「残念な人」の口癖「ぼかし表現」ランキング10
1位は「徹底する」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルティングをしています。クライアント企業が安定的に目標を達成するため、常に私は「再現性」を考えます。正しい手順で仮説を立て、それを定期的に検証し、目標達成するまで改善を繰り返す――王道的なマネジメントサイクルをまわすことが私の仕事です。
しかし、そのためには「ぼかし表現」をできる限り使わないようにすることが重要です。「ぼかし表現」とは、具体的にどうするのかがよくわからない、抽象的な表現のことです。心構えや意識の持ち方、精神論っぽい、ぼかした言葉のことです。普段の言葉で使うのならともかく、会議、ミーティング、意思決定の際に使っていると、正しいマネジメントサイクルをまわすことができません。いつまで経っても成果の出せない「残念な人」になっていくことでしょう。
今回は、ビジネスの現場でよく耳にする、「ぼかし表現」のランキングを紹介します。(ランキングはすべて著者の独断と偏見)
それでは1位から発表します。1位は「徹底する」です。上司が部下に言う場合は「徹底しろ」。部下が上司に言う場合は「徹底します」。もちろん、具体的なアクション計画を宣言するために言葉を添えるのであれば問題ありません。
「職場の5Sを徹底します。具体的なアクションとしては、毎朝、10分前には出勤し、5分間はデスク周りを清掃します。さらに退社前は必ずデスクの上には何も置かず、引き出しの中も整理し、隣に座っている人にチェックしてもらってから帰ります」
「徹底する」というのは「決められたことをキチンとやる」ということではありません。周囲から見て「そこまでやるのか」と思われるほどのことをして、はじめて「徹底的だ」と言えるのです。この意味を正しく理解せず、その場しのぎの言葉で使う人が非常に多い表現です。
2位は「積極的に」
「徹底する」と並んで、よく耳にするのが「積極的にやりたまえ」「積極的にやります」というぼかし表現。「積極的に」というぐらいですから、受け身ではいけません。能動的な姿勢で、アクティブに行動すべきです。しかし「積極的に」という表現だけでは、具体的にどこまで能動的になるべきかがわからないですし、そもそも「積極的にやります」と言いながら、指摘されるまで動かない、言われてはじめて気づく、という人も多いのが現状です。
3位は「意識する」
「徹底」「積極的」と同様、ビジネスの現場で非常によく耳にする言葉です。
「このままでは今期の目標は達成しない。新規開拓をもっと意識するように」
「かしこまりました。さらに意識します」
このように使います。単なる言葉遊びではないか、と突っ込みたくなるやり取りです。「心掛ける」「肝に銘じる」「留意する」も同じです。
4位は「主体的に」
「主体的に」とよく似たぼかし表現はさらに3つあります。「主体性をもって」「危機感をもって」「当事者意識をもって」です。
「これからはもっと主体的にいきます」
「もっと危機感をもってくれないと困る」
「当事者意識を持ちたまえ」
このように使います。私が「主体的に、とはどういうことですか?」「危機感を持って行動するとは、具体的に何をいつまでに何回実践するのですか?」と質問しても、ほとんどの人が答えられません。
「主体的に、というのは、とにかく、主体的にやる、ということです。もっと自主的に、当事者意識をもって、ことにあたる、ということです」
このように「ぼかし表現」の堂々巡りになってしまう人が大半です。
5位は「きっちり」
「きっちり」「しっかり」という表現は、さすがに使っている人も抽象的すぎると思うのか、普通はもっと上位の「徹底」「積極的」「主体的」という表現のほうが使われます。「正確に」「確実に」も同じ意味合いです。
「最近、ミスが多くて申し訳ありません。これからはもっと、きっちり、正確にやっていきます」
と言われても、結局これまでの行動プロセスの何を、どのように変えるのかがよくわかりません。
6位は「考える」
「考える」「工夫する」「頭を使う」という表現も「ぼかし表現」です。
「どのようにしたらもっと成果が出るのか、考えてほしい。工夫が足りないんだよ」
「わかりました。もっと考えてきます」
というやり取りで使われます。日ごろから何も考えていないからこそ、こういう言葉を使うのです。
7位は「効率化(系)」
「○○化」という表現を好んで使う人がたくさんいます。これもぼかし表現です。「効率化」「合理化」「最適化」といった感じの言葉です。
「最近、残業がとても多い。もっと効率化してくれないか」
「わかりました。もっと効率化します」
「○○化」という表現は、「キッチリ」「シッカリ」よりも、少しだけソフィスティケートされている感があるのでしょうが、何をどうするのか、まったくわかりません。
8位は「参考にする」
「参考」という言葉は、ぼかし表現というよりも、「評論家的表現」とでも言いましょうか。無意識に使っている人がとても多いですが、「無責任」で「なげやり」感のある言葉です。
「……ということで、私だったらこう対処する。参考にしてくれたまえ」
「わかりました。参考にします」
「きっちりやれ」「徹底しろ」「積極的にやります」という表現のほうが、まだ、過去と決別し、事態を変えようという意思を読み取ることができます。しかし「参考にして」「参考にします」という表現はどこか他人事で、責任放棄している感が多分にあります。にもかかわらず、そのような意味合いを考えず、多くの人が使っているのが現状です。
9位は「努力する」
「努力してくれ」「努力します」「頑張ってくれ」「頑張ります」という表現は9位。とても有名な表現ですが、残念ながら(?)、少しずつ聞かなくなってきました。「気合い」や「根性」という「ザ・精神論」的表現はランク外。たまにセミナー講師が「気合いと根性といった精神論だけでは、部下は育ちませんよ」などと言いますが、現場にいればわかります。今の時代、「気合い」とか「根性」とかをほとんどの人が使いません。
「努力する」「頑張る」も同じで、上司も部下もあまり使わないようです。それより「意識する」「徹底する」が多いですね。「努力する」「頑張る」のほうがベタな感じがするからでしょうか。
10位は「うまいことやる」
ヒネリも何もない、結果を出している状態をそのままストレートに「ぼかし表現」として使うパターンです。
「君の部下、今期はなかなか成果を出せていない。このままじゃあダメだ。うまいことやってくれないか」
「わかりました。うまいことやります」
何だかオメデタイやり取りです。
「ぼかし表現」を避けるため
「ぼかし表現」を避けるため、細かいディテール(細部)を作りこみましょう。英文法でみなさんよくご存じの「5W1H」は、「いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」です。私は「なぜ(Why)」を省くことが多いので「4W2H」をよく使います。「だれが(Who)、いつまでに(When)、どこへ(Where)、なにを(What)、どれぐらい(How Much)、どのように(How)」です。
「今期こそは積極的にいこう。新規開拓を徹底してやろう」
ではなく、
「会社がはじまって17年。今期で17期となる。最初の3年は10名弱でやってきたが、4期からは急激に人が増え、今では100名も超えた。営業所は4ヶ所に増え、東京営業所にいたっては60名を抱える大所帯となった。しかし問題も多い。前期、4つの営業所のうち、新規の開拓が目標に達したのは福岡営業所だけだ。そこでみんな知ってのとおり、今期は福岡を除く3営業所に2人の新規専門の営業を配属した。今期中に最低でも50社の開拓をしてもらう。想定外のことがあると思うが、何とか達成しよう。毎月15日の経営会議で各所長から進捗を報告してもらう」
時間、人、場所、物、数量、手法……それぞれの軸で、細かく掘り下げて話すのです。特に重要な意思決定のときには「ぼかし表現」をなるべく使わないよう、「徹底してもらいたい」ですね。