オミクロン株で肺炎の頻度は? 政府、インフルと比較調査せず「まん延防止措置」適用か 特措法違反の疑い
オミクロン株の感染拡大を受け、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づき1都12県に「まん延防止等重点措置」を適用することを決定した。
緊急事態宣言や重点措置の適用は、肺炎等の発生頻度がインフルエンザより「相当程度高い」場合に限定される。
だが、政府はオミクロン株についてこの比較調査や要件を満たすかどうかの検討をしていなかったことが、筆者の内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室への取材でわかった。
オミクロン株では肺炎にかかりにくいと専門家らは指摘しており、重症者は増加傾向にあるが、陽性者数と比べると極めて低い水準で推移している。
政府が、インフルより肺炎等の発生頻度が「相当程度高い」ことを証明できなければ、特措法に基づく営業制限等を伴う措置は法令違反と疑われることになる。
法令の規定は?
新型コロナウイルス感染症は、特措法上「新型インフルエンザ等」というカテゴリーに含まれており、「重点措置」を適用するための要件は次のように規定されている。
新型インフルエンザ等対策特別措置法
(新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置の公示等)
第三十一条の四 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章及び次章において同じ。)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、当該事態が発生した旨及び次に掲げる事項を公示するものとする。
(以下、略。太字は筆者)
新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令
(新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態の要件)
第五条の三 法第三十一条の四第一項の新型インフルエンザ等についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度が、感染症法第六条第六項第一号に掲げるインフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められることとする。
(太字は筆者)
内閣官房コロナ対策室「比較調査していない」
特措法を所管する内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室の担当者は、筆者の取材に対し「肺炎等の発生頻度がインフルエンザより相当程度高い」という特措法施行令5条の3の規定について「承知している」としながら、「オミクロン株による肺炎等の発生頻度とインフルエンザとの比較調査はしておらず、この要件に当てはまるかどうか検討した資料もない」と答えた。今後も調査する考えはないのか聞いたが「意見として承る」として明言しなかった(1月19日に質問し、20日に回答)。
施行令は、インフルエンザと比較する症例として「肺炎」「多臓器不全」「脳症」のほか「その他厚生労働大臣が定める重篤である症例」と定めているが、この担当者は「別途、厚生労働大臣が省令で定めた症例は存在しない」と回答した。
つまり、特措法に基づき緊急事態宣言等を実施できるのは、インフルエンザより「肺炎、多臓器不全、脳症」の発生頻度が「相当程度高い」場合に限られることになる。
政府は、重点措置の実施にあたって基本的対処方針を改定した。その中の「肺炎」についての記述は、コロナ禍初期の知見からほとんど更新されていなかった。
潜伏期間は約5日間、最長14日間とされている。感染後無症状のまま経過する者は 20〜30%と考えられており、感染者の約 40%の患者は発症から1週間程度で治癒に向かうが、残りの患者は、発症から1週間程度で肺炎の症状(酸素飽和度の低下、熱の持続、激しいせきなど)が明らかになり、約 20%の患者では酸素投与が必要となり、約5%の患者が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に移して呼吸器による治療を要すると考えられる。(1月19日改定の基本的対処方針より)
オミクロン株の肺炎の頻度はインフルより「相当程度高い」か?
では実際は、どうなのか。
インフルエンザによる肺炎については、コロナ禍以前は「毎年数万~11万人がインフルエンザ肺炎を発症し、少なくとも1万人以上が入院している」と指摘されていた(参考記事)。インフルエンザの感染者は毎年1000万人前後とされているため、肺炎の比率は1%前後とみられる。
一方、新型コロナウイルス感染症は当初「新型肺炎」と呼ばれていたように、肺炎が典型的症状の一つとされてきた。
だが、今冬に流行している新型コロナ・オミクロン株では、肺炎を併発する症例は極めて少ないと言われている。
厚労省によると「オミクロン株確定例としてHER-SYSに登録されている新規陽性者のうち、発生届提出時点における重症度が入力されている670件(1月12日時点)」の内訳は、軽症661件、中等症Ⅰ 8件、中等症Ⅱ 1件、重症0件だった。酸素吸入が必要とされる中等症Ⅱ以上の症例は0.1%だ(厚労省資料)。
ただ、このデータは届出時点の症状のため、届出後に悪化した場合は反映されないため、これだけでは判断できない。
国立感染研究所によると、オミクロン株感染者の初期の事例191例のうち、95%(181例)が無症状ないし軽症で経過したという(1月13日報告)。肺炎の症例には言及がなかった。
大阪大学の忽那賢志教授ら感染症専門家も、オミクロン株について解説するとき「肺炎」の症例には全くといっていいほど触れていない(最近のオミクロン株に関する3本の記事で1箇所だけ「肺炎にかかりにくく」と言及したのみ)。
東京都では、療養者数3万3000人に対し、重症者(人工呼吸器・ECMO管理)は10人(1月19日現在、病床使用率2%)と、極めて低い水準だ。
オミクロン株が主流になって以降、すでに肺炎の発生頻度は、インフルエンザと同程度またはそれ以下となっている可能性も否定できない。
だが、政府も専門家も、この点に関して積極的に情報開示し、説明しているとはいいがたい。
特措法の要件、感染症法上の分類・運用に関わるだけに、早急に科学的な調査と情報公開が求められる。
【1月22日追記】
大阪府は1月21日、オミクロン株の感染拡大による第6波における新規陽性者1万9530人の重症化・死亡例をとりまとめ、重症化率は0.05%、致死率は0.03%と発表した(大阪府新型コロナウイルス対策本部会議資料より)。
デルタ株の第5波では、重症化率1.0%、致死率0.4%だった。
年代別にみても、60代以上の重症化率が、第5波の4.7%から第6波の0.4%に大きく低下していることが明らかになった。
大阪府専門家会議の朝野和典座長(大阪大教授)も意見書で、オミクロン株のリスクがインフルとほぼ同水準になる可能性に言及し、特措法に基づく運用の見直しを示唆している。