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PFFアワード2024授賞式でシェアされた映画製作の100の苦しみと1の喜び

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
壇上に勢揃いした今年のPFF各部門のウィナーたち

昨日の金曜日、第46回ぴあフィルムフェスティバルのメインプログラムである自主映画コンペティション「PFFアワード2024」の授賞式が、東京のコートヤードマリオット銀座東武ホテルのボールルームで開催された。PFFの凄いところは、1977年のスタート以来、黒沢清、塚本晋也、荻上直子、石井裕也、早川千絵等、その後、日本映画の顔になっていった監督を含め、実に180名以上のプロの映画監督を輩出してきたこと。PFFに関しては”若手監督の登竜門”という使い古された表現が見事に当てはまるのだ。

そして、今年に関して言えば、コンペの応募者数が昨年を135本上回る692本に増えたこと、応募者の最年少は9歳で最年長は80歳と幅広かったこと、19作品に絞られた入選作品の平均年齢は23.1歳で、最年少は14歳の中学生だったこと、そのうちの12作品が女性監督による作品だったこと、以上が目立ったトピックとして挙げられる。映画祭を通してステージに登壇して監督たちとセッションし、授賞式のMCも務めた荒木啓子さんは、「今や映画を見たことがない人たちが映画を作っていることに驚きと感動を覚える」とコメントしていたが、映画製作が新たなステージに突入しているのはどうやら確かみたいだ。

グランプリ受賞作『I AM NOT INVISIBLE』
グランプリ受賞作『I AM NOT INVISIBLE』

それでも、今年の各部門の受賞者のコメントからは、映画を作ることは今も昔も苦しい作業であることに変わりはないことを伺わせた。以下、抜粋して紹介しよう。「撮影中は映画が嫌いになっていた。一緒に作っている仲間に対しても殺してやりたいと思うくらい嫌だった」(エンタテイメント賞(ホリプロ賞受賞作『さよならピーチ』の遠藤愛海監督)、「これは、半ばやけっぱちで作った作品。1人で映画を作るのはもう嫌です」(準グランプリ受賞作『稲川悠司監督』、「今回、映画を作ることで、辛いことに向き合うこと、立ち向かう術を見つけたと思います」(グランプリ受賞作『I AM NOT INVISIBLE』の川島佑喜監督)。

審査員を務めた作家、小林エリカ(左)と『I AM NOT INVISIBLE』の川島佑喜監督
審査員を務めた作家、小林エリカ(左)と『I AM NOT INVISIBLE』の川島佑喜監督

各賞のプレゼンターを務めた審査員たちも若きクリエーターたちに熱いエールを送った。中でも、5人の審査員の1人、吉田恵輔監督の言葉には説得力があったと思う。「時には映画を嫌いになることもある。それでも、映画監督になって幸せだと思う瞬間がいっぱいある。100辛くて、1幸せの、1の力がとんでもなくデカい。どうか才能を手放さず、走り続けてもらえたら幸いです」この言葉に、受賞者たちは何よりも勇気づけられたことだろう。

また、審査員の多くが過去に何等かの形でPFFと関わりがあったことが分かり、授賞式ではそれが次々と伝達されていった。『PERFECT DAYS』でヴィム・ヴェンダースとコラボしたクリエイティブ・ディレクターで小説家の高崎卓馬は、4回PFFにトライしてノミネートもされなかったこと、吉田監督はPFFに落ちたことがあり、それが作り続ける原動力になったこと、また、俳優の仲野太賀は過去にPFFスカラシップ作品のオーディションに落ちた苦い経験を告白。会場の笑いをとった。

仲野太賀と審査員特別賞を受賞した『END of DINOSAURS』の関係者たち
仲野太賀と審査員特別賞を受賞した『END of DINOSAURS』の関係者たち

授賞式終了後、同じホテルの上階に場所を移して行われたレセプションでは、2017年のPFFアワードで初監督作『あみこ』が観客賞を受賞し、今年、『ナミビアの砂漠』がカンヌ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞に輝いた山中遥子監督が乾杯の音頭をとった。その際、監督はPFFで出会った仲間たちとは、今も怪しいプロデューサーの情報等をシェアしていると暴露。若い映画監督を待ち構える映画ビジネスの闇を暴露して、笑いを誘った。新人監督たちにとって映画製作は色々な意味で楽ではないのだ。

『ナミビアの砂漠』は公開初日から東京都内の劇場を中心に満席が続出するほどの快進撃を続けている。20歳前に作った初監督作がPFFで受賞し、『ナミビアの砂漠』では女性監督としては史上最年少(27歳)の国際批評家連盟賞の受賞者となった山中監督は、吉田監督が言う1の幸せを若くして掴み取った幸運なクリエーターと言えるだろうか。過去に関わった様々な人々を映画というテーマで繋げるPFF。さらなる発展を願うばかりだ。

<グランプリ>

『I AM NOT INVISIBLE』監督:川島佑喜

<準グランプリ>

『秋の風吹く』監督:稲川悠司

<審査員特別賞>

『これらが全てFantasyだったあの頃。』監督:林真子

『END of DINOSAURS』監督:Kako Annika Esashi

『松坂さん』監督:畔柳太陽

<エンタテインメント賞(ホリプロ賞)>

『さよならピーチ』監督:遠藤愛海

<映画ファン賞(ぴあニスト賞)>

『ちあきの変拍子』監督:白岩周也、福留莉玖

<観客賞>

『あなたの代わりのあなた展』監督:山田遊

★PFF関連情報

「PFFアワード2024」入選作19作品を10月31日までオンライン配信中

https://pff.jp/46th/online.html

今年5月より日本航空(JAL)の国際線と国内線の機内エンターテインメントにて、PFFアワード受賞作品の上映がスタート

https://pff.jp/jp/news/2024/04/jal_pff.html

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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