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両親は息子の成功を信じてない!?売れっ子俳優グレン・パウエルに関するちょっといい話

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
『ヒットマン』のオースティン・プレミアで(写真:REX/アフロ)

気が付けば今年は"グレパ・イヤー"

最近のハリウッド映画でよく見かける顔と言えばこの人、グレン・パウエルだろう。『トップガン・マーヴェリック』(2022年)でトム・クルーズ演じる主人公、マーヴェリックに鍛えられる精鋭パイロットの一人、ジェイク・”ハングマン”・セレシン役で好印象を残し、ブレイクスルー。その後、ラブコメとしては久々のヒット作となった『恋するプリテンダー』(2023年)、実在する潜入捜査官にインスパイアされた犯罪コメディ『ヒットマン』(2023年)、アメリカで続発する竜巻の恐怖を描いたデザスター映画の独立型続編『ツイスターズ』(2024年)と、話題作に立て続けに出演。気が付けばあまり元気がないハリウッド映画の希望の星になった感があるグレン・パウエル、略してグレパ。特に、日本では『トップガン~』後の3本がそれぞれ5月に公開済み(現在配信中)、または夏から秋にかけて劇場公開予定で、今年は物静かな”グレパ・イヤー”と言えなくもないのだ。

『恋するプリテンダー』
『恋するプリテンダー』

偽装カップルが本物の恋に落ちていくプロセスを描いた『恋するプリテンダー』はウィリアム・シェイクスピアの戯曲『から騒ぎ』をベースにしていて、シェイクスピアに関連する映画の中では史上最高のヒットを記録。今はほぼ死滅したラブコメというジャンルを復活させた功績も大きく、その原動力になったのがエリート金融マンに扮するグレパの親しみやすく憎み難い魅力だったことは確か。映画は現在、U-NEXTほか配信サービスで視聴できるので、今こそグレパのナイスバディと、劇中に登場する美しいビーチリゾートシーンを楽しむ絶好の季節ではないだろうか。

託された竜巻を追うストームチェイサー役

さて、『ツイスターズ』は1996年にスティーヴン・スピルバーグが製作し、ヤン・デ・ボンが監督した『ツイスター』の続編。タイトルに”ズ”が付いているがロゴは同じだし、深刻な竜巻の被害が報告されているアメリカ、オクラホマ州でロケされたことも、竜巻を追いかけて調査、死滅させる”ストームチェイサーたち”の死闘を描いている点も同じだ。前作に主演し、続編の製作を夢見ていたものの、夢半ばで他界してしまったビル・パクストンからバトンを引き継ぐのが、ストームチェイサー、タイラーに扮するグレパ。ここでは、カウボーイルックを果敢に着こなし、要所で場面をさらいまくるグレパだが、彼が劇中で運転する赤いラムトラック 3500は前作でパクストンが運転していた1995年型ダッジラム2500へのオマージュ。ディテールにハリウッド・デザスター・ムービーの歴史が刻まれているのだ。

カウボーイのストームチェイサー、グレパ
カウボーイのストームチェイサー、グレパ

『ヒットマン』では脚本も執筆

そして、ここ数年のグレパ出演作のベストという呼び声が高いのが『ヒットマン』だ。心理学と哲学が専門の大学教授が、たまたま地元警察に技術スタッフとして協力していたことから、停職処分になった前任者に代わって潜入捜査官となり、危険なミッションを遂行するというあり得なさそうな話だ。でもこれ、意外にも実話がベース。監督のリチャード・リンクレーターが主人公のモデルと言われているゲイリー・ジョンソンなる人物に関する記事を雑誌で読んだのが始まりだ。2001年のことだ。その後、長い時間を経たある日、パンデミックの最中に旧友から同じ記事を読んで興味を持ったという電話がかかる。その旧友がグレパ。2人はハンバーガー・チェーンの裏側に切り込んだ『ファーストフード・ネイション』(2006年)で出会い、大学野球部の実態を描いたコメディ『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016年)を経て、今も厚い信頼関係にある仲だ。特に、本作でグレパはリンクレーターと共に脚本も執筆。あり得なさそうな実話を1級の犯罪コメディに脚色して、早くも業界紙が選ぶ来年のアカデミー脚色賞候補の予想リスト入りを果たしている。この活躍ぶりは少し意外だったと言ったら失礼だろうか。

『ヒットマン』
『ヒットマン』

彼の魅力を早くから見抜いていたリンクレーターは、『俳優が大人の役でブレイクスルーするチャンスが不足しているハリウッドで独自の道を開拓した』と称賛。ブームはまだまだこれからが本番で、グレパにはエドガー・ライト監督のSF映画『The Running Man』をはじめ、TVシリーズを含めてすでに4本の新作が待機中だ。

しかし、故郷のテキサス州オースティンに住む両親、グレン・パウエル・シニアとシンディ・パウエルはいまだに息子の成功に関しては懐疑的らしい。それを物語る場面があった。今年5月、オースティンで開かれた『ヒットマン』のプレミアで、カメラの前で微笑む息子の後ろに突如現れた2人の手には、”STOP TRYING TO MAKE GLEN POWELL HAPPEN(グレン・パウエルを起こそうとするのはやめろ)””IT’S NEVER GONNA HAPPEN(そんなことは絶対に起こらない)”と書かれた段ボールが掲げられていたのだ。勿論、それは愛情と期待の裏返し。こんな両親の下で育ったのだから、ちょっと遅れてきたハリウッドの救世主(今年35歳)は、誰からも愛されるのだろう。

 息子をディスるプラカードは愛情の証
息子をディスるプラカードは愛情の証写真:REX/アフロ

『恋するプリテンダー』U-NEXTで配信中

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『ツイスターズ』8月1日(木) 全国ロードショー

(c) 2024 UNIVERSAL STUDIOS,WARNER BROS.ENT.& AMBLIN ENTERTAINMENT,INC.

『ヒットマン』9月13日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

(c) 2023 ALL THE HITS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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