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悪は存在しない。町田vs筑波大、ラフプレー論争のゴール #専門家のまとめ

清水英斗サッカーライター
町田ゼルビア監督 黒田剛(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

12日に行われた天皇杯、J1首位の町田ゼルビアが筑波大学にPK戦で敗れる波乱があった。町田は4人の負傷者を出し、試合後に黒田剛監督が「批判覚悟で言わせてもらうと」と前置きした上で、筑波大のレイトタックル(遅れたタックル)やマナー、審判のジャッジにも苦言を呈した。

大きな話題になったため、様々な記事が出現し、SNSでも黒田監督へのカウンター批判など活発な声が上がったが、論点がこの試合以外に変わっていたり、行き過ぎた批判や誹謗中傷も少なくない。

だが、筆者の視点では、この両チームの中に「悪」は存在しない。悪が存在しないのに、強い言葉が使われすぎている。当事者はどのような気持ちでプレーしていたのか。その言葉を振り返りつつ、この問題に最も優れた視点を示す記事をピックアップした。

ココがポイント

▼発端となった試合後のコメント。負傷者を多く出したラフタックル、更にマナーの欠如に黒田監督が苦言を呈した

まさかの敗戦のJ1町田・黒田監督 判定と筑波大のラフプレー、マナーに苦言「すごく憤り感じる」「大人に向かって配慮に欠ける言葉あった」負傷者続出、骨折の選手も(デイリースポーツ)

▼筑波大の選手に誹謗中傷。小井土監督は故意ではなくアクシデントとした上で相手を慮り、謝罪。選手をかばう発言をした

[関東]J1町田をジャイキリ後に不本意な炎上、筑波大の選手らに誹謗中傷コメントが届く…小井土監督「看過できない」(ゲキサカ)

▼町田の選手たちの思いを伝えた記事。筑波大の選手、サポーター、怪我をした選手など他者を慮る言葉がみられる

天皇杯での“ラフプレー”、負傷者4人、敗戦でSNS炎上…町田の選手たちが語る複雑な思い「僕たちもファウルするために行くわけではない」(ゲキサカ)

▼鄭大世氏による総評。中立で見解を述べつつ、全員の気持ちを思慮しており、SNSでも高く評価されている

「天皇杯」FC町田ゼルビア対筑波大学に思う事。(note チョンテセ(繊細なエゴイスト))

エキスパートの補足・見解

選手を怪我で失った黒田監督の憤りから始まった一件だが、こうして冷静に振り返れば「悪」は何処にも存在しない。結果の大きさから、過剰にエキサイトし、あまりに強い言葉が使われすぎた。昌子源の言葉を借りれば、怪我はサッカーには「隣り合わせ」にもかかわらず。

印象に残ったのは町田MF下田北斗の言葉だ。「正解はない」と語り、自分たちの正当性の主張をせず、「けっして全員がラフプレーをしたくてしているわけではない。相手も含めてそうだと思う」と筑波大側の気持ちも慮った。「あっちが悪い」「お前が言うな」と、悪が存在しない問題で石を投げ合う中、ありそうでなかった態度だった。

本来、この一件は「選手を深刻な怪我から守るにはどうすればいいのか」というテーマで話し合われるべきだったが、先に「誰が悪いのか」で盛り上がり、誹謗中傷によって更に拗れてしまった。

そんな中、下田選手の態度はオアシスのように思えたし、また鄭大世氏の関係者各位を慮った総評もすばらしかった。この話題はいずれ再燃する気がしてならないが、それだけに今、両氏の態度にいいねを押しておきたい。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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