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#不登校 は #親の責任 東近江市長発言は国・県・当事者の努力を台無しにする意図が? #検証論点整理

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
東近江市・市長プロフィールホームページより

「不登校の大半は親の責任」、「フリースクールは国家の根幹を崩しかねない」といった発言で、不登校当事者やフリースクール関係者にショックを与えている市長がいます。

滋賀県・東近江市の小椋 正清(おぐら まさきよ)市長です。

発言を撤回してほしい、当事者の話を聞いてほしい、滋賀県でフリースクール運営をしている若者たちがオンライン署名を展開しています。

東近江市の小椋市長の発言は、国や滋賀県が積み重ねてきた取り組みを否定し、不登校当事者・フリースクールが滋賀県や東近江市とも丁寧な信頼関係を作り上げようとしてきた努力を台無しにしようとする、意図が込められた発言ではないか。

教育政策分析の実証アプローチも専門とする研究者である私が、小椋市長発言を分析し、今後の報道等で求められる検証の論点整理をしていきます。

1.滋賀県下の首長が不登校対策について論じる公式会議での発言

小椋市長が「フリースクールがこの国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」と発言したのは10月17日の第29回滋賀県首長会議でのことです。

三日月滋賀県知事のほか県下の市町村長(首長)が参加する会議であり、報道陣も多く参加する場でした。

滋賀県側は「滋賀の不登校対策の基本理念」および「しがの学びの保障プラン」骨子(案)について、を議題としており、その内容に「多様な学びの機会、居場所の確保(フリースクールとの連携)」が含まれていました。

その場で「フリースクールがこの国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」と小椋市長が発言したことは、不登校の子どもたちのために学校以外の居場所・フリースクールも重視する、県の政策を否定する意図があったのではないか、私自身はそのように分析しています。

ジャーナリスト・研究者らによる今後の取材や検証が必要な論点の第一が、報道陣も一同に会する県の不登校対策の会議で、敢えてフリースクールに対し否定的な発言を行った小椋市長の意図ではないでしょうか。

また滋賀県の前・湖南市長である谷畑英吾氏がSNSで「会議の場で知事や県職員、他の市町長などの出席者が小椋市長の発言に対して厳重に注意したり指摘したりしたかどうかについて」報道が検証しないのかとも述べておられます。

私も小椋市長の発言に対し、三日月知事や他の市町村長は、たしなめたり、フリースクールとの連携の必要性に言及する発言等があったかどうかも、今後の検証課題だと考えています。

2.先月9月には不登校親の会からの署名を受け取ったばかりだった

小椋市長発言に、不登校当事者が強いショックを受けているのは、先月9月に不登校親の会のみなさんが、市長に要望書を手渡したばかりだったからです。

朝日新聞の報道によれば、9月14日に「東近江市フリースクール親の会」は、市長と市教委に「フリースクール等を利用する保護者への公的支援」を求める署名8311筆を提出していたとあります。

フリースクールめぐる発言、東近江市長は撤回せず 困惑する保護者ら(朝日新聞・10月18日報道・有料記事)

1か月前に署名を受け取ったにもかかわらず、小椋市長は滋賀県の首長会議で、以下のような発言をされています。

先般、東近江市で22校と9校の小中があるが、その中でトータル300人ぐらい(フリースクールの)該当者がいるということで、膨大な署名を頂いた。さっそく様々な調査をしているが、その中で、生徒支援室が精査したら、とんでもない話で、17人しかいない。

いったいどのような基準で、東近江市が「精査」したのか、また1か月前に会ったばかりの不登校の現場にいる人々の訴えを「とんでもない話」と退けた根拠や理由はどこにあるのか。

この発言にこそ、不登校当事者は深く傷ついており、今後の検証がもっとも必要な論点となります。

3.国は今年3月にCOCOLOプランで「誰一人取り残されない学びの保障」を強調したばかり

私が個人的にもっとも悲しい思いをしたのは以下の小椋市長発言です。

「子どもが学びたいと思ったときに学べる環境を整えます、なんで子どものわがままを認めるような書きぶりをするのか。」

私自身も、子どもの不登校の経験があります。

学校に通いたくても通えなくなってしまった子どもたち、子どもたちと共に悩み苦しんできた親たちの気持ちも、突き放すような冷たい発言だと受け止めざるをえません。

わが国の国会では、不登校児童生徒に対しても、学ぶ権利と機会を保障していくために、2017年に教育機会確保法を成立させました。

昨年度の不登校児童生徒数は29.9万人、コロナ禍の中で激増してきました。

こども家庭庁と文部科学省は、こうした実態を受け、不登校当事者にも寄り添い、「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」を今年の3月に取りまとめ、全国の自治体に、不登校対策の速やかな推進を求める通知を発出しました。

その中核となる方針が、小椋市長が「子どものわがまま」だと批判した「不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整える」ことなのです。

教育政策の所管官庁である文部科学省が長年向き合ってきた不登校問題。

もはや公立学校だけで対応することはできず、地域のあたたかいフリースクールや、居場所とともに、児童生徒に学びを保障していくべきだ。

こども家庭庁との連携で実現した、COCOLOプランには、国のこうした思いも込められているのです。

しかし、小椋市長の発言は、国の方針も否定する趣旨を含んでいるとも判断されます。

また、私が多くの著者とともに、最新刊『子ども若者の権利とこども基本法』で論破した「子どもの権利=わがまま論」という、迷信とでもいうべき思い込みにとらわれているのではとも心配になる発言でもあります。

公職にある小椋市長は、子どもの権利、国の教育機会確保法やCOCOLOプランを否定する政治思想を有しているのか、やはり今後の検証課題となります。

4.親批判、フリースクール批判だけでなく、子ども食堂まで批判する小椋市長

小椋市長は、報道陣の取材に答えて、子ども食堂まで批判しています。

「フリースクールというのは、子ども食堂に通じるもので、親の安易性が露骨に出ている。親の責任なんだよ、ほとんど。私から言わせたら。」

内閣府・こども家庭庁・文部科学省で、審議会委員として子どもの貧困対策、子どもへの学びの保障にたずさわってきた私からは、根拠のない親批判としか思えない信じがたい発言です。

安易に子どもたちがフリースクールや子ども食堂に行くわけではありません。

むしろとても大変な中で、偶然の出会いや、藁(わら)にもすがる思いの必死の親子の相談、地域の人々からの相談によってつながるのが、フリースクールやこども食堂なのです。

それを「親の安易性が露骨に出ている」と小椋市長が批判することは、フリースクールや子ども食堂を利用する子どもや親の実態を知らず、人権侵害にも相当する、不適切発言とも受け止められます。

市長自らが「私たち東近江市民は、女性、子ども、高齢者、障がい者、同和問題、在住外国人等にかかわるあらゆる差別をなくす」と掲げた「東近江市人権尊重のまちづくり条例」にも違反している懸念もあります。

今後の報道や検証では、小椋市長の親を追い詰める意図、フリースクールや子ども食堂への蔑視などの意図の有無が論点となるでしょう。

おわりに:当事者・支援者の願いは、不登校の子どもにもやさしくあたたかい東近江市・滋賀県

私は、埼玉県児童虐待禁止条例騒動に引き続き、今回も署名を立ち上げられたフリースクール関係者のご相談を受けサポートしてきました。

小椋市長発言により、不登校当事者も、支援に携わるフリースクール関係者も、悲しい思いをしておられます。

当事者・支援者の願いは、不登校の子どもにもやさしくあたたかい東近江市・滋賀県、それだけなのです。

私は、東近江市の小椋市長が、一刻も早く発言を撤回し、当事者・支援者に謝罪すべきだと考えています。

しかし、本当のゴールは、そもそも不登校にならなくて済む安心できる学校の実現、もし様々な理由で不登校になってもフリースクールや誰かとつながれ、あたたかいつながりや学びがすべての子どもに保障される東近江市・滋賀県に進化していくことではないでしょうか。

※本記事での小椋市長発言は以下の情報にもとづいています。

フリースクールめぐる発言、東近江市長は撤回せず 困惑する保護者ら(朝日新聞・10月18日報道・有料

東近江市長の子どもの権利無視のトンデモ発言 その1(滋賀県の社会福祉士・重忠孝氏note

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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