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今週は春一番の可能性も、春は「三歩進んで二歩さがる」

饒村曜気象予報士
強風で花粉を飛ばす杉の林のかわいいイラスト(提供:イメージマート)

大きな移動性高気圧

 令和6年2月13日は本州の南岸を大きな高気圧が通過する見込みです(図1)。

図1 予想天気図(左は2月13日9時、右は14日9時の予想)
図1 予想天気図(左は2月13日9時、右は14日9時の予想)

 このため、移動性高気圧の北に位置する北日本の日本海側では雲が広がりやすく、所によりにわか雨やにわか雪の見込みです。

 また、移動性高気圧の南に位置する南西諸島では、晴れたり曇ったりとなり、夜には所によりにわか雨がある見込みですが、その他の地域は概ね晴れる見込みです。

 最高気温は、全国的に平年より高くなり、仙台で4月中旬、札幌、東京、福岡で4月上旬並みの気温となるなど、大幅に高くなる所もある見込みです。

 そして、2月14日には日本海で前線が顕在化し、この前線上で低気圧が発達する見込みです。

 この低気圧が日本海で急速に発達すると、低気圧に向かって暖かい湿った南風が吹き、太平洋側では暖かい湿った南風と強い雨に、日本海側では気温が上昇して雪崩や融雪洪水がおきます。

 春になって最初に吹く強い南風を「春一番」といいますが、今回の低気圧が「春一番」になるかもしれません。

 春一番のような、風が強く、急に暖かくなる日は、花粉の飛散量が一気に増えてきますので、花粉症の人は早めの対策が必要です。

「春一番」の語源

 「春一番」の語源については諸説ありますが、「長崎県壱岐郡郷ノ浦町(現・壱岐市)で安政6年(1859年)2月13日に五島近海での海難で53名が死亡したときに言われた」というのが定説になっています。

 気象関係者の間で使われ出したのは、昭和31年(1956)2月7日の日本気象協会の天気図日記からと言われています。

 そして、マスコミに取り上げられたのは、昭和37年(1962年)の「春一番」からです。

 昭和37年2月11日の朝日新聞夕刊では「…地方の漁師達は春一番という…」、同日の毎日新聞夕刊では「…俗に春一番と呼び…」と、各紙で取り上げられていますので、このとき、気象庁天気相談所が新聞記者に説明をしていたのかもしれません。

 しかし、「春一番」を一躍有名にしたのは、昭和51年(1976年)のヒット曲からです。

 昭和51年3月にリリースされたアイドルグループ・キャンディーズの9枚目のシングル「春一番」は大ヒットしています。

 「雪がとけて川になって流れ、風が吹いて暖かさを運んできた」という歌のイメージは、当初の海難を引き起こす危険なイメージの「春一番」とは別の側面ですが、「春一番」という言葉を浸透させました。

 そして、気象庁には「春一番」の問い合わせが殺到するようになり、気象庁は春一番の定義を決め、昭和26年(1951年)まで遡って春一番が吹いた日を特定し、平年値を作り、「春一番の情報」を発表せざるをえなくなっています。

 というより、春一番という言葉が浸透したことを利用し、防災情報の充実をはかっています。

 ヒット曲が気象庁の業務を変えたのです。

「春一番」の定義

 春一番の基準は地方により異なりますが、立春(今年は2月4日)から春分(今年は3月20日)までの間に日本海で低気圧が発達し、南寄りの風が強く吹いて気温が上昇することは目安です(表)。

表 「春一番」を発表する目安となる定義
表 「春一番」を発表する目安となる定義

 なお、北日本と沖縄は春一番が吹きませんので、発表基準はありません。

 関東地方の春一番は、数年前までは、東京都心(千代田区)の風の観測値だけで決めていましたので、羽田空港などで強い南風が吹いても、千代田区では強い南風が吹いていないことから春一番は発表しないということもありました。

 現在は、関東地方の風の観測値で決めています。(変更時期は不詳)

「春一番」の後は寒気南下

 令和5年(2023年)12月22日(冬至)の頃に西日本を中心に南下してきた寒波(冬至寒波)では、福岡では最高気温が12月21日に3.7度、22日に4.3度と、平年の最低気温をも下回る厳しい寒さでした。

 12月22日に全国で最高気温が0度を下回った真冬日を観測したのは264地点(気温を観測している全国914地点の約29パーセント)、最低気温が0度を下回った冬日は774地点(約85パーセント)もありました(図2)。

図2 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(2023年12月1日~2024年2月15日、2月13日以降は予報)
図2 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(2023年12月1日~2024年2月15日、2月13日以降は予報)

 1月中旬や、1月下旬にも寒波が南下してきましたが、冬至寒波に比べると、冬日や真冬日のピークが小さく、冬至寒波が今冬一番の寒波ということができるでしょう。

 2月に入ると、真冬日の観測地点数が200地点を超える日があり、北日本は厳しい寒さが続いていますが、冬日を観測する地点は600地点を切っており、東日本から西日本の寒さが少し和らいできたことを示しています。

 また、沖縄地方を中心に、最高気温が25度以上の夏日が観測されるようになってきました。

 そして、2月13日は冬日を観測するのが544地点(約60パーセント)ありますが、14日は150地点(約16パーセント)、15日が148地点(約16パーセント)と、暖かくなってきたために冬日が激減する予想です。

 しかし、今週に春一番が吹いて、気温が上昇しても、そのまま春に向かうのではありません。

東京の16日先までの天気予報

 今冬の東京都心の最高気温と最低気温の推移をみると、12月の中旬までは、平年よりかなり高い気温を観測する日が多く、12月15日に最高気温20.2度、翌16日に最高気温21.1度を観測し、12月としては異例の連続20度超えでした(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温の推移(2月13日以降はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温の推移(2月13日以降はウェザーマップの予報)

 しかし、冬至(12月22日)頃に南下してきた冬至寒波以降、極端な高温の日はなくなっています。 

 とはいえ、平年より高い日が多く、下がって平年並みでした。

 2月5日~6日に南岸低気圧が通過したとき、関東地方には北東の風に乗って強い寒気が入って気温が下がり、関東としては大雪となりましたが、その後は気温が上がり始めました。

 今週の半ばには4月並みの陽気となり、春一番が吹けば、さらに気温が上昇しそうですが、その後、週末にかけて寒気が入り、気温が下がる見込みです。

 春は、水前寺清子の昭和43年(1968)のヒット曲「三百六十五歩のマーチ(作詞:星野哲郎、作曲:米山正夫)」の歌詞のように、「三歩進んで二歩さがる」です。

 東京の16日先までの天気予報をみると、来週前半は黒雲マーク(雨が降りやすい曇り)や傘マーク(雨)が並びます(図4)。

図4 東京の16日先までの天気予報
図4 東京の16日先までの天気予報

 低気圧の通過で雨が降りますが、2月20日の最高気温は20度の予想です。

 しかし、来週半ばには強い寒気が南下し、21日は傘に雪だるまのマーク(雨か雪)、22日は雪だるまに傘のマーク(雪か雨)です。

 東京で再び雪が降るかもしれません。

 22日の最高気温は9度と、再び平年を下回る寒い日になりそうで、「二歩進んで三歩さがる」になりそうで、春は少し足踏みです。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2、図3の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4の出典:ウェザーマップ提供。

表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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