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東京五輪に向けて再始動。なでしこジャパンが7カ月ぶりの活動で見せた3つの好変化

松原渓スポーツジャーナリスト
東京五輪に向けてリスタートしたなでしこジャパン(写真:keimatsubara)

【活発なコミュニケーションがもたらす効果】

 10月19日から26日まで、福島県のJヴィレッジでなでしこジャパンが候補合宿を行った。3月にアメリカで行われたシービリーブスカップ以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、予定されていたすべての代表活動は中止され、先の見えない状況が続いていた。そうした中、徹底した感染対策の下で行われた7カ月ぶりの活動は、東京五輪という一つの目標に向かうチームのエネルギーがほとばしり、リスタートに相応しい濃密なものとなった。

 今回招集された23選手は全員が国内組。今季リーグでのパフォーマンスが評価軸となり、代表経験が浅い選手や新戦力にもチャンスが与えられた。新しい顔ぶれの選手たちも普段から対戦相手として顔を合わせているだけに溶け込むのは早く、トレーニングは活気に満ちていた。そして、今回の合宿ではチームに3つの大きな変化が見られた。

 一つは、選手個々がこれまでより積極的に発言するようになったことだ。経験のある選手だけでなく、20代前半の中堅世代が率先して練習を盛り上げ、ピッチ上でも活発な意見交換が見られた。

 DF清水梨紗は24歳。平均年齢が24歳前後の現代表ではちょうど中堅世代にあたる。21歳で代表入りした当時は若手だったが、コンスタントに呼ばれ続けてきた中で「ずっと感じてきたこと」を今、行動に移している。

 

「ベレーザでも代表でも若手の年代ではないので、自分が引っ張らなければいけないという気持ちが強くなっています。代表では年齢が真ん中の位置にいるので、(年)上と(年)下をうまくつなげられるような存在になれたらいいですね。(普段から)同じサッカーをしている選手たちではないので、相手のサッカー観を自分が取り入れることも必要だと感じてきました。自分が思ったことを伝えながら、相手の意見を聞くことも大事にしています」

 清水はスピードとスタミナを生かした粘り強い守備と攻撃参加を武器に、代表の右サイドバックに定着して3年目になる。今季は所属の日テレ・東京ヴェルディベレーザでキャプテンを務めており、プレー面でも精神面でも進化を続けている。

 また、昨夏20歳でW杯メンバー入りしたセンターバックのDF南萌華(浦和レッズレディース)も、「上の人についていくだけではなくて、自分からの発信を、オフの部分でもオンの部分でも増やしていかなければいけないという自覚はあります」と語っていて、頼もしい。2018年のU-20W杯ではキャプテンとしてチームを優勝に導くなど、元々リーダーの資質を示してきたが、今季は首位の浦和のリーグ最小失点の堅守を支えており、代表での発信力にも期待がかかる。

U-20W杯優勝メンバーの南萌華(左)と北村菜々美
U-20W杯優勝メンバーの南萌華(左)と北村菜々美

 今回の合宿を通して、前線からのプレッシングとセットプレーの守備の強化を集中的に取り組んだことも、一つの変化と言える。

 攻撃のベースとなるボール保持力を高めるために、前線からのプレスのかけ方がより細かく提示された。高倉麻子監督はその狙いについて、「海外勢との対戦では、国内のレベルとは違う強度やスピードで(プレスを)外されることが多々あったという選手の経験を基に、細かいところを詰めていきました」と語っている。練習では、相手をより高い位置から追い込んでボールを奪うために選手間の距離やアプローチを調整したり、守備のスイッチを入れるタイミング、ボールの状況に応じたポジショニングなど、プレーが止まるたびにディスカッションを重ねていた。「トライ・アンド・エラー」で、積極的にチャレンジして出てくるミスを修正していこうというポジティブな雰囲気があった。

 練習中、前線の選手にひときわ明快な指示を送っていたのがDF鮫島彩だ。2011年のドイツW杯優勝経験を含め、ロンドン五輪、カナダW杯と合わせて世界大会で3度の決勝戦を戦った鮫島は、守備における「声」の重要性をこう語る。

「世界の強豪に勝つことにベクトルを向けた時に、声かけをせずに簡単にボールは取れないし、細かい部分に着目していかないと勝負どころでは勝てないと思います。今までのなでしこ(代表)の先輩たちからも『ここまで細かいところを全部確認していくんだ』と、刺激を受けて学んできました。世界のサッカーのレベルがあの頃より上がっていることを考えても、そういうところを自分たちで突き詰めていくことは、昔以上に必要だと思います」

 FIFAランク上位の女子サッカー強豪国は攻撃だけでなく守備も年々組織的になっており、鮫島が言うように世界で勝つための基準は上がっている。その中で食らいついていくためには個々の成長だけでなく、攻守の連係面でどれだけ細部にこだわることができるかが鍵になる。

 海外勢のパワーやスピードを想定し、4日目と7日目にはそれぞれ、男子のふたば未来学園高校(○2-1)といわきFC U-18(●1-3)とのトレーニングマッチが組まれた。いわきFC U-18戦は相手のプレッシャーも強く、特に前半は攻め込まれる場面が多かったが、後半は効果的にボールを動かせるようになり、前線からの連動した守備で流れを引き寄せる場面もあった。

 セットプレーも同じだ。男子選手との合同トレーニングでは、身体能力の高い相手を「自由にさせない」ことをテーマに、状況に応じたポジショニングを再確認。セットプレーは課題の一つであり、これまで以上に時間が割かれていた。

セットプレーの練習にも時間が割かれた。鮫島彩(右から2番目)の経験値の高さは突出している
セットプレーの練習にも時間が割かれた。鮫島彩(右から2番目)の経験値の高さは突出している

【新たなレギュラー候補も】

 3つ目の変化は、中盤と最終ラインの競争力が増したことだ。初招集のMF伊藤美紀(INAC神戸レオネッサ)、MF塩越柚歩(浦和)、MF脇阪麗奈(セレッソ大阪堺レディース)の3名が候補に加わった中盤は一気に激戦区となった。

 脇阪はボランチが主戦場だが、紅白戦ではサイドバックでプレーする場面も。塩越はサイドハーフで、流動的に動きながら積極的にボールに関わる動きを見せた。伊藤は本職のボランチで、持ち味の縦パスを積極的にトライしていた。MF林穂之香(C大阪堺)も、フル代表での経験は浅いが、ボランチとして積極的にボールを呼び込み、ふたば未来学園高校との試合ではセットプレーのこぼれ球から決勝ゴール。「体が大きくない(157cm)ので、男子や海外の選手とプレーする場合は足で奪いに行くだけではなくて、体全体で力強く当たることを意識しています」と、男子選手相手にもコンタクトを恐れないプレーが光った。

 新戦力の活躍に、レギュラー組も奮起を見せた。ボランチのMF三浦成美(ベレーザ)は、ライバルが増えたことに刺激を受けていることを明かしつつ、「今までよりもビルドアップや、パスがつながる部分が多く、今後が楽しみです」と、新しい選手とのコンビネーションに手応えを示した。

 レギュラー組の中でも、ボランチのMF杉田妃和(INAC)とMF猶本光(浦和)はそれぞれ左サイドハーフと右サイドハーフでプレー。いわきFC U-18との試合では、杉田が持ち前のテクニックを生かしたボールキープと積極的な攻撃参加で試合の流れを引き寄せていた。杉田は元々複数のポジションでプレーできるため、頭の切り替えは早い。サイドハーフのポジションについて、「プレッシャーの(アプローチの)速さや、守備から攻撃にかけて強さを出せるのは(自分の)いいところだと思うし、そこはしっかり出していきたいです」と、好感触を示していた。

 センターバックは、今回、海外組のDF熊谷紗希が参加せず、本職のセンターバックは南だけだったが、ボランチと兼任できるDF市瀬菜々(マイナビベガルタ仙台レディース/負傷のために22日に離脱)とDF松原有沙(ノジマステラ神奈川相模原)のほか、鮫島もセンターバックでプレーできる。そして、今回新たな候補に名乗りをあげたのが、MF宝田沙織(C大阪堺)だ。

 宝田はスピードとテクニックがあり、セットプレーでも170cmの高さは強力な武器になる。FWからDFまでどこでもプレーできるマルチプレーヤーで、代表では昨夏のW杯にFWとして出場している。W杯が代表初招集というサプライズ選出だったが、いきなり大舞台を経験しているだけに、代表の雰囲気にも慣れてきたようだ。所属のC大阪堺では今季センターバックでプレーする機会が多く、「代表のFWと戦うことが多いので、90分間集中して守らないとやられてしまう。そこは、試合を重ねるごとに成長している部分だと思います」と、経験を重ねて自信もつけている。代表では今回初めてセンターバックでプレーしたが、卒なくこなしていた。場数を重ねれば、確実に戦力になりそうだ。

個々が積極的に発信し、練習の雰囲気も活性化。センターバックは宝田が台頭した(左から北村菜々美、宝田沙織、三浦成美、清水梨紗、長谷川唯)
個々が積極的に発信し、練習の雰囲気も活性化。センターバックは宝田が台頭した(左から北村菜々美、宝田沙織、三浦成美、清水梨紗、長谷川唯)

 GKは、山下杏也加(ベレーザ)と池田咲紀子(浦和)のレギュラー2人の壁は厚いが、今回はリーグ戦で好調を維持している山根恵里奈(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)が久々に招集された。男子選手とのトレーニングマッチではゴール上ギリギリへの強烈なシュートを余裕で止めるなど、188cmの長身の魅力を見せつける場面もあった。W杯メンバーのGK平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)がケガから復帰すれば、争いは再び激化しそうだ。

 

 FWは今季のリーグで結果を出している選手が多く、今季得点ランク首位を走る菅澤優衣香(浦和)がケガのために不参加となったが、岩渕真奈(INAC)、田中美南(INAC)、上野真実(愛媛FCレディース)、小林里歌子(ベレーザ)の4人が参加。これまでに比べて人数は少なく感じるが、そもそも五輪18枠の中で FWは多くても5名だろう。ヘディングやドリブルなど、それぞれに強烈な武器を持ち、2列目でもプレーできる選手が多いため、新しい選手が割って入るのはかなりハードルが高そうだ。 

 経験、実績ともに中心となるのは岩渕だろう。田中は昨年まで所属していたベレーザではゴール前にどっしりと構えて点を取ることが多かったが、今季からINACに移籍し、「長い距離を走って相手をかわしたり、ためを作って味方に出すことを意識するようになりました」とプレーの幅を広げたことを明かしている。また、小林はゴールに向かう力強さが増しており、ふたば未来学園高校とのトレーニングマッチで先制点を決めた。上野(愛媛FCレディース)は、ボールキープが安定しており、いわきFC U-18戦でゴールを決めてアピールに成功している。

 新たなリーダーの誕生、守備の強化によるコミュニケーションの活性化、そして各ポジションの競争激化。今回の合宿で3つの好変化を見せたなでしこジャパンは、11月にも国内合宿を予定している。次の合宿時には、なでしこリーグの順位も決定している。

 年内の代表活動を締めくくるのはどのような顔ぶれになるのか、この1カ月間のリーグの動きから目が離せない。

監督・選手コメント

※文中の写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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