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人との関係性や性教育について学ぶ機会が乏しい日本、知っておいてほしいこと

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

「人との関係性」は人生を通じて最も大切な要素の一つ

人は、生まれてしばらくは家族関係の中だけで育ちます。

次第に外の世界にも出る機会が増え、幼稚園や保育園などでは他人と接する時間が増えていきます。

小学校に入れば、そこには同級生、クラスメイト、友人、先生など様々な立場の他人と触れ合うことになり、「人との関係性」を自ら考えていくことになります。

特に、小学校高学年になれば、思春期も重なり「恋愛感情」や「性の意識」も芽生え始め、人との関係により一層、敏感になる子どもも増えてきます。

「健全な関係性」について学ぶ場と機会が乏しい

それでは、10代の若者はどこで、誰に「人との関係性」を教えてもらうのでしょうか

保護者や学校の先生が「普段から接する大人」の代表となりますが、性的な関係性も含めて十分に話す時間を持てているとは限りません(むしろそういった話題は普段の会話に出てきにくいのではないでしょうか)。

かといって、実際のクラスメイト、友人、恋人などとの関係性から身をもって学ぶというのも、ときに危険性を伴います。

実際の対人関係から学べることはとても多く大切なものですが、深く心身を傷つけられたり、相手を傷つけてしまったり、トラウマが残ってしまったりするようであれば、それは人生に深く影を落としますので、できる限り避けたいものです。

このように、健全な関係性とはなにか、不健全な関係性とはどのようなものか、そしてセックスについてどのように考えれば良いのか、などをきちんと学ぶ場と機会がほとんどないことは、多くの若者にとって望ましい状況ではないでしょう。

同時に、このような場や機会をしっかりと提供するのは本来大人たちの役目であり、真正面から真剣に考えるべきテーマだと私は思っています。

「健全な関係性」とは?

それでは、「人との健全な関係性」とはどのようなものでしょうか。

米国産科婦人科学会(ACOG)の「Healthy Relationships」という、10代の若者に向けたメッセージを参考にすると、以下のように整理できます。

【健全な関係性に必要な5つの要素】

・尊敬しあえる

・良いコミュニケーションを保つ

・誠実である

・相互に自立している

・平等な関係である

健全な関係性の中では、身体的に安心でき、自分らしさを保つことができます。

他の友人や自分の趣味に費やす時間を同時に持つことができ、相手と一緒にいる時間も離れている時間も楽しめる。

そして、自分自身と相手がともに、その関係性を楽しんでいる。

つまり、「心身の安全と自由、楽しさ、幸福感を互いに感じられる」ということが大切なことがわかります。

「不健全な関係性」とは?

一方で、「人との不健全な関係性」とはどのようなものでしょうか。

同様にACOGのメッセージを参考に考えてみましょう。

不健全な関係性とは、「自分が尊重されていない」と感じるものと言えるでしょう。

同時に、相手が自分に対して誠実でないと感じるかもしれません。

不健全な関係性には以下のようなものが含まれます。

【不健全な関係性と思われる5つの要素】

・すべての決定を下したり、あなたを他の人から遠ざけたりするなどの支配的態度

・押したり掴んだり叩いたりするなどの身体的暴力

・意地悪をしたり、嫌な気分にさせるような精神的暴力

・あなたは私がいないと生きていけない、など依存性を示唆する発言

・セックスを含め、したくないことを強要する

他にも、あなたの居場所を常に知りたがり、メールや電話などで異常に拘束しようとすること。また、あなたの見た目を批判したり、どのような服装や振る舞いをすべきか指示すること。SNSを利用して、事実と異なる情報や、あなたを不快にさせるような情報を広めること。

こういった行為をしてくる相手とは、健全な関係性を築くことは難しいでしょう。

話し合い、改善してもらえるならば良いですが、そうでなければ自分の心身の安全を保つため、距離を置いたり関係を終えることも考えてみよう、と若い人に伝えることも必要だと考えられます。

また、ACOGは「境界線を意識する(Setting boundaries)」ことが大事だとしています。

【他者との境界線(Setting boundaries)】

・他者との境界線(完全にプライベートな範囲)を自分の中で決めることが大切

・健全な関係では、相手はあなたに嫌な思いをさせず、あなたの境界を尊重する

・相手もあなたが尊重すべき境界を持っていることを忘れない

「セックス」についてどう考えるべきか

セックスは、お互いに安全で幸せだと感じられるのであれば大きな幸福感や充足感につながるもので、人生において大切なテーマの一つです。

社会的、宗教的、文化的背景が異なれば、セックスに対する考えも異なってくるため、一概にどのようなものが良いかは決められません。

それでも、「お互いに安全で幸せだと感じられる」ことは最重要項目だと考えられています。

【健全な関係でのセックス】

・お互いにセックスすることに同意している

・双方がセックスを安全で快適だと感じられる

・人間関係には様々なタイプがあり、セックスをしなくても健全な関係を築くことはできる

・セックスはまだしないと決めることもあなたの自由な選択である

・セックスの方法も様々であり一緒に話し合える

セックスをする場合には、避妊と性感染症の予防が大切です。

コンドームは、性感染症の予防に最も効果的ですが、避妊法としての有効性は決して高くありません。

避妊と性感染症の予防を同時に実現するには、コンドームと、子宮内避妊具(IUD)や経口避妊薬などの併用がベストです。

健全な関係性では、あなたとパートナーがこれらのことについてきちんと話し合い、準備できるということを、若者にはしっかり伝えておくべきだと思います。

*性感染症には、クラミジア、淋菌、性器ヘルペス、HPV(ヒトパピローマウイルス)などがあります。将来の不妊や子宮頸がんに繋がる可能性もあり、予防が大切です。HPVには予防効果が高く安全なワクチンが接種でき、小6〜高1の女子は無料で接種可能です(詳しくはみんパピ!ウェブサイトをご覧ください)。

*日本では性交同意年齢が13歳以上と定められているため、本来であれば13歳になるまでに上記について伝えておくべきだと考えられます。しかし、13歳というのは先進諸国のなかでもかなり低い方で、この同意年齢は明治時代に制定されてから110年以上改正されていません。

「人との健全な関係性」は包括的性教育の一環でもある

「包括的性教育」は、国際的に広く認知・推進されている、「性に関する知識やスキルだけでなく、人権やジェンダー観、多様性、幸福を学ぶ」ための重要な概念です。英語ではcomprehensive sexuality education (CSE) などと表現されます。

国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が中心となって作成された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(International technical guidance on sexuality education)」にも、「人間関係」が重要な項目の一つに掲げられています。

▼包括的性教育については、詳しくはこちらの過去の記事もご覧ください。

性に関する知識やスキルだけではない「包括的性教育」とは? 今の日本に必要な理由

10代の若者と接する時間が多いのは、やはり家族や学校の先生だと思います。

なかなか腰を据えてこのような話をする時間を作ることは難しいかもしれませんが、人との関係性は学生生活の中にもたくさん存在し、それに悩み、辛いと感じている若者も少なくないでしょう。

もちろん大学や社会に出た後も、常に対人関係は存在し、「人の悩みのほとんどは対人関係に基づくものである」とも言われています。

私たち大人が、まずはしっかりとこのテーマに向き合い、考え、若者たちに伝えるタイミングを逸しないことが重要ではないでしょうか。

家庭内でも、日頃の生活の中で自然と少しずつ子どもに考えてもらえるよう、工夫していけたら良いかもしれませんね。

参考文献

ACOG. FAQ. Healthy Relationships.

United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization (UNESCO). International technical guidance on sexuality education.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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