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ガザでの戦闘:休戦の結果がどうなろうと悲観的な将来像

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 2023年11月24日から、ガザ地区での「戦闘の一時休止」と「人質(捕虜)交換」が始まった。レバノン、シリア、イラク方面でも、今のところ戦闘は沈静化している。しかし、エルサレムやヨルダン川西岸地区ではこのような状況とは無関係にイスラエル軍の作戦行動や入植者による攻撃が続いており、連日各所でパレスチナ人の人的・物的被害が出ることに何の変りもない。こうした中、「ガザ地区の将来」について様々な可能性が論じられており、25日付の『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノン紙)はこれまでの動向、研究機関や各種報道機関の見通しなどを基に、いくつかの可能性を要旨以下の通り論じる解説記事を掲載した

可能性1

ハマースによる激しい抵抗にも拘らず、ガザへのイスラエルの侵攻は続き、ハマースの軍事力が破壊される場合。特に、ハマースの補給が絶たれ、陸上の戦闘に必要な物資を消耗した場合。現時点で、ハマースがテルアビブやアシュケローンなどのイスラエルの諸都市・入植地を攻撃する能力は著しく低下している。この傾向が続けば、イスラエルには2005年以前のようにガザ地区を占領して直接制圧するか、ヨルダン川西岸地区と同様の治安連携に基づきパレスチナ自治政府(PA)を用いてガザ地区を制圧するかの2つの選択肢がある。もっとも、イスラエルは、PAにはそのような能力がないと考えているので後者の選択肢は同国にとって望ましくない。エジプト、ヨルダン、カタル、サウジ、UAEのような地域的支援でPAを強化し、ガザ地区の管理をPAに委ねるとしても、2007年にハマースがガザ地区を制圧する前に同地区にいたPAの職員と、今般の戦闘に加わっていないハマース当局の職員を統合して実務にあたる必要がある。

可能性2

イスラエルが戦闘に決着をつけてガザ地区を制圧しても、ハマースを軍事的に根絶できない場合。ガザ地区には、抵抗運動の土壌と多くの武器があり、イスラエルは入植地の安全を「大規模な攻撃が発生しない」程度に守るためにガザ地区を制圧することになる。イスラエルのネタニヤフ首相は、ガザ地区の民政に関わるつもりがない一方、同地区の治安を制圧し続ける旨表明している。これについて、アメリカはイスラエルが一定程度ガザ地区の治安を管理するのがありうるとの立場だが、まだ態度を決めたわけではない。アメリカのバイデン大統領は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区とがイスラエルとの連携の下で再活性化したPAの下で統一される必要があると表明している。ハマースを解体できずにイスラエルがガザ地区を再占領した場合、イスラエルとハマースとが合意のない状態で「共生」することになるだろう。破壊され、住民が帰ることができないガザ地区の実態が、この状況を固定化する。

可能性3

ガザ地区からの住民の追放。ガザ地区、特に同地区北部の住民は、家に帰ることができないどころかエジプトのシナイ半島へと移住させられる。

可能性4

イスラエルによる長期間の占領と、ガザ地区への入植者の復帰。これは、イスラエルの右派の政治家の一部が主張していることだ。これが実現した場合、イスラエル軍や入植者が攻撃にさらされ、イスラエルがガザ地区に対して負う責任や費用はかえって増加する。

可能性5

国連安全保障理事会での決議の下、国連憲章第7章に基づく国際部隊を展開する。この可能性には、安保理で拒否権が行使されることや平和維持部隊派遣についての国際的な意欲が乏しいという障害がある。例え国際部隊が展開したとしても、イスラエルはガザ地区の治安を管理する決意だし、安保理決議がパレスチナ問題の政治的解決と結びつけられる可能性もある。問題の政治的解決は、現時点では見通すことができない。

 ここまでに挙がったいくつかの可能性・選択肢の中には、PAの役割に言及するものがある。しかし、PAには本当にそうする資格や実力があるだろうか?これについても、『ナハール』紙の記事はアメリカやパレスチナの報道を引用する形で、PAはヨルダン川西岸地区ですら治安を管理するだけの人民の支持を得ていないと指摘している。なぜなら、PAは長期にわたりイスラエルに効果的な抵抗をすることができていない上、ガザ地区の住民たちは2007年にPAとその与党であるファタハを、これらの政策を拒んで武力衝突の末追放したからだ。また、現時点でもPAはヨルダン川西岸地区の経営も住民の保護もできておらず、ガザ地区ではイスラエルの入植者が増加して地元民を脅かしている。結果が未発表のパレスチナでの世論調査によると、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の3分の2がPAを「重荷である」とみなしており、同じく85%がPAのアッバース議長の辞任を望んでいる。与党ファタハの支持層でも、6割以上が同議長の辞任を望んでいるそうだ。

 こうした中、今後もっともありそうな展開は、可能な限りハマースの軍事力を弱体化させて同派がイスラエルと軍事的に対決する能力を奪うため、イスラエルが戦争を継続するというものだ。戦争の継続と同時に、イスラエルはガザ地区の破壊と住民の強制移住のための努力を続ける。イスラエルは、ガザ地区の住民を域外に追放するため、エジプトに対する国際的な圧力をかける試みも続けるだろう。ガザ地区の住民がいなくなれば、ハマースは弱体化する。

 結局のところ、現在の「戦闘の一時休止」や「人質(捕虜)の交換」がどうなろうと、ガザ地区はもちろん、ヨルダン川西岸地区や世界各地のパレスチナ人にとっての将来に明るい材料はなさそうだ。どのような人々が何人解放・釈放されたとか、援助物資がどのくらい搬入されたとかは、当事者にとってはとても重要なことだ。しかし、当事者のいずれかの一方的な「勝利」や、問題のごく狭い範囲に対する一時的な対処では、地域全体に及ぶ軍事衝突や今般の戦闘のような事態を防止することはできないだろう。本来、ヨルダン川西岸地区はもちろん、レバノン、シリア、イラク、イラン、イエメンをも視野に入れた枠組みの構築が必要なのだが、それを視野に入れた将来像は議論もされていないというのが実態だ。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会など。

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