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『オールド・ガード』でもテッパンの映画作り。シャーリーズ・セロンはなぜ最強なのか?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
(写真:REX/アフロ)

 先週末からNetflixより配信がスタートした『オールド・ガード』は、今やハリウッドでは稀有な演技派にしてアクション女優でもあるシャーリーズ・セロンならではの作品だ。今回も、主演女優とプロデュースを兼任するセロンの仕事ぶりに死角は見当たらない。

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物語には製作者としての渾身のアイディアが

『オールド・ガード』はセロン率いる製作プロ”Denver and Delilah”(主宰者の愛犬の名前に由来する)がプロデュースした14本目の作品だ。その第1作『モンスター』(03)でアカデミー賞に輝いたセロンは、その後も、『ヤング≒アダルト』(11)では『JUNO/ジュノ』(07)でアカデミー脚本賞に輝いたディアブロ・コーディとタッグを組み、『アトミック・ブロンド』(17)ではアクション女優としての進化を証明し、『スキャンダル』(19)では実在のセクハラ事件を告発するTVキャスターに扮して、数えて3度目のオスカー候補に名を連ねる。演技派のアクション女優としてだけでなく、プロデューサーとしての手腕も、もはや超一流の域にあるセロンである。

『スーパーマン』や『ワンダーウーマン』で知られるアメリカのコミックライター、グレッグ・ルッカのグラフィック・ノベルを映画化した『オールド・ガード』は、長大な時間を潜り抜けて来た不死身の戦士たちが、彼らのDNAを採取して、それを兵器に転用しようとする悪の組織に立ち向かう物語。南スーダン、アフガン、等々、歴史に刻まれる戦いの現場に傭兵として居合わせ、死の危険を回避して来たチームメンバーの、文字通りの不死身ぶりが明らかになる驚き、彼らのスキルを悪用しようとする人間の軽薄さ、やがて始まる不死身軍団の反撃と、約2時間の間、展開の早さは視聴者に退屈する隙を与えない。また、セロンは不死身という設定にも限界があり、そこに肉体的な痛みが伴うことを脚本に書き加えることを指示。こうして、物語は同じことが繰り返されるワンパターンに陥ることを免れ、独特の緊張感を持ち得た。セロンのプロデューサーとしての視点がいかに的確かが分かるエピソードだ。

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マーベルとDCに関わらずアクション女優としての地位を確立

 劇中では、銃器を用いたアクションシーンが数多く登場するが、もう一つの見せ場は、『アトミック・ブロンド』の時と同様、セロンが4ヶ月間に及ぶ特訓で身につけたマーシャルアーツの成果を披露する場面だ。一瞬で周囲が破壊される銃撃シーンの合間に、手と足が交互に相手の急所を狙い撃ちする人間同士の格闘シーンを挟み込むことで、絶妙なアクセントが生まれる。それは『アトミック~』の監督で、『ジョン・ウィック』(14)には製作と共同監督として関わったスタントマン出身のデヴィッド・リーチから、セロンが学び取ったアイディアだろう。

 思えば、シャーリーズ・セロンはマーベルやDCコミックの映画化に一切関わらず、アクション女優としての地位を確立したハリウッドでは珍しい存在だ。その起源は初めてアクションに挑戦した人気コミックの映画化『イーオン・フラックス』(05)だが、完成した作品は配給のパラマウントの指示により、監督、カリン・クサマの意志に反して、ディテールと上映時間を大幅に改変したものだった。これを機に、セロンは長らく自身のキャリアからアクション女優を封印することになる。彼女が再びアクション女優として完璧に蘇ったのは、それから10年後、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)でのこと。そこで、男性優位の社会に舞い降りた丸刈りの戦士、フュリオサに扮した彼女は、抑制した演技と孤高の風貌で作品を支配し、オスカー候補も有力視される画期的なヒロイン像を確立。『エイリアン』(79)のシガーニー・ウィーバーや『ターミネーター』(84)のリンダ・ハミルトンと並ぶ女優としての足跡を、アクション映画に刻んだと絶賛される。

男性優位を勝ち抜いてきた先駆者、セロン

『オールド・ガード』のデジタルリリースに合わせて、映画業界誌”ハリウッド・レポーター”のインタビューを受けたセロンは、「こと女優に関しては、一度アクション映画で失敗すると2度と声がかからないのがハリウッドの現実よ」と答えている。それは、彼女自身のキャリアと、クオリティの良し悪しに関係なく人気シリーズを連作できる歴代の新旧男性アクションスターの恵まれた状況との比較した言葉。そこには、少しの諦めと激しい闘争心が感じられる。

 しかし、自ら製作プロを立ち上げ、実在する連続殺人鬼を演じてアカデミー賞を奪取した『モンスター』に始まり、2度目のオスカー候補となった『スタンドアップ』、ディアブロ・コーディと2度目のコラボとなった『タリーと私の秘密の時間』(18)等、小品でも、女性の現実を描いた秀作を送り出す傍らで、アクション女優として着実にキャリアアップを続けるセロンは、彼女が羨望の眼差しを送る男性アクションスターは勿論、アクション女優を名乗ってみたものの、挫折して行った同性の同業者たちもなし得なかった新たな境地に、今、佇んでいる。

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 そして、パワーウーマンの周辺には逸材が集まってくるもの。かつて、『モンスター』を監督したパティ・ジェンキンスは14年後、『ワンダーウーマン』(17)でアメコミ史上初の女性監督としてメガホンをとり、今年は続編の『ワンダーウーマン1984』(20)の公開を待つ身。また、『スタンドアップ』の監督、ニキ・カーロは同じく今夏のイベントムービー『ムーラン』(20)の成否を託されている。そして、『オールド・ガード』の監督、ジーナ・プリンス=バイスウッドは、大予算(7000万ドル)のコミックを監督した初の黒人女性として記録される。

 アクションもイケるオスカー女優、シャーリーズ・セロンは、#MeTooムーブメントが巻き起こるずっと昔から、性差の壁を叩き続けてきた先駆者。同時に彼女は、人材発掘という天賦の才能に恵まれた最強の映画人なのである。

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Netflix映画『オールド・ガード』7月10日(金)より独占配信中

 

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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