Yahoo!ニュース

敵地で琉球に完勝のシーホース三河。今季好調の要因とは?

青木崇Basketball Writer
琉球との西地区首位争いは最後まで続そうな三河 写真/B.LEAGUE

 B1西地区の首位争いを演じている2チームによる天皇杯3次ラウンド(準々決勝)は、シーホース三河が敵地で琉球ゴールデンキングスに85対60という予想外の大差で勝利を手にした。この試合においては、琉球の3Pショットを21本中2本成功に限定させるなど、ディフェンスの質が非常に高かったことが最大の勝因。三河の鈴木貴美一コーチが、「これだけの力の差はないと思いますので、我々のディフェンスがうまくいったのは紛れもない事実」と語ったのも納得できる。

 その象徴的なシーンは、第2クォーター残り37秒から岸本隆一がドウェイン・エバンスとのピック&ロールで攻めた際のディフェンス対応だ。シェーン・ウィティングトンがハードショーで左へ行く岸本にプレッシャーをかけることでパスを出すタイミングを遅らせ、エバンスに対しては金丸晃輔がローテーション。その間にウィティングトンは右コーナーまで走り、今村の3Pショットに対してハードにコンテストし、最後に金丸がリバウンドを奪っていた。

 19勝8敗でB1西地区首位の三河は、ここまで平均78.7失点、相手のFG成功率が46.4%、3Pショット成功数も8.85本。ディフェンスの数字はB1全体で真ん中レベルだが、琉球戦のような対応を一貫してできるようになると、東地区の上位チームにとって非常に厄介な存在になるはずだ。

今季から導入した新システムで破壊力を増したオフェンス

 三河は長年、桜木ジェイアールを軸にインサイドで主導権を握るスタイルで勝利を積み重ね、数々のタイトルを手にしてきた。しかし、昨季を最後に桜木が引退したことによって、鈴木コーチはオフェンスのシステムを少し変えることに着手。今季はアウトサイドでプレーできる選手を4人使うフォー・アウト、状況によってファイブ・アウトのラインナップで戦っている。

 その効果は、相手にとって脅威でしかない金丸が厳しいマークにあい、オフボールのスクリーンを使ってからのショットに持ち込めなくても、他の選手がオープンで打てる機会をクリエイトできている。3Pショットの成功数と高い成功率、アシストの多さは、オフェンスを変えた効果を象徴するものだ。

抜群のシュート力で相手に脅威を与え続ける金丸 写真/B.LEAGUE
抜群のシュート力で相手に脅威を与え続ける金丸 写真/B.LEAGUE

 3Pショットに関しては、川村卓也が52.9%、金丸が50.6%、ウィティングトンが45.6%とB1のトップ3を独占。チーム全体の成功率も唯一40%を超える40.4%を記録し、10月21日に行われた京都ハンナリーズ戦の16本を最高に、27試合中17試合で成功数が10本を超えている。昨季の平均3P試投数が20.7本だったのに対し、今季はB1で4番目に多い25本。これまでの三河とは違うと理解できるはずだ。

 3Pショットの成功数が多いことは、ボールが動いていることの証。平均22.1アシストはB1全体で2位にランクされており、25本以上だと8戦負けなし、30本を記録した試合がすでに3回を数える。ブリガムヤング大4年生時にトリプルダブルを6度達成したカイル・コリンズワースを筆頭に、熊谷航、長野誠史、柏木真介というタイプの異なるポイントガード陣によるゲームメイクができることに加え、元々スコアラーの川村もパスがうまい。

「金丸のところは完全にフェイスガードなので4対4で攻めろと指示して、それがうまく機能して、外国人のところがノーマークになったり、熊谷のドライブが効いたりと、いいオフェンスができました。金丸を抑えられても点が取れることを見せられたと思います」と鈴木コーチが振り返ったように、22アシストを記録した琉球戦は、5選手が3本以上を記録していた。

パワーとうまさを兼備しているビッグマンのガードナー 写真/B.LEAGUE
パワーとうまさを兼備しているビッグマンのガードナー 写真/B.LEAGUE

 もちろん、在籍2年目を迎えたガードナーが、ここぞという場面でインサイドの得点源として存在することも忘れてはならない。22点差を9点差まで詰め寄られた琉球戦の第3クォーター、ガードナーはポストアップから2度得点を奪って悪い流れを断ち切り、勝負の行方を決定づける原動力となっている。

 今季の三河はガードナーのポストアップから1対1で攻める回数を減らしながらも、ペイント内の平均得点が昨季とほぼ変わらない38.8点。3Pでもペイント内でも得点を奪うことができていることは、アシスト数の多さにもつながっている。

シェーファーの成長に大きく貢献しているウィティングトン

 NBAインディアナ・ペイサーズに2シーズン在籍した経歴を持つウィティングトンの加入は、三河にとって大きなプラス材料だ。211cmのビッグマンは機動力があり、ピック&ロールの際にゴール下へのダイブやスリップ、ポップアウトからのジャンプショットで得点できるのが強み。そのため、ガードナーと金丸への警戒度を上げすぎると、ウィティングトンが対戦相手に大きなダメージを与えるのだ。

「ここ数試合は3Pが入らなくて、厳しい状況が続いていた。晃輔がコンテストされる3Pを打たずにパスをしてくれたことで、いい形で最初のショットを打って決まったから気分がよくなったよ」と話すウィティングトンは、琉球戦では第1クォーター残り1分4秒に3Pショットを決めたことでリズムをつかみ、22分間で4本決めるなど21点の大活躍で勝利に大きく貢献した。 

シェーファーのシュート力向上はウィッティングトンの存在によるところが大きい 写真/B.LEAGUE
シェーファーのシュート力向上はウィッティングトンの存在によるところが大きい 写真/B.LEAGUE

 ウィティングトンの加入は、日本代表のシェーファー・アヴィ幸樹の成長が促進されるという意味でもプラス。シェーファーも今季から三河に在籍しているが、練習後には必ずウィティングトンと一緒にシューティングを行っている。その成果は、昨季まで1本も決めたことがない3Pショットを今季はすでに20本成功(試投数は48本で成功率41.7%)という数字でも明らか。ウィティングトンはシェーファーについてこう語る。

「お互いの成長を助け合ういい関係だ。アヴィはまだ若く、私が今まで学んできたことを伝えられたらと思っている。彼は若い時の自分を思い起こさせるし、素晴らしい選手だ。(3P)ショットを一貫して決められるようになれば、彼は相手に大きなダメージを与えられる選手になるし、残りのキャリアも素晴らしいものになるだろう。そうなってもらうためにいろいろ教えているし、彼と一緒にプレーするのはとても楽しい。彼が3Pを決めた時は、すごくエキサイティングな気分になるんだ」

 シェーファーは1月5日の川崎ブレイブサンダース戦で21点、3P4本成功がいずれも自己最多の数字を記録して勝利に貢献。鈴木コーチはシェーファーが3Pショットを打つことを奨励していることからすれば、ウィティングトンの言葉通りに成長する可能性が十分にある。

10度目の天皇杯優勝、B1初制覇に向けてのカギは?

 ガードナーと金丸以外でも得点できるパターンが構築されつつあることや、3Pショットを決められる選手を数多く揃えていることを考慮すれば、三河のオフェンスはB1のトップレベルと言っていいだろう。10度目の天皇杯優勝とB1初制覇を実現させるには、B1東地区の強豪を倒すことが絶対条件。そのカギは、質の高いディフェンスを継続できるかにかかっている。それは、ウィッティングトンの言葉でも明らかだ。

「彼らの戦いではハードにディフェンスし続けなければならない。それが最も重要だ。トップチームに勝つためには、ディフェンスがカギになる。相手が最高のディフェンスをしてきても、我々は最高のオフェンスで対抗できる。試合を決めるのは我々のディフェンスになると思う。ビッグゲームになればなるほど、ディフェンスがカギになるんだ」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事