「共感力」なんて古い!? 今の時代は「反感買われない力」をアップするほうが大事
■共感力なんて古い?
最近やたらと「共感力」「共感コミュニケーション」などが取りざたされている。経営理念やオフィスの設計まで「共感」をキーワードにしている企業も増えた。
しかし個人の共感力をアップするのは難しい。多様性の時代だから、相手がどのような感情を抱いているのか、それを予測するのがとても難しくなってきたからだ。そのため共感力よりも「反感買われない力」をアップしたほういいと私は思っている。
できもしないのに共感力をアップしようとする人は、
「あなたのことはわかってる」
「こういう感情を抱いてるんでしょ」
「わかるよ、わかる」
という態度を示す。まさに感情の押し付けである。したがって共感力ゼロの人ほど
「大丈夫?」
「大変でしょ?」
「キツいよね?」
と「暗示質問」を繰り返す。この質問をする人は無意識にやっているだろうが、こういった質問を投げかけられ続けると、相手は、
「私って大丈夫じゃないんだ」
「私がやってることって大変なことなんだ」
「この作業ってキツいんだ」
と暗示にかけられていく。だから暗示にかかりたくない人ほど、反感を覚える。
「別に大丈夫ですけど」
「全然大変じゃないけどな」
「こんなことがキツいんだったら、何もできないよ」
と思うのだ(口に出して言われることはほとんどないだろうが)。
だから本気で共感力を磨きたいなら「大人の共感力」を身につけよう。自分の感情を脇に置いて共感(相手の感情を共にする)することだ。
■「知ったかぶり」はやめよう!
「大人の共感力」を身につけたいなら、まずは「大人」の定義を知ることだ。
そもそも大人は知ったかぶりをしない。知らないことを知らないと言えるのが大人だ。大人になる過程で分別がつくようになるから、それができる。
たとえば子どもは、知らないことでも
「僕、それ知ってる!」
と言う。
「本当に知ってるの?」
と聞いても、
「知ってるよ!」
と強がりを言う。
それとは反対に大人の共感力がある人は、相手の感情を「私は知ってる!」と思わない。「私はよくわかっている」という先入観も持たない。なので自分の感情を脇におくことができるのだ。
「仕事、大丈夫?」ではなく、「仕事、どう?」。
「新規の開拓は大変ですか?」ではなく、「新規の開拓はどうですか?」。
「テレアポってキツい?」ではなく、「テレアポはどう?」。
このように尋ねる。そして尋ねたあとに、その人の心の動きを洞察するのだ。「心の動き」とは、
・表情
・仕草
・息遣い
・声
・行動……等
これらの変化のこと。こういった心の動きをしっかり洞察して、相手の感情を読み取っていく。重要なのは「変化」だ。何度も同じシチュエーションで質問し、「変化」を知ることだ。
なぜ心の動きを知る必要があるかというと「言葉=感情」ではないからだ。
「大丈夫です」「キツくないよ」と言われても、「言葉とは裏腹」の人もいる。大人であれば、経験上知っているだろう。
「本人がキツくないと言ってるんだから、大丈夫だよ」
なんて思い込むのは子どもっぽい。
■「お金の使い方」で人の価値観がわかる
家族と死別したら悲しい、戦争が始まったら腹立たしい――という、絶対的な感情ならともかく、だ。相手のことをよく知らないのに、
「普通こうなったら、こう感じるでしょ」
という決めつけは、よくない。
お子さんの結婚が決まっても、親が喜んでいるかどうかはわからない。毎日100本電話している営業活動がツラいかどうかもわからない。
感情は個人のものだ。人それぞれ違う。だから個人の感情を勝手に「僕、知ってるよ!」と思い込んではいけないのである。
とくに「お金の使い方」に関しては気を付けよう。世代が違うと、価値観が大きく異なる。
たとえば、
「お金があったら、ブランドものの服とかバッグが欲しいよね?」
と問いかけられて、
「はい! 高級な服とかバッグを買いたいから、頑張って稼ぎます」
と共感する人は、どれぐらいいるだろうか。
「どんなにお金があっても、服とかバッグなんかにお金を使いませんよ」
と反感を覚える人もいるだろう。
私にとっての文房具がそうだ。昔は高級なボールペンを持っているコンサルタントがカッコよく見えた。「高価なボールペンや万年筆を使え」と指南するビジネス書も多かったからだろう。
しかし今はまったくそう思わない。メモ魔なので、安いボールペンを30本ぐらい買い込んで、家のアチコチに置いたり、バッグの中にも2本ずつ常備して使っている。
「できるビジネスパーソンに見られたい」という考え方がなくなってしまったからだろう。
このように同じ人でも、時代が変わったり、置かれた環境が変わることで、価値観や考え方はドンドン変化するものだ。
■「固定観念」は共感力アップの大敵!
以前、住宅営業からこんなエピソードを聞いた。
夫の両親と二世帯住宅を建てる女性に、
「やはり玄関は別のほうがいいですか?」
と尋ねたら、相手の女性がかなりカチンときたようで食って掛かってきた。
「どうして玄関が別のほうがいいんですか? 夫の両親は、私の親以上に大切な存在です」
「キッチンも同じにしますか?」
「もちろんです。どうして別々にしなくちゃいけないんですか?」
「だって新婚さんですし……」
「新婚なら、絶対にそうしなくちゃいけないんですか?」
「いや、そんなことは言ってませんよ」
「そうやって高い家を買わせようとしてるんですね。よくわかりました」
相手の感情を決めつけて「暗示質問」をしたため、誘導されているとお客様は受け止めた。結局、この商談は破談になったそうだ。その気がなくても、営業は気を付けるべきだろう。
とくに今は多様性の時代だ。「固定観念」を取り払うべきだ。
「お金持ち=高級な服やバッグを欲しがる」
「できるビジネスパーソン=高価なボールペンを持つべき」
「プライバシー確保が難しい二世帯住宅=新婚夫婦は嫌がる」
こういう固定観念は、個人と向き合うとき捨てるべきだ。
私は以前、忘年会の幹事を任されたとき、大失敗した。「冬=鍋」という固定観念が強すぎて、勝手に鍋料理が美味しい店を予約してしまった。するとそのせいで、職場の女性たちが全員欠席したのだ。
「なんで女性社員たちの意向を聞かなかったんだ!」
当時の部長はカンカンに怒った。あとで女性陣に聞いてみると、私には想像もしない答えが返ってきた。忘年会を欠席した主な理由は次の2つだった。
「直箸で鍋をつつくのがイヤ」
「絶対に取り分け役をさせられる」
私は当時転職したばかりで、前の職場では、そのような考え方の女性陣はいなかったと思う。だから勝手に鍋の美味しい店なら、誰もが喜ぶと思い込んでいたのだ。
世間の常識のみならず、
「昔はこうだった」
「以前の職場ではそうだった」
「親からそう教えられた」
という発想も通らない。だから「反感買われない力」をアップするには、
「普通は●●だけど、そうとは限らない」
と自分に言い聞かせることだ。そしてシンプルなオープンクエスチョンをしよう。
「忘年会はどんな店がいいですか?」
と。自分の先入観や固定観念は、脇に置いておこう。