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「ポルシェ」伊東純也を輝かせた、名脇役の話

清水英斗サッカーライター
モンゴル戦で右サイドを躍動した伊東純也(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

カタールワールドカップ・アジア2次予選、日本はモンゴルに6-0で勝利し、2連勝を飾った。

「(日本と)モンゴルは、ポルシェとトヨタの小型車くらい差がある」(モンゴル代表監督ミヒャエル・バイス)

ポルシェはドイツ車。ドイツ人監督のコメントとしては、日本をリスペクトしているのか、していないのか微妙な例えではあるが、それはともかく、バイス監督は森保ジャパンのプレーに大きな感銘を受けたようだ。

特に圧巻の輝きを見せたのは、伊東純也だろう。右サイドを疾走するスピードは、まさに高級スポーツカーの佇まい。裏への飛び出し、ドリブルの仕掛け、ワンツーなど、ご機嫌な走りを見せつけた。

伊東が輝いた要因は、対戦相手にもある。モンゴルは対人守備に長けた4番のDFドゥルグーン・アマラーを、中島翔哉の左サイドへ回してきた。仕掛けの起点となる日本のエースを潰すためだろう。翻って伊東や酒井宏樹の右サイドでは、モンゴルは中央に絞って守備をしており、タッチライン際にスペースが空きやすい状態だった。

おそらくモンゴルは、中央へ移動しながらプレーをする左利きの堂安律の出場を想定したはず。だからこそ、日本の右サイドはある程度空け、中央に絞ったのではないか。ところが、森保監督が右サイドに起用したのは堂安ではなく、縦突破に長けた右利きの伊東だ。これはモンゴルを困らせたに違いない。

この試合の日本は、攻撃の比重がサイドに置かれていた。モンゴルが中へ絞って守備をすること、逆に日本は大迫勇也を欠くために中央突破のクオリティーに不安があること、そして、サイドアタッカーの伊東のコンディションが抜群に良いこと。“サイド攻め”は、様々な条件が重なった上での総合的な判断と評価できる。

また、伊東が輝きを放った背景には、味方の名脇役ぶりもあった。

たとえば、ボランチの柴崎岳だ。前述したように、この試合はサイドにスペースがあった。とはいえ、そのサイドへの配球が、各駅停車の遅いパスになると、相手にスライドして対応する時間を与えてしまう。その点で柴崎のパスは、常にスピードとテンポを伴っており、ある程度の距離があっても、ワンタッチで素早く出す技術も見せた。柴崎のわずかなプレースピードの違いが、伊東や酒井、中島らに仕掛けの時間を与えたのは重要なポイントだ。まさに名脇役。

そして、もう一方のボランチである遠藤航も、特に先制点が決まるまでの間、下がり過ぎず、右寄りから相手のブロックの間に入り込み、パスを中継するプレーを繰り返した。こうした遠藤の動きが、中かサイドか、モンゴルに迷いを与え、伊東や酒井に時間を与えていた。

もちろん、伊東の後方に立った酒井も、思いがけず空いたスペースを見逃さず、積極的に高いポジションを取り、ポルシェ伊東の絶妙な相棒として助手席でサポートした。パスが来てからではなく、ボールが動いている間にスッと出て行く。そのタイミングの取り方が、昔の酒井よりも遥かに洗練されている。

同じ右サイド側のセンターバックに入った、冨安健洋も微妙な工夫が利いている。酒井や伊東に配球する際に、はじめから右サイドを向くのではなく、最初は中央へ向いた状態で、蹴る瞬間に身体を開きながら右サイドへパスを出す。小さなポイントだが、いかにも出すよ、出すよという姿勢で配球するのとは異なり、相手DFのサイドへの反応を一歩遅らせた。このレベルでは当然のプレーだが。

こうした名脇役たちの働きがあり、伊東のスピードはより際立って見えた。

ただし、モンゴルも時間の経過と共に、タッチライン際の伊東や酒井にアプローチできる場面も増えてきた。そこで次の矢を放ったのが、永井謙佑や南野拓実だ。相手サイドバックが伊東へ寄って行くと、空いたDF間のハーフスペースを見逃さず、鋭く飛び出す。

対人守備に長けたモンゴルのセンターバックは、永井の動きにはそれなりに付いていったが、2列目から飛び出す南野はほとんどケアできていない。日本はさらにチャンスを増やすに至った。

この試合で回収したいのは、こうした連係、連動が生み出した二の矢、三の矢の成果だろう。確かに伊東のプレーは圧巻だったが、その1対1ばかりに注目すれば、どの試合も彼のコンディション次第か、あるいは相手が強豪になれば通用しないかもしれない。

その意味で、名脇役たちの働きは重要だった。これらの連係プレーが、大迫や堂安を欠く試合、さらに中島がそれほど目立たない試合でも機能したことは、森保ジャパンの大事なステップになるだろう。

とはいえ、このような的確なプレーを、相手の出方を見ながら繰り出せた要因として、この試合が“遅かったこと”は否定できない。今後、対戦相手のレベルが上がり、攻守が激しく入れ替わるスピード感になれば、状況を見て選手が即興で繰り出すのは難しくなる。

格下との試合は形が見えやすい。だからこそ、この大迫を欠くモンゴル戦で機能した連係を、早い試合でも使えるように整理しなければならないし、その頻度を増やす必要もある。レベル差が大きく、注目度も低い2次予選だが、今のうちに種をまき、芽を育て、やがて収穫の時期を迎えることを期待したい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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