらいなら、最初から自分で選べば良いでしょう。任せたなら、責めるのはやめましょう。

ただ、責めたくなるのは悪い人だからではありません。人とは、そう感じるものなのです。それでも心に余裕があれば、思っても口には出さないのですが、年末年始のストレスの中で、声に出してしまうこともあるでしょう。

■愛が動機の人間関係トラブル

正月休みは家族親戚が集まります。そこで、トラブルも起きます。

悪人は傷つきません。詐欺師が騙すのに失敗すれば、次のカモを探しに行くだけです。ところが、愛が動機の場合は簡単ではありません。心を込めた努力と誠意を受け止めてもらえなければ、激しく傷つき、時に攻撃的になります。これを、自己愛の傷つきと言います。

親、子、孫、姑、舅、姑、嫁、兄弟、従姉妹。お金だけの関係やビジネス上の関係なら割り切れますが、親族だからややこしくなります。

たとえば嫁と姑の争いは、心理学的に見れば、一人の男をめぐる二人の女の争いです。兄弟の争いの根元は、親の愛の奪い合いです。子供の頃にお菓子を取り合い、親の膝を奪ったように、親に認められ親からの財産を得ようとします。

日頃から仲が良ければ良いのですが、何とか関係をつ受けてきた程度の仲だと、遺産問題や親の介護問題で、関係が破綻します。負担を避けようとする思いと、愛が絡み合い、問題が悪化するのです。

■年末年始、お正月休みの過ごし方

(写真はイメージ:写真AC)
(写真はイメージ:写真AC)

さて、せっかくの家族親戚が大きなトラブルにならないように、年末年始、正月休みを活用しましょう。親戚付き合いが薄くなっているからこそ、正月休みは今後のトラブル防止のとても良いチャンスです。

人間関係のトラブル防止に効果的なのは、感謝、「ありがとう」です。ありがとうの思いは、幸福感を高め、自己肯定感を高めます。そして、自分を受け入れるように、他者も受け入れられるようになります。

ありがとうの思いは、贅沢に慣れてしまうことや、他の人からの親切を当然と思ってしまうワナから、逃れさせてくれます。

そして、親戚が集まってちょっと楽しい昔話をしましょう。昔話に笑顔になり、自分たちの人生を深く味わうことは、さらに幸福感を高め、人間関係を良くしていくことにつながっていきます。

それから、正月には意味のないことをしましょう。私たちは、昔から正月には馬鹿らしい無邪気な遊びをしてきました。家族親戚みんなで気楽に笑えるテレビも、良いものです。

新年には「意味のないこと」をしよう:お正月リフレッシュの心理学

家族親戚の人間関係がこじれ始めると、認知はさらに歪み、「敵意バイアス」や「対立の過大視」が生まれ、人間関係は破壊されます(人間関係トラブル防止法:世界を正しく見る方法:認知バイアスの心理学Y!ニュース有料

年末年始、正月休みは、失敗すれば、「もうあなたの実家には行きません!」にもなるでしょうし、うまく活用できれば、将来のトラブル防止になり、私たちの人生を豊かに幸福にしてくれるものなのでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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