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元赤ヘル右腕のノーヒッター、藤井皓哉(高知ファイティングドッグス)、岡山・笠岡で「凱旋登板」

阿佐智ベースボールジャーナリスト
故郷・笠岡の試合で好投し勝利投手となった藤井(高知ファイティングドッグス)

 昨日15日、岡山県笠岡市のかさおか古代の丘スポーツ運動公園で四国アイランドリーグplus公式戦・高知ファイティングドッグス対愛媛マンダリンパイレーツの前期7回戦が行われた。

四国アイランドリーグplus公式戦が初めて行われたかさおか古代の丘スポーツ運動公園・どんぐり球場
四国アイランドリーグplus公式戦が初めて行われたかさおか古代の丘スポーツ運動公園・どんぐり球場

 アイランドリーグの4球団が過去に主催ゲームを四国以外で実施した例は、高知ファイティングドッグスが2006年に1試合、香川オリーブガイナーズが2011年から14年にかけて4試合を岡山県営野球場で行ったのと、徳島インディゴソックスが2014年に神戸総合運動公園サブ球場と滋賀県・皇子山球場で各1試合を行ったことがあるだけである。今回の岡山県開催は、リーグとしては7年ぶり、高知球団としては15年ぶりの「域外開催」ということになる。

 岡山県にはかつてアイランドリーグの拡張構想があり、球団設立の準備室も立ち上げられていたのだが、その後その計画も沙汰止みとなってしまった。香川球団の岡山開催はこの構想を受けてのものだったが、今回の高知球団の笠岡開催は、当地出身の投手、藤井皓哉の「凱旋試合」として催されたものである。

地元の英雄、藤井皓哉のNPB復帰を願う「凱旋試合」として実施された。
地元の英雄、藤井皓哉のNPB復帰を願う「凱旋試合」として実施された。

笠岡の「英雄」藤井皓哉、故郷に帰る

 藤井は、小学3年の時に市内のスポーツ少年団でソフトボールをはじめ、中学で軟式野球部に入部。ここで頭角をあらわし、地元の強豪、おかやま山陽高校では甲子園出場はならなかったものの、エースとして活躍した。そして2014年秋のドラフトで広島から4位指名を受け、プロの世界に足を踏み入れた。

 しかし、黄金時代に突入していこうとするチームにあって、高卒選手の入る隙はなかなかなかった。一軍初マウンドはようやく3年目になってから。結局在籍6年のうち実働(一軍でのプレー)は3年、14試合で1勝1ホールドのみ。昨年に一軍登板ゼロに終わると、自由契約が言い渡された。

 24歳の藤井は、リベンジを期して高知ファイティングドッグス入りを決意。球団も故郷に錦を飾らせるべく、彼の故郷である笠岡での試合を企画したのである。

試合前セレモニーでは盛大な拍手をもって迎えられていた。
試合前セレモニーでは盛大な拍手をもって迎えられていた。

雨の心配とコロナ禍の中、なんとか開催

 藤井は先週の前回登板のソフトバンク三軍戦(タマスタ筑後)でノーヒットノーランの快挙を成し遂げている。その翌週の先発登板とあって、まさに「故郷に錦」を飾る舞台は整ったはずだった。しかし、全国を席巻するコロナ禍にあって、岡山県も感染者が急増、緊急事態宣言が16日から発令されることが決まった。そして、例年より早くやってきた梅雨空が朝から笠岡周辺を覆い、試合前にはいつ雨が降ってもおかしくない状況だった。そのような中、コールされたプレーボールには、セレモニーに参加した小林嘉文・笠岡市長も胸をなでおろしていた。スタンドには、母校・おかやま山陽高校野球部関係者をはじめ、「おらが町」の英雄を一目見ようと500人近い観客が陣取っていた。

無事試合が開催されることに安堵の表情を浮かべながらセレモニーのスピーチを行った小林笠岡市長
無事試合が開催されることに安堵の表情を浮かべながらセレモニーのスピーチを行った小林笠岡市長

格の違いを見せつけ圧巻のピッチング

「調子は良くなかった」。と試合後振り返っていた藤井だったが、初回は三者凡退の無難な立ち上がり。2回の2人目の打者、元ソフトバンクの5番大本将吾にセンター前に運ばれ、スタンドのファンが期待した2試合連続の快挙の夢は早々に潰えたが、次の打者を三振ゲッツー(大本が盗塁死)で切り抜けるなど、序盤は終始ストライク先行のピッチングでゼロを並べた。

ストライク先行のピッチングで試合をつくった藤井
ストライク先行のピッチングで試合をつくった藤井

 しかし、打線の方は、初回ノーアウト満塁のチャンスをつくりながら、ゲッツーの間に1点を先制したのみ。藤井と対照的にボール先行の危なっかしいピッチングの愛媛先発・澤田陸をなかなか攻略できず、2点目を追加したのは、先頭打者の内野安打のあと、四球と犠打でなんとか三塁まで進めたランナーを犠牲フライで返した6回になってのことだった。

ボール球が多かったものの、力のある速球でなかなか高知打線に得点を許さなかった愛媛先発・澤田
ボール球が多かったものの、力のある速球でなかなか高知打線に得点を許さなかった愛媛先発・澤田

 それでも、藤井はツーアウトから満塁とした6回以外は危なげないピッチングで8回を5安打3四球の無失点で切り抜け、最終回のマウンドはクローザーの平間凛太郎に託した。平間は9回を1四球のみで切り抜け、高知は藤井の凱旋登板に花を添えた。

 試合後、ヒーローインタビューのお立ち台に立った藤井は、調子の良くない中でも、とにかく打たせて取るピッチングを心掛けたと登板を振り返った。関係者の話によると、この日の試合会場、かさおか古代の丘スポーツ運動公園・どんぐり球場では中学時代以来の登板で、打たれた悔しい思いでしかなかったそうだ。毎年オフには必ず笠岡に帰ってくるが、戦力外通告を受けた昨年オフの帰郷はことさらに悔しいものだったという。本人としては、独立リーガーとしてのこの日の登板は、決して「凱旋」というようなものではなかったに違いない。その思いは、スタンドに足を運んだ、関係者、ファンも同じだろう。試合終了と同時に振り出した雨の中、家路につき始めたファンの背中に藤井は力強い声を投げかけた。

昨日の試合の最優秀選手にも輝いた。
昨日の試合の最優秀選手にも輝いた。

「今日は、(コロナ禍などで)大変な中、本当にありがとうございました。一日でも早くNPBに戻れるように頑張ります」。

 この日のスタンドには、NPB球団のスカウトも陣取っていた。そのスカウトによると、NPB復帰の可能性は十分にあるという。

(文中の写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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